周防正行/瀬戸朝香

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ニッポンの裁判”衝撃の社会派ムービー 「それでもボクはやってない」

「ガチ!」BOUT. 11.12

日本の「恥ずかしさ」を観てほしい

そのテーマに『痴漢冤罪』を選ばれた理由をお聞かせ下さい。

周防監督(以下・周) 4年前にふと目にした新聞記事がきっかけだったんですね。東京地裁の一審で有罪判決を受けた痴漢事件の被告人が二審の東京高裁では無罪を受けた事件でした。今までの映画もそうだったんですが、僕は全く知らない世界に素人が足を踏み込んでその世界で頑張り、何かを成し遂げる話が割と好きなんですね。今回も無罪をようやく勝ち取るまでのその彼の2年間の戦いは感動的なものだったであろうと、彼の話を聞きたいなと思ったのがすべての始まりでした。聞いてみるとそもそも起訴されるべき事件だったのか、一審で無罪であって当然だったのではないか、と日本の刑事裁判そのものに疑問を強く持ち始めるようになったんですね。確信したのは日本の裁判は『疑わしきは罰し』ちゃってるっていう事実。その怒りがこの映画を作るきっかけになりました。

ここまでリアルに描くのに膨大な取材が必要だったのでは。

 シナリオを書き終えるまでに3年かかりました。その間、無罪を争う裁判を200回くらい傍聴しました。そのうち3件で僕は無罪判決を目にしています。全く無罪を目にしなかったわけではない。ただ、よっぽどいい弁護士、いい裁判官に当たらないと無罪は奇跡ですね、やっぱり。

裁判ものといえば、第一級殺人事件やテロ事件を対象にしているハリウッド映画に慣れている我々には痴漢裁判というものがやたらにリアルに迫ってきました。

 身近なものとして裁判を捉えてほしかったんです。この映画を観た帰り道に自分がこの映画の被告人になるかもしれないと思わせる事で裁判というものをきちっと考えてほしいと思ったんですよ。痴漢事件という身近な事件の中にこそ日本の問題点が凝縮してるんです。

弁護士役に瀬戸さんをキャスティングされた理由は。

周 『とらばいゆ』という映画を観たのが大きかったですね。あれを観てすごく女優らしい女優というか、オーソドックスな大きさを感じました。お会いしてみて、さばさばしてて、好みなんですよ(笑)さばさばしてる人が。飾らないで素直にやってくれる感じがしたんですね。

今回、瀬戸さんは女性弁護士役であり、痴漢冤罪を弁護するという非常に難しい役柄だったのではないでしょうか。

瀬戸(以下・瀬) まず周防さんの作品に出られるだけで緊張ですよね。最初は痴漢事件を担当する事にあれだけ嫌がっていた女性がやり始めるうちに変わって行く。その成長ぶりを見せたかったです。ただ、自然体でやろうと。専門用語もいっぱい出てくる難しい役でしたので。

今回の上映会、NY在住の日本人またはアメリカ人の観客にどこを観てほしいでしょうか。

 実は痴漢事件という極めて日本的なテーマであるがゆえに逆に受け入れられるのではないかと僕は期待しているです。人が人を裁く。これはどこの国でもある。それを日本文化の中ではこうなっていくんですよっていう、その点を世界の人に観てもらいたいですね。もっと云えばこの映画に描かれているいろいろな意味での『日本の恥ずかしさ』を観てほしいと思います。

 とてもリアルに描かれている映画なので、全体を通して観終わった後に考えさせられる作品になっています。日本人以外の方が観てどう感じるのかとても興味深いですね。

 

周防正行(すおう・まさゆき) 職業:映画監督

1956年東京都生まれ。84年監督デビュー。代表作に『ファンシイダンス』(89)『シコふんじゃった。』(92)がある。96年、『Shall We ダンス?』が大ヒット。日本映画の各映画賞を総なめに。更に全世界で公開され、映画史に多くの足跡を残した。公式ブログ:http://soreboku.cocolog-nifty.com/

瀬戸朝香(せと・あさか)

1976年愛知県生まれ。92年芸能界デビュー。同年、映画『湾岸バッド・ボーイ・ブルー』で女優デビューを飾る。以後、テレビ、映画で活躍。代表作に、映画『とらばいゆ』(2001)ドラマ『大奥 第一章』(04)『着信アリII』(05)『デスノート』(06)などがある。公式ブログ:http://ameblo.jp/asaka-seto/

 

■作品紹介「それでもボクはやってない」 

ある青年が身に覚えのない痴漢容疑で逮捕され、その後1年にわたる裁判を経験する姿を通して、刑事裁判の実情を克明に描き出していく。凶悪犯罪が連日のよ うに報じられ社会不安が高まる中で、刑事手続きにおける“推定無罪”の原則が揺らぎ始めている現代社会に一石を投じる力作。

フリーターの金子徹平は、会社の面接に向かうため通勤ラッシュの電車に乗っていた。そして、乗換えの駅でホームに降り立った彼は女子中学生から痴漢行為を問いただされる。そ のまま駅員によって駅事務所へ連れて行かれた徹平は、やがて警察へと引き渡される。警察署、そして検察庁での取り調べでも徹平は一貫して“何もやっていない”と訴え続けるが、そんな主張をまともに聞いてくれる者はいなかった。そして、徹平は具体的な証拠もないまま、ついに起訴され、法廷で全面的に争うことになるのだが…。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2007年10月9日号掲載)

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