加山雄三(2)

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人生は「七転八倒」7回転んで次も転ぶ。それが本物の人生だ

「ガチ!」BOUT.90

芸能生活50周年を迎えた加山雄三さん。50周年企画として自伝本の出版、記念アルバムリリース、コンサートツアー、そして紅白出場など今も精力的にさまざまな活躍の場を広げている。アメリカ滞在中の加山さんに50年の軌跡、今後の活動、そして「人生」を語ってもらった。新春「ガチ」特別編。(聞き手・高橋克明)

 

芸能生活50周年

まずは50周年おめでとうございます。

加山 ありがとうございます。ホントにね、長いことやらせていただいて。ひと言で50年と言っても、半世紀だもんね。(笑)

50周年企画の一環として今回自伝本も出版されました。

加山 日本経済新聞社からお話をいただいて。「私の履歴書」というのは大変価値のある連載らしくて、本当にすばらしい方々が人生っていうものを書いておられる。重みがあって、一代で年商500億(円)になった社長さんが頼んでも、断られるような読み物らしくてね。やっぱりありがたいことですから(引き受けました)。

「私の履歴書」は日本で一番有名なコラムだと思います。それにしても生まれる前の事から書かれてあって、執筆にはかなりの時間を要したんじゃないですか。

加山 ものすごく大変だったね(笑)。うん。8カ月くらいかけました。初めて僕のことを知る読者のために「若大将」のイメージだけじゃなくて、それこそ「履歴書」だから自分の人生を全部振り返って、全力投球で書いてやろうかと思ってね。

加山さんのことを知らない日本人は少なくても、ここまで波瀾(はらん)万丈な人生を送ってこられたことは、特に若い世代では知らない読者も多かったと思うんです。「若大将」のイメージのまま順風満帆な半生を送ってきたと思っていた人には強烈な印象を残す本でした。

加山 まぁ、波風立たないずっと平穏なだけの人生なんてこの世にないと思うんですよ。ただ、それが大波なのか、さざ波なのか。僕の場合はそれが相当の津波だったと言うだけでね。(笑)

俳優一家で育った加山さんの芸能界デビューのきっかけが、船を作る当面の資金のためだけだったと書かれていた事にまず驚きました。

加山 学生のときに小遣いで作っていたカヌーとは違う本格的なのを作りたかった。まぁ、不純な動機だな。今考えればまったく不届きなやつだね(笑)。ただうちのおやじには反対されましたよ。プライバシーのない人生は俺だけでたくさんだって。

この世界に入って、お父さまである俳優・上原謙を超えてやろうとか、

加山 (さえぎって)まったく考えたことない。超えるとか超えないとか考えたこともないね。でも不純な動機でデビューして、荒波だらけ(の芸能生活)だったけれど、“生涯現役”を目標に今もやる気になっている自分がいるのは、天職だったんだろうなぁとは思うね。僕の歌で大勢の人たちが幸せを感じてくれているのなら、俺も幸せを感じていけるな、と。おやじの言った通りつらい思いやマイナス面もあったけど、プラスの面もいっぱいあって、帳消しの平穏がある今が一番の幸せなんだと心から思えるようになりますね。音楽を愛してきた人生で良かったなってつくづく思います。

加山さんの自伝を読むと登場人物が黒澤明監督、ビートルズ、三船敏郎さん、エルビス・プレスリー、美空ひばりさん、石原裕次郎さんなど「時代を代表する」、というより「時代」そのものな方ばかりで本当に60年代からここまでの芸能史を駆け抜けてこられたのだなと感じました。その中でも一番印象深かった人は誰でしょう。

加山 黒澤さんです。やはり黒澤監督が僕の人生を一番大きく変えた人だね。あの方に出会ってなければ、この世界を辞めてたかもしれないです。それほどインパクトがあった。こういう人がいるんだったら、この業界に残りたいっていう気持ちになった。(出演した)「赤ひげ」という映画は完全に僕の人生とダブったね。今考えると、黒澤さんはそれをちゃあんと見抜いて(キャスティングし)たのかなと思えるほど。赤ひげ先生に憧れて、診療所に(僕の演じる)若い保本は残る。黒澤監督に憧れて、撮影所に残る僕のようにね。どんな世界で生きても、どんな苦しみがあっても志があれば人間は成長できるということを教えていただいた。あの人に出会えた事、それ自体が僕の人生の転機になった。忘れられない人ですね。

2本の黒澤作品に出演されました。

加山 うん。もっと出たかったですよね、本当はね。でも(当時すでに)「若大将」として売れちゃって、テレビドラマにガンガン出るようになって、もうイメージが作られてしまってたから。(映画には)やっぱり使えないよね。だからその後、黒澤さんに会った時に「加山、おまえテレビに殺されるなよ」って言われた事を強烈に覚えてますよ。

“黒澤組”だったら、また違った芸能生活だったかもしれないですね。

加山 そうかもね。だけれども今となっては、僕は「若大将」っていうものになるためにこの世に生まれてきたって思えているから。僕自身は加山雄三であり、(若大将の)田沼雄一であったんだと強く自覚するようになれた。何年経ったって、歳をとっても若大将は若大将だから(笑)。若大将の持っている明るさだとかポジティブに生きる姿勢に年齢は関係ないんだっつってね。

「赤ひげ」撮影直後には奥さまとの出会いもありました。当時は「日本中の女性の憧れ」だった半面、多額の負債を背負わされ人生の中でもどん底の時期だったと書かれています。

加山 最悪な状況の中でついて来てくれたのは相当な覚悟があったのかバカなのか、どっちかだな(笑)。それこそ周りにもみんな反対されたと思うしね。(しみじみ)よくついて来てくれたと思いますよ。僕はその最悪な時にそっと包み込んでくれるようなあったかさを彼女に感じたんだよね。それがものすごい大きな支えになった。おふくろが死んだ年ということもあって「こういう温かさが俺欲しかったんだよなぁ」って。で、この人を選んで40年。今年でまるまる40年だよね。乗り越えて来られたのは、いつも僕の横に彼女という「優しさ」があったから。人間、最後に一番望む事って「優しさ」だと思うんだよ。苦難の道であればあるほど、最後に望むものは「あ、この人優しいや」っていう気持ちだけだと思う。僕はこれ以上もう何もないって状態だった時に残っていたのが(彼女という)「優しさ」だったから。これほどありがたかったことはない。苦しみは幸せを幸せだと思える心を与えてくれる。そう俺はいつも自分に言い聞かせてるんだよね。

あらゆる困難を乗り越えて「自己実現」をしてきた加山さんですが、僕たち一般人が「加山雄三」になるためにはどうすればいいでしょう。

加山 (笑)。あのね、自分の心に聞くといいよ。自分の心の中心に向かっておまえは一体何がやりたいんだって。何のために生まれてきたんだって。いっつも聞いてごらん。俺もそうやって生きてきたから。自分の本当にやりたい事。分かんないんだよ。気がつかないんだよ。最初はなかなかね。それに気がついた時には本物の力が出てくるから。体から、心から。そうなると今まで悩んでいる事を全て払拭しちゃう。吹き飛ばしちゃう。風が吹こうが、雨が降ろうが、これが自分の一番の生きがいじゃねえかって、そう思える瞬間が必ずある。それは自分の心に向かっていつも問いたださなきゃだめ。人の意見は聞かなきゃいけないのかもしれないけど、本当の自分の心は自分でしか聞けないから。乱暴な言い方かもしれないけど、その時は人の意見なんか聞かなくていいと俺は思う。自分の心に耳を傾けるんだよ。

なるほど。

加山 あとは「出会い」だね。出会いというものは人生を根本から変えることがある。ホントにそうだと思うね、俺。その良き出会いを迎えるためにも、自分に正直になってポジティブに生きていく。それしかない、道は。以前、ある坊主に「一番正しい道とは」と聞いたことがあってその坊主、「七転八倒っていう道です」と。七転八倒ということはね、7回転んで、また次の8回目も転ぶんだよ。それが間違いのない人生だって。それが本物の人生だ。

最後に今後の目標を教えてください。

加山 少なくとも向こう10年は今のまま、充実した音楽を築き上げていきたいね。いい曲を作ってもみんなに認められなければ、名曲とは言われないから。“スタンダード”って言われたいね! どうも懐メロ、懐メロって言われるのは嫌なんだな。やっぱり若い人たちにも歌い継いでもらえる曲を歌いたい。もう、声高に言いたいです。俺自身が“スタンダード”になりたいんだってね(笑)。昔の人っていうだけじゃなく、今も皆さんと一緒の空気を吸って同じ時代に生きてるんだってね。還暦っていうのは12年間が5回回ってちょうど60になるわけです。で、もう1回回ると72になるわけだよね。去年50周年がスタートする時に72(歳)になってまた新しいスタートという気持ちになれたから。うん、生涯現役、そうありたいと思ってます。「今日」という日が毎日のスタートと思ってね。

加山雄三(かやま ゆうぞう)

職業:俳優・シンガーソングライター・作曲家・タレント・ギタリスト・ピアニスト・画家

1937年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、60年東宝入社。「男対男」で映画デビュー。61年、映画「若大将シリーズ」がスタート、大ヒットする。黒澤明監督の「椿三十郎」「赤ひげ」にも出演。歌手としても、65年に「君といつまでも」が大ヒット。以後も「ぼくの妹に」「お嫁においで」など数々のヒット曲を世に送り出す。他にも画家として個展の開催、作品集発売など、幅広く活躍している。2005年にはカーネギーホールでコンサートをするなど、ニューヨークに縁がある。公式サイト:www.kayamayuzo.com

「若大将の履歴書」

加山雄三・著

芸能生活50周年を迎える“若大将”の自伝が遂に刊行! 好敵手の“青大将”田中邦衛氏が帯に推薦文を寄せ、弾厚作・全作曲リスト(未発表含む)も収録した集大成決定版。団塊世代の永遠のアイドルの人生は映画より華麗!!(出版:日本経済新聞出版社、発刊:2010年4月)

デビュー50周年記念アルバム

「若大将50年!」

加山雄三の代表曲や愛唱する昭和の名曲を新録。(レーベル:ドリーミュージック)

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2011年1月1日号掲載)

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