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インタビュー 桂小春團治(2)

落語で笑い合う平和な時間を作り出したい

「ガチ!」BOUT. 225

 

桂小春團治

 

国際落語振興会の理事長で、落語家の桂小春團治(かつら・こはるだんじ)さんが来月20日、ニューヨークで公演をする。桂さんは、2000年のロンドン・エジンバラ公演を皮切りに、欧州、北米、アジアなど、延べ19カ国で公演をしており、ニューヨークでの公演は10年以来3回目。海外での公演経験豊富な日本を代表する落語家に、“RAKUGO”を通して、世界に配信するメッセージなど、お話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

 

2月20日、5年ぶりのNY公演

前回から5年ぶりのNY公演。いよいよ来月20日に迫ってきました。

小春團治 本当はね、毎年のように来れたら良かったんですけれど、なかなか難しくて。でも、今回は大阪市が助成金を出してくれることになりまして。ニューヨークは日本の方も多く住んでいらっしゃいますし、現地のアメリカ人もまだまだ落語に触れたことがないっていう方もたくさんいますので、日本人用の公演も(アメリカ人向けの)字幕での公演もどっちも興行として成り立ちやすい場所でもありますから。世の中には、落語を(生で)聞いたことがないという人がまだまだいっぱいいらっしゃると思うんです。日本に住んでいると、いつでも聞きに行けると思って、なかなか実際に行かないんですよね。逆にいろんな国でやっていますと、現地に住んでいる日本人が、この機会にと会場に足を運んでくださる。「こんなとこにまで来るのやったら、生の落語を今まで聞いたことなかったし、行こか」と、そういう感じになる。

確かにそうですね。

小春團治 日本に居た時には全然興味がなかったけれども、外国に住んでると、日本的な物が恋しくなったりして。なので、初めて生で落語を聞いたのは海外だったって人、結構、多いんですよ。

桂小春團治

僕がそうです。前々回の師匠のニューヨーク公演が人生初めての寄席でした。(笑)

小春團治 僕が出演したNHKのラジオに、リスナーから「(ドイツの)ケルンで小春團治さんの落語を初めて聞きました」とか「初めての生の落語は師匠の韓国公演でした」みたいなメールを送ってくださるんです。落語の入り口として駐在時代や留学時代の海外在住時が最初、みたいな経験を持たれてる方は結構、多いですね。

あとは、日本でいると落語に限らず「古典芸能」全般、少し敷居が高い印象があるのかもしれませんね。

小春團治 そう! 落語を誤解されている方もすごく多くて、「私に笑えるやろか」「歌舞伎とか能のように言葉が分からないんじゃないか」とか、ちょっと二の足を踏む方もたくさんおられますね。伝統芸能っていうのは確かに江戸時代のまんまの形を維持するもので、演出は若干違うにしろ、様式、言語はなるべく当時から変えないようにしているもんなんです。ただ落語の場合だけは時代とともにずーっと変えられてきて、現代語で語られるんですね。初めて実際に足を運んでくれた人からは、「なんや、こんなに分かりやすい面白いもんだったのか」って、そんな感じで帰ってもらえるんですよ。

2000年のスコットランドはエディンバラ・フェスティバルからスタートされて16年。師匠は定期的に海外での公演をコンスタントにやられていますが、その意図するところはなんでしょう。

小春團治 落語っていう座ったままで、一人で何人もの人物を演じ分けて、舞台装置も置き小道具も使わずに、イメージだけ広げて笑いを作っていくという芸が他の国にはないんですよ。日本独特の、こういう面白い芸があるんだよっていうのを世界に広めたいんです。世界に類のないコメディーを紹介して、世界の人に知ってほしいと思って始めたんです。

確かに、まずルックスだけからでも海外の人には新鮮に映るのかもしれないですね

小春團治 トルコだけは似たような芸があるんですよ。一人で何人も演じ分けて、タオルやほうきをいろんなものに見立ててやるコメディーみたいなものが。でも座ってやるのは日本の落語だけですね。

実際に世界で落語をやられて各国の反応はいかがでしょうか。

桂小春團治

小春團治 いろんな国に行ってるとね「日本人もこんなアホなこと言うんや」とかよく言われます。結局、世界中どこにだって日本の駐在員はいるわけで、みんな判で押したようにグレーか、紺のスーツ着て、メガネかけて夜遅くまで働いて、冗談一つ言わないイメージが世界の人にはあるみたいで。それが落語を聞いて 「日本にも300年前から、こんなアホがおったやなんて!」って笑ってくれます(笑)。歌舞伎や能のような様式美っていうのは、どこの国でも結構知られてはいるんですけれど、「アホでスケベな日本人」には慣れてないみたいで。日本という国自体の見方が変わったって言われますね。あぁ自分たちと一緒だったんだ、と。等身大の日本人を分かってもらう意味合いが、いろんな国を回っている間についてきた感じですね。

国によって話の内容も変えたりされますか。

小春團治 最初の掴(つか)みの部分で国によっての“ご当地ネタ”みたいなものは必ず作っていきますけどね。「ニューヨーカーと大阪人はよく似てる。どっちも信号守らない」とか「ロシアと日本ではタクシーの止め方が違う」とかね。タクシーを止める際、日本は手を上に挙げるけど、ロシアでは斜め下に手を下げるジェスチャーをするらしいんです。それ知らずに、向こうからタクシーが来た際、手を挙げたらタクシーの運転手が手を挙げ返してきた、とかね(笑)。そういうタクシーの止め方一つでも最初にフレンドリーな関係を築ける。カナダに行った際も、どうしたらいいだろうってカナダ人の友人に聞くと「アメリカ人の悪口を言ったらいい」って。

あははは。

小春團治 「アイスホッケーの昨日の試合結果も見てきましたし、アメリカ人の悪口も考えてきました。まぁ、今日は言いませんけどね」って言うとワッと笑いが起きたり。

世界中で落語をされて一番反応が良かった国はどこでしょう。

小春團治 ブルガリアの高校。ソフィア第18高等学校(笑)。中央軍事同盟ホールみたいな堅い名前のホールで公演をしたんですけれど、まぁ、そこの高校生のノリが良くて、出囃子(でばやし)の時点でロックのコンサートみたいに「ヒュー!」って。浮気ネタの考え落ちまでドッカーンと笑いが起こる。

それこそ東欧の高校生がノリがいいなんてまったく予想できませんでした。(笑)

桂小春團治

小春團治 ニューヨークはね、やっぱり皆さんいろんな国の文化に慣れているっていうか、他のアメリカの都市でやるよりはお客さんも来てくれるんじゃないかな、と思います。いろいろな文化に慣れているけれど、落語は聞いたことなくて、初めてのエンターテインメントに興味を持ってくれるんじゃないかな。アメリカの地方に行くと、それこそ「日本人のするコメディーで笑えるか」みたいな感じで来ないと思うんですよね。それこそ着物着て、サムライみたいな男がジョークを言うなんて、そんなんでは笑われへんわってね。はなから食いつきが悪いと思う。でもニューヨークなら、受け入れる土壌があるというか。

過去2回公演をしたニューヨークの実際の反応はいかがでしたか。

小春團治 非常にやりやすいですね。笑うとこだけじゃなく、マイナスな部分もアメリカ人はリアクションしてくれます。嫌なことに対してもちゃんと声に出して反応してくれるんですね。例えば、煙管(きせる)についた好きな女の子の唾をなめるしぐさをすると、日本人は顔をしかめるだけなんですけど、アメリカ人は「ウエッ」って実際に声に出す。それは話の世界に入り込んでるってことなので、決して悪いことじゃないんですよ。「あっ。食いついてる」っていうのがこっちからすごく分かるのでとてもやりやすいです。

“RAKUGO”を通して、師匠は世界に何を伝えたいのでしょう。

小春團治 2010年に国連の会議室でやった時にね、世界中のあらゆる人種のあらゆる国民が来てくれはって、字幕スーパーも、英語、フランス語、中国語、スペイン語の4カ国語でやったんですよ。みんなが自分の言語を見て笑ってくれるわけです。国も言語も肌の色も文化も宗教も違う人たちが同じ落語で笑い合ってるのはすごく不思議な光景だったんですよ。その時にね一番思ったのは「笑い合ってる限りは諍(いさか)いはない」ということだったんです。しかもそのことを国連という場所で強く感じた。例えば、世界中で起こってるテロと報復の繰り返しである紛争。その紛争を止めるだけの力は落語にはないんですよ。ただ、落語で笑ってる時間っていうのは平和な時間だと思うんです。その間だけでも憎しみや悲しみという感情は忘れられる。だったら、そういう時間を少しでも長く作りたい。その時間をつくるという意味では落語って少しは役に立ってるなって思うんです。

なるほど。

小春團治 今回、大阪市から助成金を受け取るにあたり「大阪市にどんなメリットがありますか」って市の職員に聞かれました。「日本人向けにやる公演は現地の駐在員ほか日本の方々が大阪弁でやる落語を聞くことによって、大阪を身近に感じてもらえる」「アメリカ人向けの公演は平和な時間を作り出して、大阪市がニューヨークから平和のメッセージを発信していることになる」って答えたんです。哀しみとか憎しみは笑いと対極な感情。来ていただいた方に笑ってもらって、憎しみや哀しみを忘れてもらえたらいいなって思います。

それでは最後にニューヨークに住む日本人にメッセージをお願いします。

桂小春團治

小春團治 ニューヨークに住んでいるいろんな日本の方にお会いしましたけど、皆さん、何かこう芯が強いですよね。アーティストだったり、起業家だったり、ダンスにしろ、映画にしろ、お芝居にしろ、日本の仕事のやり方だけでは満足できなかったような人が多い印象があります。逆に芯がシッカリしてないとこの街では生き残れないっていうかね。なので、そういう方たちとお話しするのはこっちも刺激になりますしね。まぁ、そういう厳しい世界で戦ってる方たちにこそ、落語でちょっとホッコリしに来てほしいですね。

 

★インタビューの舞台裏★ → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12119197008.html

 

桂小春團治(かつら・こはるだんじ)
職業:落語家
大阪府出身。1958年2月15日誕生。上方落語協会会員。77年、3代目桂春団治に入門し、97年、文化庁芸術祭新人賞を受賞。99年、3代目桂小春團治を襲名。2000年からは字幕を使った海外公演も行い、世界最大の芸術祭エジンバラ・フェスティバル(英国)に落語家として初めて参加、独自の字幕方式での海外公演を始める。現在までに英・仏・独・露・フィンランド・ノルウェー・ベルギー・ブルガリア・韓国・トルコ・カナダなど12カ国で披露。06年、文化庁より文化交流使に任命され、「ニューズウィーク」日本版では「世界が尊敬する日本人100」に選ばれた。また、同年には、落語家として初となる落語のNPO法人「国際落語振興会」を設立。07年には文化庁芸術祭優秀賞を受賞。10年には落語家初となる国連本部とカーネギーホールで公演。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年1月23日号掲載)


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