〈企業トップインタビュー〉SAPPORO U.S.A., INC. 生方誠司 代表取締役社長

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全ブランドでトップ10入り実現したい

日系ビールブランドで米市場シェア首位独走10-01-01_sapporo mr.ubukata

北極星のロゴマークでおなじみのサッポロビールが米国に現地法人「SAPPORO U.S.A., INC.」を構えて25年。日系のグロッサリーストアやレストランに行くと、必ずと言っていいほど見かけるが、その人気は日本人の間だけではない。最近では、バーやレストランで「Sapporo!」と大きな声で注文する米国人の姿も目にする。  米国市場における日系ビールブランドとしてナンバーワンのシェアを独走し、今日も日々ブランド価値の向上のため、さまざまな事業戦略を展開するSAPPORO U.S.A.の生方誠司社長にお話をうかがった。
◇  ◇  ◇  ◇
―現在の米国での事業内容について教えてください。
生方社長 当社は、サッポロビールの米国現地法人として、米国内への輸入販売を行っていましたが、現在は、2006年に当社の傘下となったカナダのスリーマン社にてビールを製造し、全米にお届けしています。北米エリアに自社工場を持つことで、物流・品質上でのメリットは非常に大きいですね。日本のサッポロビールの技術陣数名が現地に駐在し、最高品質のビールをお届けできるように工程等を日夜改善しています。また、日本から輸入するよりも物流日数が大幅に短縮したことも大きいです。その結果、大幅な品質向上を図れていると思います。
―全米という日本よりもはるかに大きな市場で、日系ビールブランドナンバーワンを維持している理由は何ですか。
まず一つ目は、ディストリビューター(問屋)のネットワークです。きめ細かなサービスと日系レストランやアジア系市場への強い販売網を持つ日系のディストリビューターはもちろんのこと、当社は現地のディストリビューターによる販売網づくりにも力を入れてきました。現在、全米で約250社のディストリビューターと契約しており、日米両方のディストリビューターを通じての販売網の構築に尽力しています。
二つ目は、米国でのサッポロブランド形成の一躍を担った「SAPPORO PREMIUM SILVER CAN」の爆発的なヒットです。この商品は20数年前に発売され、今も多くの方にご愛飲いただいております。爽快(そうかい)な味わいとシルバー缶の流線型のスタイリッシュなデザインがアメリカ人の感覚にマッチしたのでしょう。
そして最後に、日本食ブームです。寿司(すし)を中心とした日本食の普及に伴い、米国では日本食のレストランが増え、おかげさまでそのほとんどのお店でサッポロビールを扱っていただいております。日本人だけではなく、進んで日本食のレストランに足を運ぶヘルシー志向のアメリカ人も多く、彼らの間では、日系のビール=サッポロビールというイメージを持つ人が増えているようです。
このように、ディストリビューターの皆さまのお力とヒット商品によるブランド形成、そして日本食ブームに後押しされ、今のSAPPORO U.S.A.があるのです。
―現在の米国のビール業界の景気、動向はどうですか。
景気の低迷による影響はありますが、意外にも1%程度のダウンにとどまっています。なぜなら、米国はビール大国ゆえ、レストランやバーなど外でビールを飲む人が減った分、グロッサリーストアなどで買って飲む人が増えています。ただし、価格、品質ともにプレミアムゾーンのイメージを持つ輸入ビールは景気の影響を顕著に受けていますね。また、レストラン業界も景気の影響を受け、日本食レストランも厳しい状況にあり、今後の展開を模索しています。  当社ではここ数年、ドラフトビール(たる詰めビール)が急伸しています。2004年からこのビジネスを展開しており、現在、全米の1400軒ほどのバーやレストランで扱っていただき、その伸び率は約30〜40%にもなります。このビジネスへの参入が可能になったのも、カナダに自社工場を持ったからであり、これからももっとこのビジネスを拡大していこうと考えています。
―生方社長がこの業界に入られたきっかけは何ですか。やはり、ビールがお好きだったからでしょうか。
そうですね、ビールは学生時代から大好きでしたし、ビール自体にも大変興味がありました。食卓や宴会など、ビールがある場というのは楽しいじゃないですか。そういう人を楽しくさせることのできる商品に魅力を感じたのが一つの理由です。
また、ビール業界は、営業やマーケティングなど、事務系の力も発揮できるところだと期待したからです。もちろん、味に対するこだわりや日々の品質改良はとても大切なことですし、当社も力を入れています。実際、お客さまがビールを購入するときには、味わいと共にブランドやラベルのデザイン、CMのイメージなど、その商品を飲むシーンを思い浮かべながら感覚的にビールを選ばれる場面が多いのではないでしょうか。このようなビールがある楽しい生活を後押しできる営業やマーケティングによって、業績を動かすことのできるこの業界に面白さを感じましたね。
―最後に、SAPPORO U.S.A.の今後のビジョンを教えてください。
まず当社では、「ビールを愛飲するお客さまの生活をより豊かに、より楽しくする」というミッションを掲げています。当社が日本で130年以上にわたり培ってきた高度なビール造りの技術から生まれたサッポロビールを、食卓や団らんの場、レストランやバーなどのお酒を飲む場所に提供し、お客さまにより豊かで楽しい生活を味わっていただきたいと強く願っています。
今後の中期的なビジョンとしては、米国の輸入ビールブランドの中においてトップ10入りを目指しています。現在、22位です。10位以内というと、「誰もが知っていて、かつ日常的に楽しむ機会があるブランド」であり、販売数量で見ると年間1000万箱レベルです。当社の認知度はだいぶ高まってきていますが、すべてのマーケットにおいて“日常的に”楽しむ機会という点においてはまだまだこれからです。原点である日系のマーケットやレストランへの販促活動をベースに、アジア系や米系のマーケットでも当たり前のように扱っていただけるよう、今よりもさらにマーケティングの幅を広げていこうと考えています。1000万箱の目標はチャレンジングですが、できれば私が在任中に実現したいですね。

うぶかた せいじ 群馬県出身。横浜国立大学卒業後、サッポロビール株式会社に入社。営業、広報、工場総務、人事のグループリーダーなどを務め、2009年3月、SAPPORO U.S.A., INC.の代表取締役社長に就任。ビール大国米国で、常に拡大市場に目を向け、新たな取り組みにも果敢に挑んでいる。座右の銘は「小事にこだわり、大事を忘れるな」。
(「WEEKLY Biz」2010年1月1日号掲載)

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