中村勘太郎(2)

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初主演作にかける思い

「ガチ!」BOUT.49

 

俳優で歌舞伎役者の中村勘太郎さんが、初主演映画「禅 ZEN」の上映会のため、NYを訪れた。曹洞宗を開いた鎌倉時代の僧という新たな役に挑んだ中村さんにお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

映画「禅 ZEN」 NYで上映会

今回が映画初主演という事でしたが、いつもの舞台と気持ちの上で違いはありましたか。

中村 基本的には変わらないです。カメラが入っているかいないかというだけでね。ただ、舞台だと1回スタートしたら、2時間なら2時間で終わるところが、映画だとカット、カットで(途切れる)気持ちを持続させなきゃいけない。そういった意味では大変だったかもしれないですね。

今回演じられた、750年前に実在した人物、道元禅師とは、勘太郎さんにとってどのような人物でしょうか。

中村 演じるにあたり、彼が書いた本とか、お弟子さんが綴(つづ)った書物を、かなり読み込んだんですけど…。読めば読むほど、分からなくなっていく、彼の事を知れば知るほど、遠くなっていくんですね。あぁ、とても大きな存在なんだなって思いました。だから(当初は)プレッシャーというのは相当ありましたね。やはり日本だけでなく、西海岸やパリや世界中に道元の教えのもと、修行したいという人がいて。そんな人を演じるわけですから。

そのプレッシャーの中、役作りのためにされた事ってありますか。

中村 まず、彼らの思いを一身に引き受けるのはとても無理だと思ったんですね。まず、無理だと。だから高橋伴明監督が書いた、その脚本の中に書かれている道元という男を演じようと決めたんです。そう思ったとたん、すんなり(役に)入れた感じがしましたね。

中国語も非常に多い役でした。

中村 (台本の中の)セリフだけ覚えればいいっていうやり方もあったんですけど、この作品には何かそうさせないものがあって、無理を言って(中国語の)先生についてもらって、発音を一からやらせてもらいました。今はもう覚えてないですけども。(笑)

一人の男の20代から晩年までを演じるのは歌舞伎でも珍しい事ではないのでしょうか。

中村 そうですね、演じがいがあるというか、やりにくくはないですね。

非常に豪華な共演陣(藤原竜也、内田有紀ら)ですが、現場の雰囲気はいかがだったでしょうか。

中村 楽しかったですよ。やっぱりなんて言うのかな、みんな方向性が一緒だったというか今のままじゃダメで、もっと上を上をっていうハングリー精神の中で生きている人たちなので、刺激し合えたし、うん、本当に楽しかったですね。

この映画がクランクアップした後、(道元禅師を)される前とでは、何かご自身の中で変化はありましたか。

中村 一番の変化はですね、座るようになりました。

座禅を始めるようになったと。

中村 そうですね。役作りのために永平寺修行に行ったんですよ。その時に、僕よりも全然、年の若い21歳の修行僧が教えてくれたんですけども、彼が最後に「今回座ってみて何かを皆さん、感じ取ってくださったと思うのですが、おうちに帰って、1分でも2分でもいいから座ってみてください」って言われたんです。その言葉がすごく美しかったんですね。そう言っている彼も含めて。それ以来、毎日少しでも座るようにしていますね。

座る事によって変化はありましたか。

中村 穏やかになるんですよ、心が。特にニューヨークなんて、もちろん東京もですけど、皆さん、時間に追われて忙しいじゃないですか。その中で1分、2分を惜しんで座禅をやらないっていうのはもったいないと思いますね。座るという空間に時間を費やす。すごくいい事だなーって思いますね。

この作品をお父さまである勘三郎さんもご覧になったと思うのですが、何かおっしゃっていましたか。

中村 普段は同じ歌舞伎というものをやっているので、めったにほめられる事はないんですけど、今回は見てくれた後に「誇りに思う」って言ってくれたんです。それはすごくうれしかったですね。

今日、見に来るアメリカのお客さまには、この作品のどういったところを感じ取ってほしいでしょうか。

中村 この映画は人それぞれ感じ方、受け止め方が違うと思うんです。20代の人が見て、分からなかったら、分からないでいいと思うんです。仕事を始められた方、子供を生んだ方、おじいちゃん、おばあちゃん、いろいろな世代の方に見ていただいた時に、感じられるところがすべて違う映画だと思うんですよ。だから道元さんじゃないですけれど、あるがまま、今の自然体の自分の姿で受け止めてくださればいいなと思いますね。

最後に読者にメッセージをお願いします。

中村 ニューヨークって観光だけで来るにはもったいない街だと思うんですよ。この街で働いて生きていくっていう事は、すてきだと思いますね。今の時代、家にいてパソコン1台あったら何でもできる時代じゃないですか。でも僕たち、舞台に生きている人間は(見る人が)チケットを買って、その場に来て見てもらわなければ食べていけない。そういった意味でも「行動」ですよね。行動して、この異国の地まで実際に来て、何かを見つけていくっていうのは素晴らしい事だと思います。その行動が自分の中で、絶対にプラスになっていくはずだと思うので、夢をあきらめずに頑張ってほしいと思いますね。

◎インタビューを終えて 2年前にもリンカーンセンターで公演した平成中村座の時にインタビューをさせていただきました。その時はお父さまの勘三郎さん、弟である七之助さんと一緒だったのですが、当時の印象としては、その中でも一番気さくで、一番こちらに気を使ってくれる長男、というものでした。今回も、インタビュー後の世間話では、まるで昔からの知人のように接していただき、物腰の柔らかさは当時と全く同様でした。ただ明らかに違う印象もありました。作品に対する思いは熱く、そ して鋭利でもありました。気さくという意味では同じでも明らかに2年前とは違う男がそこにはいました。それはおそらく、歴史上の人物の生涯を演じきった男の重みがそう感じさせたのかもしれません。

中村勘太郎(なかむら かんたろう)職業:俳優・歌舞伎役者
1981年生まれ。東京都出身。86年に「盛網陣屋」で初御目見得。翌年に「門出二人桃太郎」の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台を踏む。その後は歌舞伎以外にも、舞台、テレビ、映画など幅広く精力的な活動を続けている。さらに「世界遺産」(TBS)では2006年から約2年間ナレーションを務め、好評を博した。これまでの主な出演作には、TV「森の石松」(CX)、「新選組!」(NHK)、「瀬戸内寂聴出家とは生きながら死ぬこと」(CX)、映画「ターン」(2000)、「シネマ歌舞伎野田版鼠小僧」(04)など。

■作品情報「禅 ZEN」

鎌倉時代。仏道の正師を求め、24歳で宋へ渡った道元。修行を積んで悟りを得た道元は、帰国して如浄禅師の教えを打ち立てることを決意する。周囲には次第に道元の教えに賛同するものが増えてくるが、それをねたんだ比叡山の僧兵の圧迫により、道元たちは越前へ移る。永平寺を建立して門徒たちの指導に励む道元のもとへ、ある日、六波羅探題の義重が訪れた。時の執権・北条時頼を怨霊から救って欲しいというのだ。道元は求めに応じて、鎌倉へと向かう。出演:中村勘太郎、内田有紀、藤原竜也、哀川翔、勝村政信、笹野高史ほか

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2009年3月21日号掲載)

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