日野原重明

0

目に見えないものを大切に

「ガチ!」BOUT.106

 

日野原重明

 

「ガチ!」100回記念は先日100歳の誕生日を迎えられた、世界医学の権威、日野原重明先生。聖路加国際病院理事長兼名誉院長は、日本に米国医学を導入した第一人者。今なお医学・看護教育に尽力し、その活動は日本だけにとどまらず、世界各国にも向けられている。百寿になられた今も、多忙な毎日を過ごされている先生にお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

NYで100歳の誕生会

先生、このたびは100歳の誕生日おめでとうございます。

日野原 はい。ありがとうね。

今回の来米では現地の小学校にも回られると聞きました。ここ数年、先生は小学校での講演にも非常に力を入れられていらっしゃいますね。

日野原 例えばね、今10歳の子が10年後大人になった時に「戦争のない世界」をつくってほしくて、4年前から日本の小学校に十日に1回、「いのちの授業」をしに行っています。授業では子供たちに、命がどれだけ大切な物であるかということ、自分の命と同じように他の人の命も大切であるということ、いじめなんかしないでお互いをいたわり合えるようにしましょうということを説いてね、そして、君たちが大人になっても世界平和のために努力をしてほしい、と。そういうことを話していますね。

その活動を海外にまで広げていらっしゃるわけですね。

日野原 私がね、最近よく考えるのは日本だけでなく世界を変えることができないか、ということ。それをコンセプトにできたのが「新老人の会(ニューエルダリー)」という勉強会なんですね。ちょうど10年前に発足して、現在1万2000人の会員がいます。海外にもこの会を広げようと、世界中、(アメリカでは)フィラディルフィアからニューヨーク、カナダ、ブラジル、韓国、台湾、そういうところに支部を作ってね、それらをずっと巡回することを今日までやってきました。ですから、私が海外に来る機会を利用して、いつも(「いのちの授業」を世界各国の)どこかの小学校でやっています。

非常にハードなスケジュールですが、お体は大丈夫でしょうか。

日野原 でもね、子供に接することで逆に彼らから若さをもらっていますから(笑)。何より気持ちを若くしなきゃダメですからね。

あらゆる所で聞かれる質問かと思われますが、やはり先生には長寿の秘訣(ひけつ)を伺いたいです。

日野原 まずね、歳を取っても30歳の時の体重を保つようにしてください。30(歳)を過ぎると宴会やら接待やらでどうしても食べ過ぎてしまいますね。で、どうしても運動量が少なくなる。その結果体重が増えて、内臓に脂肪がたまり、血管が詰まる。そうなると動脈硬化や糖尿病などあらゆることが起きてしまいます。まずは食べるカロリーを減らしてください。でも脳や細胞に必要なタンパク質はちゃんと取ってね。減らさなきゃいけないのは動物性の脂肪、それと糖分。お肉、ご飯はほどほどにして、お野菜は十分とってね。お野菜の中には長寿の成分もあるんですよ。それは葉酸。ビタミンBですね。ブロッコリーの中には長寿の成分がいっぱい含まれています。だからサラダは山のように食べてね。あとは動脈硬化を予防するにはオリーブオイルがいいということが分かってきた。(オリーブオイルを習慣に取る)地中海沿岸のギリシア人やイタリア人はみんなお肉を取っているんだけど、心筋梗塞が少ないの。そして北米の人たちの一番の死亡原因は、がんではなく心筋梗塞なんですね。だから私は「人を若くする」オリーブオイルを毎朝テーブルスプーン1杯くらいアップルジュースに入れて飲みます。それを30年続けているから、血管が詰まることはないですね。そういう食べ物を選択する生活を心掛けることですね。

食べ物以外で気をつけることは何でしょう。

日野原 最近まで私は執筆で忙しくて、決まって週に1回は徹夜をしていました。さすがに100歳を越えると徹夜はもう無理ですね。だから12時半より遅くは寝ないようにして、朝は6時半に起きる。起きたらまずはストレッチをやってね。体を柔軟にするように努めます。そして呼吸法。ヨガや座禅、太極拳の息の仕方で呼吸をします。息は吸うことよりも吐くのを長くする。すーーーっと吐いてから軽く吸う。吐き出すことに重点を置いた呼吸法で胸が開いて酸素が入ってくる、そういう腹式呼吸。呼吸の仕方が長生きには必要な条件であるということですね。

在米の日本人が特に気をつけることはありますか。

日野原 アメリカに住んでいる方の食事、これは正直に言って健康的とは言えないですね。脂肪分が多過ぎますね。なるべく動物性の脂肪を少なくして、サラダを十分に食べる。お肉よりはお魚の方がいいから、魚中心の食事に切り替えること。エクササイズは十分にすること。アメリカ人はタバコを吸わない人も多いけど、日本人はまだまだ多い。肺がんにならないためにもタバコを吸わない習慣を続けることですね。

なるほど。最後に在米の日本人読者にメッセージをお願いします。

日野原 あのね、「愛」って目に見えないでしょう。「空気」も目に見えない。どちらも見えないけれど、どちらもなくなると困るものですね。人間にとって本当に大切なもの、それは目に見えない物の方が多いかもしれないね。目に見えないもの、それをどれだけ大切にするかで、あなたの人生は決まってくると思います。それと、もう一つ。人を愛して、愛されてください。人を愛して、愛されたら、それだけで人生は素晴らしいものになりますね。でもね、もし、どちらかを選ばなきゃいけないとしたなら、愛されるより、愛する人生の方が、その人は幸せかもしれないね。

日野原重明

日野原重明(ひのはら・しげあき) 職業:医師・医学博士
1911年山口県生まれ。京都帝国大学医学部卒業。41年、聖路加国際病院内科医となり、内科医長、院長を経て、現在は聖路加国際病院理事長・同名誉院長、聖路加看護学園理事長、聖ルカ・ライフサイエンス研究所理事長を務める。99年に文化功労者、2005年に文化勲章受賞。日本に米国医学を導入した第一人者。患者参加型医療・予防医学・終末医療の推進、「成人病」という呼称を「生活習慣病」と変えるなど画期的な医療改革に貢献。医学・看護教育に今なお尽力している。著書は多数。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2011年10月8日号掲載)

Share.