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インタビュー 野村萬斎

「型」を見せるためでなく「人間」を描きたい

「ガチ!」BOUT.221

野村萬斎

現代に生きる狂言師、野村萬斎―。人間国宝である父、万作が立ち上げた「万作の会」を意志と共に受け継ぎ、父の時代以上に海外での日本伝統芸能普及のため積極的に公演を行っている。先日もニューヨーク州立大学ストーニーブルック校内の劇場で、万作の会による「狂言:日本の中世喜劇」を上演。多くの米国人学生から賞賛と拍手を受け取っていた。公演後、お時間を取っていただく。 (聞き手・高橋克明)

 

NY州立大校内の劇場で狂言上演

最後は観客からカーテンコールも起こる大盛況でした。

萬斎 非常に親日的な感じで見ていただけたのは(舞台の上からでも)伝わってきましたので、来て良かったですね。喜んでもらえてうれしいです。

もう何度も東海岸での舞台は踏まれています。“アウェイ感”は、ないですね。

萬斎 海外でやるのも、いつの間にか慣れましたね。まぁジョークを時折織り交ぜながら(笑)あんまり堅苦しいばかりではなくて、ちょっとアメリカナイズしてた感じでね。

海外の中でもニューヨークの舞台はいかがでしょうか。他の都市と観客の反応は違いますか。

萬斎 例えばロンドンだともっと保守的な感じですよね。やっぱり自分たちの価値観にこだわりがある。(この舞台が)自分たちに必要な物を与えてくれるかどうかという目でいつも見ている感じですね。それに比べればニューヨークは、もっと、なんというか「フリーマーケット」な感じがします。いい意味で雑多だけれども、「いろいろな文化が混ざり、その中で見極める力」というものを感じますね。(アメリカでも)場所によってはもっと保守的なエリアも当然ありますが、ニューヨークは、さまざまな国のさまざまな文化を背負った人たちが共存している分、ある意味、寛容な部分はありますよね。

さまざまな文化を受け入れやすい土壌である、と。

野村萬斎

萬斎 でもね、寛容であるが故に、そこで一定の評価を得るのは厳しい街ともいえると思います。淘汰(とうた)される可能性もある。それも含めて、やっぱり、文化芸術の第一都市と言えるんでしょうね。もちろんロンドンもニューヨークも好きな街ですよ。結局はイギリス人も、アメリカ人も「面白いか、面白くないか」で観てくれるわけですから。

先代から「万作の会」は海外公演をやられていて、それを引き継ぐ形で萬斎さんも力を入れておられますが、どういった意図でしょうか。

萬斎 それは、やっぱり古典芸能というものの力試し、ですね。他のジャンルと拮抗(きっこう)して、負けているとお客さんは来ないですから。国や文化は違えど「いいものはいいんだ」ということを証明したいのかもしれません。例えば、少し前までは海外で評価されると自国(日本)での評価につながった時期もあったと思うんです。特に高度成長期は、日本がどんどん西洋化されて古典的な物が忘れられていた。その時期に、父たちが海外に行って評価され、また日本に帰って再評価される。そういう時期があったと思うんです。そういう意味でも他ジャンルの芸術と並べて、自分たちの水準がどこにあるかということは常に意識する必要がある。海外公演をするということはそういうことではないでしょうかね。

そう考えると650年前に確立した狂言というものが現代のニューヨークの学生にも受け入れられた。まさに「いいもの」が時代や国を超えた証明でもあるというか…。

萬斎 ありがたいことですね。ただ狂言というものは、もともと人間の本質を映し出しているものなので時代に左右されない。(演じている)われわれも、もっと胸を張らなきゃいけないと思いますし、今後、それをどういう形で提示していくかというのは僕たちの腕次第だと思いますね。

公演後には、万作の会主宰者・野村萬斎さん(左)と、ストーニーブルック大学舞台芸術学科教授、芦沢いづみ氏によるトークが行われ、学生らからの質問に応えるなど、交流の場が持たれた

公演後には、万作の会主宰者・野村萬斎さん(左)と、ストーニーブルック大学舞台芸術学科教授、芦沢いづみ氏によるトークが行われ、学生らからの質問に応えるなど、交流の場が持たれた(撮影:岩城)

萬斎さんが今夜、狂言を通して伝えたかったことはなんでしょう。

萬斎 表現の深さ、だと思います。僕たちは「型」を演じているわけですけれども、その「型」に匹敵する中身がないと意味がない。「心情」であったり「肌」であったり、その「型」の中のモノ。その両輪の輪で進んでいかないと、形だけのものになってしまう。そうなると、特にこちらの方はつまらないと感じるでしょうね。「型」を見せつつも、僕たちはその「型」の中身の「何か」を(同時に)見せたいといつも思っているわけです。

映画やドラマのような現代劇にも出演されている理由も、そのあたりにありますか。

萬斎 現代劇でも「名優」と言われている方は、やっぱり、皆さんある種の「型」を持っているわけですよ。表現する術というか、方法論をちゃんと確立されている。メソッドと言ってもいいかもしれない。僕たちの場合は、先人たちが作ったメソッドをまず学んで、そこに自分の心情なり、経験値を入れていくわけですが、彼らの場合は逆に自身の経験値をどう表現するかということで、だんだんとメソッドを固めていく。まぁ、ただ、順番が違うだけで、行き着く先は「人間を描く」ということですから。アプローチの違いだけで、目的は同じことなんです。別に僕たちだって「型」を見せるためだけにやってるわけではなくて、最終的には「人間を描く」ためにやっている。そのために「型」から入っていくんだということですね。

なるほど。

萬斎 例えば、父の舞台を見ていただければ「型」から抜け出した境地に入っているのが、分かると思うんです。仏教用語でいうところの「解脱」ですね。それはつまり、歳をとることは悪いことじゃないよ、ということにもつながるんだと思います。歳をとることで人間性が深まったり、形式だけの片苦しさから抜け出せたりできる。解き放たれた先にまた一つの美徳があるというのが禅の思想でもあるわけです。つまり、満開の桜、若い桜が鮮やかに咲くのもいいけれど、苔(こけ)むしたような京都の古寺に一輪の桜が咲き、霧がかった世界が見える。そこにまた究極のわび、さびという美意識を感じることができるのも、また日本であるわけですよね。

はい。

萬斎 物量主義的な力とエネルギーで勝負するアメリカとはちょっと違うけれども(笑)そのあたりもアメリカの皆さんに見てもらえたらな、と思いますね。

最後にニューヨークで頑張る日本人の読者にメッセージをお願いします。

萬斎 この街は、きっとね、何か「本質的な物」を極めれば芽の出る世界だと思います。認めてくれる人が必ずいる街な気がしますね。まぁ、でも寒過ぎて住みやすいかどうかはちょっと微妙ですが(笑)。でも、まぁ頑張りましょう! ってことですね。

 

★インタビューの舞台裏★ → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12105355758.html

 

野村 萬斎(のむら まんさい) 職業:狂言師
1966年生。野村万作の長男。祖父故6世野村万蔵及び父に師事。重要無形文化財総合指定者。東京芸術大学音楽学部卒業。「狂言ござる乃座」主宰。国内外の狂言・能公演はもとより、現代劇や映画の主演、古典の技法を駆使した作品の演出、NHK「にほんごであそぼ」に出演するなど幅広く活躍。現代に生きる狂言師として、あらゆる活動を通し狂言の在り方を問うている。94年に文化庁芸術家在外研修制度により渡英。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。世田谷パブリックシアター芸術監督。公式サイト:mansaku.co.jp/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年1月1日号掲載)


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