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インタビュー 森達也

物事には黒と白だけじゃなくグレーも他の色もある

「ガチ!」BOUT. 242

 

森達也
日本を代表するドキュメンタリー映画監督、森達也。オウム真理教を追った代表作「A」、その続編である「A2」以来、実に15年ぶりにメガホンをとった「FAKE」は今年の上半期、映画界において最大の話題作となった。2014年、“ゴーストライター騒動”で日本中を騒がせた佐村河内守氏に密着取材した本作は7月、ニューヨークはジャパン・ソサエティー(JS)で北米初上映。多くのニューヨーカーから喝采を浴びる。監督の本当に描きたかったことは? 上映直前、お時間を頂いた。(聞き手・高橋克明)

話題作の「FAKE」、NYで上映

 

今回の作品を撮ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう。

森 特にここ数年、日本って二分化が激しくなってる気がしてたんです。「真実」か「虚偽」か、「正義」か「悪」か、みたいな。まさしくあの騒動っていうのは「二極化」ですよね。騒動が起きるまでは、彼は「全聾(ろう)の天才作曲家」でしょ。で、騒動の後は、もう「希代のペテン師」ですよね。

非常に分かりやすい構図に世間が落ち着いたというか。

森 同じ時期には小保方(晴子)さんの「STAP細胞」騒動があって、少し前には例の「食品偽装」問題があった。芝エビだと思って食べたら、バナメイエビっていう輸入エビだった、けしからん! ってみんな怒ってたけど、僕なんか別においしけりゃいいじゃんって思ってたんですが。(笑)

あと、食べてない人まで怒ってました。(笑)

森 その少し後にはね、朝日新聞が慰安婦問題の記事の謝罪をした時に、全メディアが「売国新聞」とか「非国民」ってスゴい言葉で朝日をたたいていたけれど、(朝日だけじゃなく)他の新聞社も全部、書いてたんですよね。なのに、どうしてここまで朝日だけをたたけるんだろう、ってすごく不思議で。それは、やっぱり「真実」と「捏造(ねつぞう)」っていう二分化をあまりに単純化しちゃってるからなんだよね。「自分たちは真実。朝日は捏造」みたいな、安易な分け方でね。

グレーな部分は許さない、というか。

森 そう。でも、本来、物事って、黒と白だけじゃないでしょ。グレーもあるし、他の色もいっぱいある。それをどんどん消しちゃったら、世界は矮小化されちゃうわけで、つまんなくなっちゃう、と思うんですよね。ある一つの部分の真実だけで、残りの全部がそう、みたいな感じは。佐村河内さんの件も、結局、世間では「曲が作れる」か、「作れないのか」(の論点)だけになっちゃったと思ったんですね。

あるいは「耳が聴こえる」か、「聴こえないか」だけの。

森 うん。でも、本当は世の中、そんな単純なもんじゃないよね。

佐村河内さんを撮ることによって、監督は、その世間の「単純な二分化」を壊し…。

森 (さえぎって)うん、それに対してのアンチテーゼみたいなものを出せるかなとは思いましたよ…。ま、後付けかもしれないですけれど。

 

日本映画

 

今回は、記事や書籍ではなく、映像として作りたかった理由はあったのでしょうか。

森 彼に会った瞬間にね、もう単純に、フォトジェニックだなと思ったんですよ。

見た目が。

森 話し方も含めて。それは彼だけじゃなくて、あそこ(自宅)に、奥さんがいて、猫がいて、あの薄暗い部屋で、窓を開ければ電車がスグそばを走ってて。その全部の要素がね、とても映画向きだな、撮りたいなって。あとは映像だと映った「そのまま」を伝えられる。一番分かりやすくて、みんなの興味を引きやすいですよね。

当時の佐村河内さんは、日本国民全員が敵だと思っていたと思うんです。密着取材を可能にさせるまでの信頼を、どうやって勝ち得たのでしょう。

森 うーん。僕もよく分かんないけど、まずね、最初に会った時、彼は僕のことを知っていて「私、森達也さんの本読んでます」って言うんですよ。「お会いしたかったです」って。「えー、どの本を読まれたんですか」って聞いたら、よりによって『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)。

(笑)

森 あんまり読まれたくないものを読まれてるなあと思ったんだけど(笑)。でも、最初に「あなたの名誉を回復する映画を作る気ないです。僕は、作品のためにあなたを利用しようと思ってます」って言ったんですよ。つまり新垣(隆)さんやマスコミに対して、いかに嘘(うそ)かっていう、彼の主張や怒りをぶつけるだけの映画にはしたくなかった。

映画の中にも登場していましたが、「味方ですよ」という顔で近付いてくるマスコミも当時は多かったはずですが。

森 普通はそうですよね。だから「この人はなんか違う」と思ったのかもしれないです。そういった意味では彼は理解力がすごかったんでしょうね。ただ、信頼関係があったかと言われれば、微妙かもしれないです。ドキュメンタリーを撮るって、結局は格闘技みたいなもので、どっちがマウント(・ポジション)をとるか、とられるか、みたいな関係なので。単純な「信頼関係」ではないですよね。

映画に限らず監督の作品は、割と少数派の方に立って「多数派のアンチ」のように見受けられることもあるかと思うんです。監督の影響力が強すぎた場合、少数派が反動的に多数派になって、結果、「少数派」と「多数派」入れ替わっただけで「二極化」のままという危険もあったり…。

森 僕の影響力なんて全然大したもんじゃないですよ。(笑)

でも単館系では記録的なヒットでした。

森 でも所詮(しょせん)ミニシアターのレベルですよ。もうシネコンの映画とは分母の桁が違うわけで。

ただ業界では騒然となったわけで…。ラストも含めて物議を醸し出すことは撮影中にも意識されていらっしゃいましたか。

森 いや、全然思ってなかった。ていうかね、編集やってると、だんだん分かんなくなっちゃうんですよ、面白いんだか、面白くないんだか(笑)。最後の方になると、助手に「これ映画として面白いの?」って聞いたりして。「どうすかね」みたいに言われたり。

(笑)。恐ろしく面白かったです。

森 でも、公開してみないことには作り手は分かんないもんなんです。

 

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今日の上映は、日本人ではなくアメリカ人がメインです。監督は、この作品を見たニューヨーカーに何を感じて欲しいでしょう。

森 高橋さんは何を感じましたか。

僕は…、それがまだ消化できてないというのが正直なところです。観ながら、とっても寂しくもなりましたし、ゲッラゲラ笑ったシーンもありました。もちろん怖さも、メディアリテラシーという意味で正直、感じました。あらゆる感情がまだ整理つかない気がします。あとはエンターテインメントとして楽しみに行ったのに、ラストのシーンでは「じゃあ、おまえはどうなんだ?」「おまえはどう感じるんだ?」と突き付けられたような気がして、ある種の「しんどさ」みたいなものも感じました。(笑)

森 うーん。とても、とてもイイ感想ですね。なのでそれを感じてくれればいいです。

ありがとうございます。(笑)

森 ニューヨーカーに限らず、人間誰しも「悲劇」と「喜劇」が両方あるものだし、それを2時間弱の中で感じてくれたら映画監督冥利(みょうり)に尽きますよ。あとは、同時にね、「主観の怖さ」みたいなものを感じて欲しいな、と。今のネット社会は、(ある)一つの情報があっという間に流通しちゃう。でも、それに接しながら、違う情報もあるんじゃないか、って考えながら観れるような作品には出来たかなと思うんです。ある意味、非常にリスキーな社会になっているということをこの作品を通じて感知してくれれば、もう言うことはないです。

最後にニューヨークにいる日本人にメッセージをお願いします。

森 あのー、今、大学でも教えているんですけれど、例えばゼミの生徒20人いるとしたら、海外旅行したことがある人って2人とかそれくらいなんです。「どうして君たちは海外行かないの」って聞いたら「別に…危なそうだし、汚なさそうだし、日本の方がいいです」って。ひょっとしたら本当は行きたいのかもしれないけれど、みんなと違うことしたら、仲間はずれにされる空気があるのかもしれないし。「自由に行けるのは今だけだよ」って言ってもなかなか、みんな行かない。でも(逆に)中国や韓国の留学生は(日本に)いっぱい来てるんですよ。アメリカやヨーロッパでもアジア系の学生さんっていっぱいいるけど、日本人は本当に少ないですよね。 日本って、今、本当にドメスティックで、内向きになっていて。やっぱり違う国に行けば、絶対に違う視点を持つことができるし、違う国から日本を見れば、また違う日本も見えてくるわけじゃないですか。若い時期に日本ではない国に行って、違う空気、違う文化、違う宗教の地域に身を置くってすごく大事なことだと思うんです。なので、今海外にいる日本人って逆に言えば、日本にとって最後の命綱みたいなもので非常に貴重な存在だと思うんですね。だから、海外で得た情報なり、視点なりを日本にフィードバックしてほしいですね。もちろんアメリカに帰化しちゃってもいいんだろうけれど、たまに帰ってきて刺激を日本に与えてほしいと思いますね。

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12211391515.html

 

森達也(もり・たつや)職業:映画監督
1956年生まれ。広島県出身。テレビ番組制作会社で報道、ドキュメンタリーの番組を中心とする作品を制作。98年オウム真理教(現アーレフ)の荒木浩氏を主人公とする映画『A』を制作し、第49回ベルリン国際映画祭を含む釜山、香港、バンクーバーなどの国際映画祭に正式招待される。続編となる『A2』(2001年)は山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。11年に東日本大震災をテーマとするドキュメンタリー映画『311』を綿井健陽、松林要樹、安岡卓治と共同制作。10年に出版した著書『A3』で第33回講談社ノンフィクション賞受賞。執筆活動もしており、社会問題やメディアを取り上げた著書は、30冊以上。公式サイト:moriweb.web.fc2.com/mori_t/

 

〈作品紹介〉『FAKE』

『FAKE』
2014年に発覚したゴーストライター騒動でメディアを騒がせた虚偽の作曲家・佐村河内守の素顔に迫った衝撃のドキュメンタリー。聴覚障害のハンディキャップを乗り越え華麗で美しい楽曲を書き上げる佐村河内は、〝現代のベートーベン〟と称賛され悲劇の天才作曲家として各所で活躍していた。しかし、音楽家の新垣隆の告白により、佐村河内の楽曲はゴーストライターを務めていた新垣によるものであり、さらには実際には耳が聞こえていることが暴露された。本編ではその後世間から身を潜めていた佐村河内の様子を自宅で撮影し、その知られざる素顔に迫る。(日本公開:2016年)www.fakemovie.jp/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年9月10日号掲載)


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