インタビュー パックン

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米で得た自信や積極性は帰国後も持ち続けてほしい

米国人“マルチタレント”が日本から見た日米の違い  「ガチ!」BOUT.145

コロラド州出身でハーバード大学卒業、お笑い芸人で大学の非常勤講師も勤めるまさに“マルチタレント”のパトリック・ハーランさん。パックンの 愛称で親しまれ、今や日本の芸能界で幅広く活躍している。ニューヨークに住む日本人にとってはなじみ深い“ゆき姐”こと、兵藤ゆきさんと朝の情報番組「7 スタ」(テレビ東京)で共演中のパックンに日米の言葉、生活、文化の違いについて日本でお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)
◇ ◇ ◇

日本に住まれてどれくらいですか。

 パックン 今年の8月で丸20年です、はい。長いです。

もともと、留学が目的で来られたわけではないんですよね。

 パックン 英会話の講師を1年だけやって帰ろうと思ってたんです。でも1年経っても、まだ納得した感じはしなかったんですね。一応日本語検定試験1級は取ったんですけど、まだまだ日本語を勉強したいし、日本という国をもっと知りたい。さらにもう1年経つと逆にこれだけ一生懸命、日本語を勉強したんだから、今帰ったらもったいないって欲も出てきたんですね。せっかく日本にここまで投資してるんだから、これを今、全部捨てるんじゃなくて、夢だった役者を東京に出て目指すことに決めたんです。1、2年頑張って駄目だったら帰ろうって…。

それが成功してしまった。

 パックン 思ったよりもスムーズにいっちゃったかもしれないですね。ちっちゃい失敗はいっぱいありましたけど、なんとか生活できるようになって。僕本人も驚いてます! 最初は「いつ帰ろうかなぁ」って思いながら暮らしてたんだけど、今は思わなくなりましたね。

日本の方がむしろ居心地が良くなってきていますか。

 パックン そうかもしれないですね。家庭もあるし、生活の基盤が全部東京にあるんでね。2年前の震災の時に、故郷(くに)に帰った友達もいっぱいいます。でも「やっぱり、日本にいたいな」って思った自分がいるんですね。その時に「いつ帰るか」って選択は自分の中で消えました。

それに今では日本のテレビ界にパックンがいなくなるのは想像できないです。

 パックン こんなに楽しい仕事させてもらってね! これで帰ろうと思うのは、すごい恩知らずな気もします。ハリウッド映画に出演してウン十億稼いでいる方々はすごいなって思うんですけど、でも、僕のように毎日毎日面白い仕事できる人も少ないと思うんですよ。アメリカにいる親戚にも友達にも「自分の仕事が好きな人そんなにいないよ、アンタだけだよ」ってよく言われるんです。

しかもパックンにとっては外国だったわけですから。

 パックン そうなんですよ。「Gilded Cage」って言葉があるんですね。”Like a Bird in Gilded Cage.” 金メッキの籠に入ってる鳥って意味なんですけど。ゴージャスで恵まれてるから、そこから出られない。そういう言い方あるんですけど、以前、僕は自分でそう思ってました。恵まれた環境だけど、逃げられないんだなあって。黄金の籠の中だなって。でも、最近は籠の中でもないなあって思うんです。あくまでも、今、自分の決断でここにいるから。帰ろうと思えば、いつだって帰れる。でも日本が好きになった。こんな楽しい仕事させてもらってるうちに帰ったらもったいないし、申し訳ないと思うんですよ。

逆に日本にいるからこそ、見える故郷もありますか。

 パックン アメリカの良いところもいっぱい見えます。まずは対等なところ。人間同士の対等なところ。社長とウエートレスでも対等にしゃべれる。バスの運転手と政治家も対等ですよね。

確かにそうですね。

 パックン あとは何かを話すチャンスがあったら、みんな話のネタを持っていて、うまく力強く伝えるところとか。ハッキリ意見をしゃべるところとか。そういうところは日本の方は練習しなきゃいけないくらいできていない方も多いと思うんです。知識があっても話せない。アメリカ人は逆に知識や根拠がなくてもハッキリ主張する! でも、そのおかげで話が弾むんですね。面白い展開を常に考えてる。そこは日本ではあまり感じないかもしれないですね。それは文化のギャップって一言で片付けるものではなくて、話術からして違うと思うんです。

ゆき姐もアメリカで子育てして感じたのは、幼少のころから自分を表現する場所、人にアピールする場所がたくさんあるっておっしゃってました。

 パックン 幼稚園の時から、ロムニーとオバマとどっちがいいかみんなの前で話す機会が与えられるんですよ。それは親から聞いてもいいし、例えば、オバマの飼っている犬がうちで飼っている犬と一緒だからって理由でもいいんです。(目的は)みんなの前で、自分の意見とその理由を話す訓練ですから。日本でも議論は大切だってよく聞くんですけど、日常生活の中にあまり見当たらないですよね。会議もスムーズすぎて、意見の対立はあまり見られない。その練習は若いころからしてないと無理かもしれないですね。それが僕にとっては少し寂しいですね。

そういったバックグラウンドが外国人タレントとして、今、役に立っているわけですね。

 パックン 20年いて、いまだにアメリカ人としての意見をお願いしますと言われますからね…。半分以上は日本人になってるとは思うんですけど、それでもアメリカ人としての要素が自分の売りになっていますし、日本のタレントよりはグローバルスタンダードに基づいた意見が言える。で、他の外国人タレントよりはお笑いの訓練を受けてるから、日本へのアレンジもできる。その二つが自分の売りだということもやっぱり自覚してるんですよ。低空飛行ではあっても(芸能界で)飛び続けてこられているのは日本の空気を読む習慣もできているから。番組上、ヘンなコメントが求められている時は自分の意見を飲み込むこともあるんですね。その暗黙の了解を破らないことも大切ですね。

2人のお子さんを日本で育てることに気をつけられていることはありますか。

 パックン できるだけ、オールマイティーな子に育てようと思ってますね。話し掛ける時は英語です。日本語で話し掛けてきたら答えないようにしてるんです! 「ジュースくださーい」って言われても「Say it in English」って(笑)。「Juice, Please」って言うまで無視します。しばらくはPleaseを最後につければ英語だと思ってたんで、「お腹すいたー…プリーズ…」って言ったりしたんだけど、最近は僕があまりにも「英語で言えー」っていうので(日本語OKの)お母さんに「お腹すいたー」って言うようになってます…。

(笑)。大きくなるのが楽しみですね。

 パックン うまく育ってくれたらいいなーって思うんだけどね。テーブルマナーも全然違うから、その辺も日本はこうだよ。アメリカはこうだよって教えなきゃいけないんですよね。

ヘンな質問ですが、好きな日本語ってありますか。

 パックン いっぱいありますよ。本当にいっぱい。「侘(わび)」とか「さび」とか「繊細」とか「遠慮」とか「寡黙」とか、あと「空気を読む」とか! これらの表現は日本語にあって英語にない。

(そばにいたマネジャーさん) あと「おごそか」とか?

 パックン おごそか!…いいねぇ。「おしとやか」とかね。アメリカにはない言葉です。あ、あと「過労死」も…。

(笑)。そういった場合、それぞれの言葉を翻訳する時はどうするのでしょう。

 パックン もう長年の経験しかないですね。いまだに訳せない言葉もいっぱいありますよ。「よろしくお願いします」もそうです。それはつまりは何が言いたいのか。本当の心をつかんだ上で場面によっては「I’m looking forward to working with you」かもしれないし、「I’m very sorry for the inconvenience」なのかもしれない。単純に「Hello」にする時もあります。言いたいことをまず頭の中で日本語で直してそれから英語に変換する。違う表現に言い換えれば訳しやすくなります。子供はそういうのが得意ですよ。まだ知らない単語いっぱいあるじゃないですか。うちの子がこの間、「亀の甲羅みたいなお菓子ください」って。

亀の甲羅?

 パックン 「歌舞伎揚げ」のことなんです。確かに似てるんだよね、亀の甲羅。初めて聞いた表現なんだけど、ズバリだと思うんです。でも、そういう練習が外国語の習得にすごく必要になってきます。同時にそれは自国の文化の特徴と、異文化の特徴もつかむことができますから。

アメリカでも各州いろいろと違いはありますが、ニューヨークにはどんな印象をお持ちですか。

 パックン まぁ、エネルギッシュだねー。みんな常に動いてるし、ハングリーと言うか、いつも何かしてやろうとしてる感じがありますね。歩くペースも速いし、しゃべるペースも速い。(故郷の)コロラドから見れば落ち着かないなぁって! 部屋も狭いしね。

家賃が高すぎますね。

 パックン でも大好きですよ。やっぱり夢を感じます。僕の同級生でも役者目指してニューヨークに出たやつ結構いますよ。でも、オーディションの毎日で競争の激しいブロードウェーの世界を2、3年経験してやめたのがほとんどですね。それでもその夢を持ってた2、3年の暮らしが今でも宝物だってみんな言いますね。日本での競争はそれに比べると穏やかですね。売れてない芸人でもオーディション会場では仲良しで競い合ってる感じがしないんですよ。仲間意識っていうのかな。みんなきちんと仕事はしてるんだけど、上へ上へって感じはそんなに受けないような気がします。僕よりいろんな現場に行ってるマネジャーもそう感じてるんじゃないかな。

(そばにいたマネジャーさん) ハングリー精神がモロに(表に)出ている人は、そうでない人と比べれば、やっぱり圧倒的に少ないと感じますね。なんとなく食べていけるくらいの仕事をなんとなくやっている人が多いかもしれないです。飛び抜けていこうって人は少ないですね。忙しくは働いてるんだけど…。

 パックン ニューヨーカーは熱いです。日本のビジネスマンからは「熱さ」は感じないですね。それはいい意味でも悪い意味でも。

アメリカで暮らす日本人にメッセージをお願いします。

 パックン 長くアメリカで暮らして日本に帰った場合、周りにアメリカナイズされてるなあって言われることもあると思うんですよ。立ち方、話し方、波長が微妙に違ったりするわけですから。でも、それはすごくいいと思うんです。アメリカで得た自信や積極性はぜひ、皆さんそのままでいてほしい。逆に僕が日本で生活してアメリカに戻っても絶対忘れたくないのは、きめ細かさ。例えば、欠けたお皿はお客さまには出さないとか、トイレットペーパーの端を三角に折るとか、他者に対する気配り。それは日本の日常生活に織り込まれているものなんですよね。そこは忘れたくない。アメリカ人だって、そんな心配りはみんな喜びますよ。居心地がいいって。アメリカに戻って誰もビールをついでくれないと寂しいんだよね! なので、日本特有のお互いに気遣うっていう文化はアメリカでもぜひ、広めてほしいと思いますね。

パトリック・ハーラン
職業:タレント、お笑い芸人、俳優
1970年生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業後、93年に来日。97年吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。その後、情報番組や英会話番組などでお茶の間に浸透。現在はテレビ、ラジオ、連載などに加え、東京工業大学の非常勤講師を務めるなど、活動の場を広げている。著書に「笑う英作文」(扶桑社)や「Are you a 国際人?」(毎日新聞社)がある。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2013年5月3日号掲載)

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