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インタビュー 蛯名健一

人種差別以上にこの国は認めてくれる人の割合は多い

ガチ!BOUT. 156

 

EBIKEN-big

米NBCの人気オーディション番組「America’s Got Talent」(2013年9月18日)で、日本人初の優勝を遂げたダンスパフォーマーの蛯名健一さん。優勝賞金100万ドル(約1億円)を獲得し、まさ にアメリカン・ドリームをつかんだ。優勝の興奮冷めやらぬ翌日に、番組出演のエピソード、裏話などざっくばらんにお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

America’s Got Talentで日本人初優勝

優勝から一晩経ちました。まずはおめでとうございます。

蛯名 すごいうれしいですし、光栄ですね。ありがたいことなんですが、取材やお祝い(メッセージ)にまだ対応が追いつかないというか…。

一躍、“時の人”ですよね。世界で最も有名なオーディション番組で初めて日本人が優勝したわけですから。

蛯名 これはかなり大きいことですねー。アポロとかいろいろ(な大会でも優勝)しましたけど、影響力が全く違いますし、全国区な分、その後の世間の反応がだいぶ違いますね。

もともと「America’s Got Talent」は蝦名さんにとってどういった意味合いのある番組だったでしょう。

蛯名 歌からダンスからコメディーから、ホントに何でもありなので、僕としては出場するなら、これだな! って思ってましたね。それはパフォーマーとしてって意味なんですけれど。実は、僕、ダンサーとしての技術はきわめて低いんですね。

え?

蛯名 実際のダンスの技術は全然、ダメなんです(笑)。それは自分でよく分かってるんです。

優勝者から聞くと、謙遜にしか聞こえませんが…。

蛯名 自分の売りは演出だったり、構成だったり、アイデアだったり、ディレクター的な要素なんです。いわゆるダンサーっていうくくりの中では、自分なりには一所懸命、頑張ってきたんですけど、それだけだと確実に勝ち目はないんで。技術を向上して、細かい玄人的なパフォーマンスができても、一般の人には伝わらなかったりするんですよ。僕は一般の人に興味を持ってもらいたかったので、あんまり突き詰めすぎて職人のように技を追求するつもりはなかったんですね。

ダンスの技術一本で勝負しても、今回の優勝はなかったかもしれない、と。

蛯名 かも、っていうか、確実にないですね(笑)。ダンス一本だけでやってたら(優勝は)絶対になかったと思います。この先も総合的なパフォーミングアートとして、演出とかをやっていきたいので、一つの試金石として(大会を)利用しようと思ってました。ある意味、リスキーと言えばリスキーだけど、負けたとしても、今後のためのいいマーケティングができたら、自分の中では勝ちでした。

なるほど…。ただその結果、優勝してしまいました(笑)。昨夜は僕もテレビで拝見して、優勝したその瞬間はどんな気持ちなんだろうと想像していました。

蛯名 えー、実はいろいろ、複雑でした。

複雑?

蛯名 いや、うれしいのはうれしかったですよ、もちろん。ただ正直、自分の中でのベストポジションは3位だったんです。優勝より3位の方がうれしかった。

それは客観的に見て、自分が3位のパフォーマンスだったからですか。

蛯名 それもあります。本来は彼が優勝すべきなのに、とか考えちゃいました。罪悪感みたいなものもあったし。これはやった! って思えるようなパフォーマンスができたら自分でもすんなり納得できて喜べたと思うんですけど。それに、ジンクスがあるんですよ。基本的にこういうのって優勝した人はほとんど成功しない。(笑)

準優勝くらいの方がいいんですか。

蛯名 の方が、世間票を勝ち取れるんです。

「M―1(グランプリ)」みたいな。

蛯名 (無視して)”you should won”の方が今後の自分のビジネスにはやりやすかった部分もあるんです(笑)。大体1位になっちゃうと、世間からはバッシングが入るんですよ。2位の方が同情票が集まる(笑)。過去、(英版での)スーザン・ボイルもそうですけど、成功してる人は誰も優勝してない。みんな注目を浴びるのはオーディションなんです。オーディションで全てが決まるって感じなので、自分としてはオーディションにインパクトのあるものを持ってきたんですね。

ただ、今後の展開にプロフィルの欄に「America’s Got Talent優勝」が入るのはとても大きいことですよね。

蛯名健一蛯名 日本では特にそうかもしれないですね。でも僕の経験上、こういうのって世間的にもって大体1カ月くらいなんですよ。長くて。それ以降は忘れられていくものなんです。大体そういうトレンドとか、ホットニュース的なものって当然、1カ月もしないで、忘れられていくもんなんですね。それよりも、業界の人やリサーチの人が過去(の受賞歴)からも探して引っ張り出してくれるので、そこから仕事がもらえたり、話が広がる可能性はあるので、そっちの方が大きいかもしれないですね。

冷静ですね…。話を聞く限り、蝦名さんはダンサーというより、いわゆるディレクターというか、自分のキャリアアップを常に考えているビジネスマン的な要素を持ったプロデューサーって感じですね。

蛯名 マネージメントも含め、全部自分でやってきたからってこともあると思うんですけど。でも、それはアメリカに来てからですねー。日本にいたら、多分、どっかその辺に就職して、サラリーマンやってたと思います。それはそれで楽しんでやってたとは思うんですけど。

日本の話が出ましたが、日本でするパフォーマンスと北米他、世界でするパフォーマンス、気持ちの上で違いはありますか。

蛯名 パフォーマンス自体、僕好きなんですよ。楽しんでお金がもらえるわけじゃないですか。仕事になるわけじゃないですか。だから、世界中どこでも関係ないです。パフォーマンス自体が楽しいので。

 でも、そのために日ごろからハードなトレーニングを積んでいるわけですよね。

 蛯名 いやっ、そんな(笑)。それもよく言われるんですけど、全くトレーニングしてないんです。ダンスの練習自体、全く…(笑)。元ダンサーだったカミさんにも「こんなに練習しないダンサー見たことない」って…。

一日数時間の基本的な練習しかしな…。

蛯名 (さえぎって)いや、全くしないんです。(きっぱり)

してください。(笑)

蛯名 昔はしてましたよ。学生時代というかダンスを始めたころは。でも、どちらかというと、考えることの方が楽しかったですね。さっきも言ったように、技術だけで勝負するのは限界があるって当時から気がついてたんですね、多分。こういう動きをして、こういう演出をして、そうすれば、客席からこう見えて…って。実際、フィジカルな練習は、やるとすぐ体、痛くなっちゃうんです。翌日の筋肉痛がひどくって…。

蝦名さん、本当に「America’s Got Talent」の優勝者ですよね?(笑)

蛯名 今回はさすがにデカイ大会なんで、ちょっと練習したんですよ。特に新しい作品も出したので、普段使わない筋肉のトレーニングをして…。で、本番、すごい筋肉痛になっちゃって、ガチガチになっちゃって…。

ダンサーのセリフじゃない(笑)

蛯名 よく人に「どんな体してるんだろう」って言われるんですけど、それも困るんですよね(笑)。僕がやってる動きって一般の人から見たらスゴかったりするかもしれないんですけど、ダンサーからすると、全然大したことないんです。ある程度、その道でやってる人であれば、誰でもできるんです。基礎的なものばかりで…。でも、一般の人にそう見せないのが演出、というか。ダマすのが得意なんですね(笑)。僕のパフォーマンスは演出的なものを含めて初めて成り立ってると思います。

それでも、あの番組で日本人が優勝した事実は、ダンサーに限らず、多くの日本人パフォーマーを勇気づけたことと思われます。

蛯名 日本人って才能とか技術のあるパフォーマーって実はめちゃくちゃ多いんですよ。「世界に通じる」って言い方しますけど、日本人の方が優れてることが多かったりするんです。言い方悪いですけど、世界の方がショボイ場合が多い。僕なんか「世界で活躍できてスゴイですね」ってよく言われるんですけど、逆なんです。世界だからやってこられたと思うんです。日本人は多分、マーケティングがヘタなだけなんですね。構成や演出の部分が負けてるだけで、一つの分野での玄人的なこだわりや技術に関しては日本人の方が絶対上なんです。文化的に(自分を)プロモーションができないだけだったりするんですね。だから、僕なんかは、日本の埋もれてる才能や人材を、今後は海外に見せられたらいいなって思います。

今後は後輩の育成にも力を入れていきたい、と。

蛯名 もちろん、自分だけのワンマンショーも世界のあらゆるところでやりたいですよ。まだ体が動くうちに(笑)。あとは、やっぱり演出的な物に携わっていきたいです。先日、決まりましたけど、東京五輪の開会式とかに関われたらいいな、って思ってますね。

夢を持ってこの国に来た日本人にアドバイスはありますか。

蛯名 この国は人種差別うんぬんってよく言われますけど、逆に認めてくれる人の割合は日本より多いと思うんです。僕だって日本人で、その中で投票してもらって優勝することができた。それって、多くの人が認めてくれたってことですよね。認められるものがあれば、認められる。

人を認める度量はこの国の方が大きいかもしれないですね。

蛯名 間違いなくそうだと思います。あとは、見方をちょっと変えてみると、案外、楽に成功できる道があるというか。再三言ってますけど、僕がもしダンサーとして一本で成功したいなら、“ベスト”になるしかない。でもベストになるには競争相手が多すぎるんです。そら並大抵の努力じゃ無理なんですね。で、僕は努力が大嫌いなんですよ(笑)。なるべくラクして生きていきたいと思ってるんです。そうすると、人と違った方向に進むと、途端に競争相手がいなくなるんですよ。

ダンサーとしてだけでなく、兼ディレクターはそういない、と。

蛯名 日本だと、ヘタするとあれはダンスじゃないって批判されるかもしれなかったです。アメリカ人だと、楽しければそれだけで評価してくれる。“コングラッチュレーション”って声を掛けてくれるんですよ。やっぱりチャンスは転がってる国だと思いますね。

蛯名健一(EBIKEN)1994年に留学の為渡米し、在学中に趣味としてFreestyle Hip-Hopダンスを始め、Poppin’, Lockin’, House, Jazz, Contemporary, パントマイム民族舞踊など、様々なジャンルのダンスを独学で学ぶ。ダンス以外にもイリュージョン効果のある効果音や手品、映像などを使ったユニークなEBIKENのショーはダンスや舞台芸能に興味のない人にも楽しまれている。公式サイト:www.ebinaperformingarts.com

EBIKENのその他の主なソロ活動経歴

– 日本TV番組、「KAMIWAZA~神芸~」にて優勝

– LAタレントコンテスト「Kollaboration 9」にて優勝

– 全米TV番組、「Maury Show」に出演 <ビデオ

– フランスTV番組、「Le Plus Grand Cabaret du Monde」に出演

– 中国国営中央局TV番組、「国際幽黙大公演」に出演

– 湖南TV番組「コメディーの王様」に出演

– 日本TV番組、「ズームインSuper」「はなまるマーケット」「スッキリ!!」「ギルガメッシュLIGHT」「エルムンド」「世界1のShowtime」「金曜日のスマたちへ」「火曜曲」に出演

– シルク・ドゥ・ソレイユのスペシャルイベントにソロ作品とメインキャストとして出演

– ディズニーのクルーズ船、「ワンダー号」のカリブ海ツアーのショーで出演

– 2011年 F-1モナコグランプリのアフターパーティーにて出演

– 「シンガポール Best Dance Crew」にて審査員、ワークショップ、ゲスト出演

– 2009年全豪オープンテニス、メインショー「Absinthe」に2週間レギュラー出演、メルボルン、オーストラリア

– ヨーロッパ最大のエイズチャリティーイベント「LifeBall 2009」に出演、ウィーン、オーストリア

– イスラエル友好60周年交流イベントに出演、テルアビブ、イスラエル

– マドンナやサイモン・コウェル、モロッコ王国の王族などセレブのプライベートパーティーにてゲスト出演

– アルビン・エイリーダンスカンパニーのサマーキャンプ 講師

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2013年10月12日号掲載)


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