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インタビュー 桂小春團治(1)

“笑っている限り、争いは起こらない”

「ガチ!」BOUT. 70

 

main-koharu-70-桂小春團治

 

扇子と手ぬぐいを用いたユーモラスなしぐさと独特の口調で聴衆の笑いを誘う日本の伝統芸能「落語」。この面白さを海外の人にも味わってほしいと、世界12カ国で上方落語の公演を行っているのが3代目桂小春團治師匠である。独自の字幕方式による海外公演には毎回多くのファンが詰め掛け、高い評価を得ている。海外公演をスタートして10年目となる今年2月、世界有数のコンサートホールであるカーネギーホール、さらには多くの世界会議が行われる国連本部ビルでのニューヨーク公演を成功させた小春團治師匠に、今回の公演について、また海外で落語を行う意義についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

世界12カ国で公演して10年目、国連とカーネギーホールで公演

国連、カーネギー(ホール)、と立て続けの公演を終えられました。今のお気持ちはいかがですか。

小春團治 まあ、なんとか終えられたなと、ほっとしてます。国連ともカーネギーホールともかなり長い間交渉して、やっと実現した公演ですからね。

落語の公演を国連でするというのは師匠ご本人のご希望だったのですか。

小春團治 そうですね。今年は海外公演を始めてちょうど10年目の節目ということと、ニューヨーク公演も今回で2回目ということで、ステップアップした形でやりたいというのがあったんです。いろんな国の人が混在する場所で、文化も言葉も肌の色も違う人たちが同じ落語を聞いて笑っている、そういう平和な光景が見たくてね。それに一番ふさわしいのは国連じゃないかなと。貸してくださいと言って借りられる場所じゃないので、かなりいろんなルートからこの2年間アプローチして、何度か頓挫(とんざ)したりもしましたけど、最後は何とか実現しました。

公演が決まった時、どんなお気持ちでしたか。

小春團治 本当に借りれるの? 本当かな? と耳を疑いました。でも2年間かけてきたことがやっと実る! 第一歩が踏めた! という気持ちでしたね。

国連での落語公演は史上初と聞きました。

小春團治 そうですね。後から分かったことなんですけど、国連の会議室では落語はおろかコメディーも初めてらしいんです。(公演後)担当者の人が非常に面白かったんで、毎週金曜日はそういう民族的なイベントをやってもいいねとおっしゃってました。ひょっとすると今回をきっかけに国連の会議室でいろんなイベントが行われるかもしれないなあ(笑)。その先駆者になれたんじゃないかなという気もします。

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公演を行う桂小春團治さん。スクリーンには各国語の字幕が表示された=2月19日、マンハッタン区の国連本部(©Live Act International)

カーネギーホールもすごいところです。

小春團治 カーネギーも落語を公演するのは初めてのことらしいんですよ。どうもコメディー自体、カーネギーでやったことがないらしいんです。音楽の殿堂であれだけ笑い声が響きわたったことは、ひょっとしてカーネギー史上初めてだったかもしれない。

今まで世界12カ国で講演されてこられました。国連、カーネギーは今まででも特別なのではないでしょうか。

小春團治 こんなにもいろんな出身地の人が混在している中での公演は初めての経験でした。でも、国連でもカーネギーホールでも同じようにウケていたので、あらためて落語はどこへ行ってもウケるっていうことを、ここニューヨークで証明できたような、そんな気がしましたね。

日本でやる場合、海外でやる場合など、観客によって変えられていることはありますか。

小春團治 やり方自体を変えることは実はないんです。ただ、外国人相手の字幕を使っての公演なので、なるべくゆっくり喋り、字幕を読んでからこっちに目が戻ってくるように心掛けています。僕の言っていることは直接外国の人には分からないと思うんですけど、目を戻すと僕の表情ががらっと変わっている、それによってみんなのイマジネーションが広がる。落語っていうのは、扇子と手ぬぐいだけを使って、それをいろんなものに見立てるイメージ芸なんですが、確実にそのイメージが伝わって、みんな笑っていましたね。単に面白い字幕を読んで笑っているのではなく、落語の本当の部分で笑ってるんだなと感じました。

字幕落語って、やる側としてはとても難しいものではと思ってしまいます。

小春團治 ええ、タイミングが非常に難しいんですよ。特に、今回は初めて一緒にやるオペレーターだったうえ、英語、フランス語、スペイン語、中国語の4カ国語の字幕でしたからね。

言葉のニュアンスとか、翻訳にもやはり気を遣ってらっしゃるんですよね。

小春團治 そうですね。コメディーなんで正確に訳すのではなく、その場に合った形で訳すようにしています。翻訳の方にお任せ状態で、実際はどの程度くだけた表現で訳されているのか、どんなふうに訳されているのかはぶっつけ本番で見るお客さんの反応で判断するしかないんですよ。でも、皆さん「訳が素晴らしかった」 「字幕のタイミングも良かった」と言うてくれましたし、やってて笑いのタイミングのズレもなく返ってきましたね。

ちなみに今まで公演された国で一番やりやすかった国はどこでしょうか。

小春團治 やりやすかったと言いますか、なぜか一番ウケたのはブルガリアの高校での公演ですね。

ブルガリアの高校(笑)。

小春團治 ソフィア第18高校(笑)。みんなびっくりするくらいノリが良くってね、考え落ちで浮気の話なんかもしたんですけど、高校生が浮気ネタに、しかも考え落ちなのにとっても笑っていたのを覚えていますね。

師匠はなぜ、世界各国で落語の公演をされるのしょう。

小春團治 どこの国に行っても、公演後、「日本人も冗談言うんですね」って言われるんですよ。日本人のイメージって、いまだに“ステレオタイプ”なんですね。みんなグレーのスーツを着て、メガネ掛けて、夜遅くまで仕事して…。ルールはきっちり守るけど、冗談は言わない。日本人がコメディー? しかも、日本に350年も前からの古典で笑えるものがあるの? って、落語を見る前はみんな半信半疑なんですよ。落語みたいなスタイルのコメディーは世界のどこにもないですからね。こんなに面白いもんが日本にもあるんだと、日本人もアホなことを言うんだと、落語のような庶民芸を通して日本人を身近に感じてもらいたいんですよ。

なるほど。

小春團治 そしてもう一つ、先ほども言いましたけど、いろんな国の人たちが、同じ落語で笑い合う、そんな平和な時間をみんなで共有したい。笑っている限り、争いは起こらないですからね。

今後もまた、ニューヨークで公演してくださいますか。

小春團治 ぜひとも機会があったらやりたいですね。ニューヨークというのは、いろんな人が集まる人種のるつぼですし、世界に物事を発信する場所ということでも、ニューヨークでの公演には大変意義があると思っています。

最後に、読者にメッセージをいただけますでしょうか。

小春團治 自分がやりたいことを一生懸命やっていると夢は現実に近づいてきます。現地の日本の方とお話ししたことがありますが、みんな夢や目的を持ってここにいるし、コツコツ努力して夢を実現した人も多い。あきらめちゃいけない、ずっと夢を持ち続け、実現に向けて歩いている間に夢はやって来るもんだと、今回僕自身が身をもって感じました。また、どこの国での公演でも、結構日本人のお客さんが来られるんですよね。日本にいた時は、いつでも聞けるからわざわざて見に行こうと思わなかったけど、外国で落語を聞くチャンスはそうそうないので、この際行ってみようと。そして初めて聞いてみたら、落語ってこんなに面白いもんだったのかと再認識してくれる方が多いんですよ。またニューヨークで日本人向けの落語会を行いたいと思っていますので、その際はぜひお越しください。

 

桂小春團治(かつら こはるだんじ)職業:落語家
大阪府出身。上方落語協会会員。1977年、3代目桂春團治に入門し、97年、文化庁芸術祭新人賞を受賞。99年、3代目桂小春團治を襲名。2000年からは字幕を使った海外公演も行い、現在までに英・仏・独・露・フィンランド・ノルウェー・ベルギー・ブルガリア・韓国・トルコ・カナダなど12カ国で披露。3年前には落語家初のオフ・ブロードウェイ公演を果たし、今回で2度目のニューヨーク公演となった。06年、文化庁より文化交流使に任命され、「ニューズウィーク」日本版では「世界が尊敬する日本人100」に選ばれた。また、同年には、落語家として初となる落語のNPO法人「国際落語振興会」を設立。07年には文化庁芸術祭優秀賞を受賞。創作を得意とした約45の持ちネタがあり、今回のニューヨーク公演では「お玉牛」「皿屋敷」「ちりとてちん」創作落語「冷蔵庫哀詩」「さわやか侍」などを披露した。

(2010年3月20日号掲載)


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