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インタビュー 桐野夏生

英語版はラストが違う

  「ガチ!」BOUT.5

 

 

エドガー賞最優秀作品賞最終候補にノミネートされた「OUT」に続き、先日、英語版第二作目となる「グロテスク」が発表された作家の桐野夏生さん。日本社会における 女性の寂しさや孤独など、登場人物の心の奥底を生々しいまでに描写する、桐野夏生作品。小雨の降る水曜日のニューヨーク、出版社Alfred・A・ Knopfの一角にて、桐野さんにお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

「グロテスク」米国出版

まず今回の「グロテスク」英語版の出版に至った経緯を教えてください。

桐野 前回、一番最初に「OUT」を講談社インターナショナルから出させて頂きました。その後突然、ICMっていうエージェントのアマンダ・アーバンっていう人から、「次の作品をやりたい」ってメールが来たんですよ。

アマンダ・アーバンって聞いたことあるなって思ったら有名な方で、ちょっと興奮しちゃって(笑)。たまたま「OUT」のキャンペーンもあったので、こっち(アメリカ)に来て、出させて頂くことになりました。

数ある作品の中から何故「グロテスク」を今回選ばれたのでしょう。

桐野 (エージェントが)「是非グロテスクがいい」とおっしゃってくれたので。「OUT」は単純なストーリーというか話し自体が強いので、それがアメリカで受けるっていうのは分かるんですけれども、正直言って最初は「グロテスク」みたいな作品を(アメリカの人達に)わかって頂けるかなって危惧はありましたね。

翻訳作業において、気をつけられた点は?

桐野 (エージェントに)最後の場面だけどうしても頷けない結末だから変えたいって言われました。語り部の主人公が街に出て身を売るラストが、どうしてもだめだって言うんですね。だから英語版は、身を売りに外に行くという場面で終わりにしました。

そこらへんはこちらのエディターを信頼しましょうって。

(オリジナルと)今回の英語版はラストが違います。やっぱり国によって、違う感情ってあるから。違う価値観ってあるから。欧米バージョンに合わせる事が絶対に嫌!とかそういうのはないですよ(笑)。

話の持つ意味合いが変わってきてしまうのでは?

桐野 (オリジナルでは)ファンタジーから現実になって終わったのが、逆にこっち(英語版)は現実からファンタジーで終わらせていく。あぁ、そういう風に読むのかって、こっちも驚きがあって。じゃあ、いいやって(笑)。固執するのはやめようと思いました。

アメリカという、違う文化圏の人々に感じ取ってもらいたいところは?

桐野 物事は両面を見なければならないと思うんです。良い所も悪い所も絶対に表裏あるので。身を売ることが悪いんじゃなくて、それが解放であるっていうのがひとつのテーマなので。そこをどういう風に取られるか。なにしろ、キリスト教文化圏じゃないですか。だからちょっと不安だったんですけど。

前回のエドガー賞授賞式での「日本が世界に追いついてきたんじゃないか」という先生の発言がとても印象的でした。

桐野 最近はね、もしかしたら日本が一番の文芸国かもしれないなって思いました。アメリカも元気ないですし。ヨーロッパはまだ伝統があるけど。日本が追いついてきたっていうよりも、システム的に輸入ばかりだったのが、輸出できる側になったのではないかと。そういった部分で追いついてきたんだと思います。

今後の作家活動に世界やアジアを意識されますでしょうか

桐野 それはないですね。やっぱり(私の中では)日本が一番です。日本で生き抜いていかないとだめだって思ってますので。世界とかは全然意識したことないし、これからもないでしょうね。

最後にニューヨークの印象は?

桐野 うーん、毒がなくなりましたね(笑)20年前に来た時はもっと、みんな意地悪で。でも落ち込んでるときは毒をもって毒を制すというか、逆に元気が出るんですけど。年々マイルドになりますね。毒が消えちゃって…。でも実は世界で一番好きな街ですよ、日本以外で。

ニューヨークの日本人にメッセージを。

桐野 海外に住まれるのって大変なことじゃないですか。なかなか得難い経験だと思います。でも、それっていい人生ですよね。

 

桐野夏生(きりの なつお) 職業:作家
1951年金沢生まれ。成蹊大学法学部卒。会社員を経てフリーライターになり、84年第2回サンリオロマンス賞佳作「愛のゆくえ」でデビュー。93年第39回江戸川乱歩賞受賞作「顔に降りかかる雨」で本格デビュー。98年日本推理作家協会賞受賞作「OUT」でブレイク。99年「柔らかな頬」で第121回直木賞を受賞。03年「グロテスク」で泉鏡花文学賞を受賞。04年「OUT」でMWA(Mystery Writers of America)賞(エドガー賞)の最優秀長編賞部門にノミネート、「残虐記」で第17回柴田練三郎賞受賞。05年「魂萌え!」で第5回婦人公論文芸賞受賞。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 


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