栗原はるみ

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キュウリとお醤油で世界征服します! 

「ガチ!」BOUT.60

料理家で数々の料理本を執筆している栗原はるみさんが新著「Everyday Harumi」の出版を記念してニューヨークを訪れた。連日のプロモーション活動でお疲れかと思いきや、変わらないやさしい笑顔で迎えてくれた。栗原さんの目に映る今のニューヨーク、また今後の活動などについてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

新著「Everyday Harumi」出版記念に3年半ぶりのNY

ニューヨークにはしょっちゅう、来られているイメージがあります。

栗原 いえ、いえ。実は以前お会いした時以来(2006年4月)来てないんです。お仕事と言えばロンドンばかりで、イギリスだと頼めばすぐに料理教室とかできちゃうと思うんです。だけどニューヨークだとあんた誰? ってまだ言われちゃうと思いますね。

でも昨日の紀伊國屋ニューヨーク本店でのサイン会は満員でした。

栗原 日本の方が中心でしたから。で、イギリスだと逆転します。現地の方のほうが多いですね。

今日のこれからのトークショーは日本の方のほうが多いと思います。どちらがやりづらいとかありますか。

栗原 どっちも! トークって、いまだにドキドキしますね。まぁっったく慣れない。本当に下手!

もう、何百回やられてるのでご謙遜(けんそん)ですよね。

栗原 それがホントにダメなの。もう、英語のスピーチも何回もやってるんですよ。イギリスや(米国の)アトランタでは日本の料理を伝えるために大使公邸みたいなところでもやるんです。練習のときは上手なのになあって。で、本番になった瞬間にあまりの緊張ですべて抜けちゃうの。「Ladies and Gentlmen」って言ったきり、何だっけって。もっと英語力があればねぇ〜。

全然、緊張してるようなイメージないです。

栗原 実はすっごい緊張するタイプなんです。見えないと思うけど。

見えないです。

栗原 でも、大使館の時(のスピーチ)は完璧だったよね? ね? ね?(周りのスタッフに同意を求めて)

実は5年前のインタビューの時も、先生、料理のお話してくれずに英語のお話ばかりでした。(笑)

栗原 あははははははは。だって、この機会を逃すと英語を学ぶ機会ってもう絶対に来ないじゃない。だからこれを生かさなきゃと思って。

(笑)。今回のお料理本はどういったコンセプトで出版なさったのでしょうか。

栗原 今回は外国(現地)の方のために、簡単でも絶対おいしくできるレシピを選びました。特に3冊目の今回はイギリスで作ったのでちょっと感慨深いですね。

日本でお仕事をされるときと、今回のように海外でお仕事をされるときと、お気持ちの上で違いはありますか。

栗原 違わないです。

外国の方の前でデモンストレーションをされるときに、日本のときと変えられる事とか…。

栗原 全く同じです(笑)。変えることができないんです、あたし。

そのままなんですね。

栗原 まぁ、海外の方は(日本の)調味料が分からない人もいらっしゃるので、まずお醤油(しょうゆ)を買ってねって伝えるくらいですね。お醤油さえあれば、たとえばワインビネガーとお砂糖を使って鳥のから揚げのおソースを作れます。日本のお酢がなくてもできるんですよ。味が全然違うっていう心配は要らないです。近い味なんですよって堂々としてたらいいのにとあたしは思うんです。海外では調味料が違うからと言ってたら、いつまで経っても日本食は広がっていかないですよね。

はい。

栗原 決して、難しいことではないんです。ピーナッツバターにお醤油を混ぜて、ゆでた野菜をあえるだけとか。

それなら、僕にもできそうですね。

栗原 できます、できます。おいしくできると思いますよ。野菜ならなんでもいいですよね。こっちのピーナッツバターを使っても、胡麻和(ごまあ)えに近い、和食だと思ってもちっとも不思議じゃない。

なるほど。

栗原 ちょっと酸味がほしかったら、お酢の変わりにワインビネガーや、レモンでもいいのよ。お味噌(みそ)を加えればピーナッツの味噌胡麻和えになっちゃうじゃない。

面白いです。

栗原 お醤油一つで、どんどん広がるんですよ。(日本食と海外の食は)実は非常に近い距離にあるって、それを確認できただけで、今回はすごくいい旅でした。

ニューヨークに来られた際によく行かれる日本食レストランってございますか。

栗原 今回はね、テレビ局の方にいろいろ連れて行ってもらいました。

お店の方は嫌がったりしませんか。

栗原 なんで?

だって、「栗原はるみ」が来店するわけですよね。僕が料理人だったら絶対、嫌です。

栗原 そう?

イチロー選手の前で野球をするようなもんですよね。言ってみれば。

栗原 あははは。そんな事ないです。見た目、普通のおばちゃんでしょ。

(思わず)はい。

栗原 ね! (笑)

あ、というより、先生はいい意味で全くこちらを緊張させないというか、「世界のカリスマ主婦」と思えない気さくさというか…。

栗原 不思議ですよね。どこでどうなっちゃったんだろうって時々思ったりはしますけど…。まぁ、確かに忙しくはなりました、ね。

はい。

栗原 だけど、意外に家のことちゃんとやってるんですよ。皆さん「やる時間ないでしょ」って言うけど、朝は決まって5時半に起きてちゃんと家事をして、猫の世話に金魚の世話、夫のパジャマにアイロンかけてるし、普通の主婦がちょっと仕事を持ってる感じです。

でも、普通の主婦がロンドンやニューヨークに呼ばれて大使館でスピーチしないですよね。

栗原 あははは。確かに。

15年前では想像つかなかったことではないですか。

栗原 だって、仕事をしない人生と思ってましたから。私の中ではありえないと思ってたことが3つ。仕事は持たない。英語は話さない。賞はもらわない。

全部やってますね(笑)。先生がとらえる日本料理、和食って今、世界ではどのポジションでしょう。

栗原 (即答で)1番じゃないですか、世界で。1番になりますよって言うか、もうなってると思う。絶対にね。

イタリアンよりも。

栗原 ええ。

フレンチよりも。

栗原 もちろん。フレンチでも今はやってるのは非常に軽い食材を使った、日本に影響された料理になっていますよね。

ああ、なるほど…。分かんないですけど。

栗原 だから、もうそういう時代が来ちゃったと思いますよ。生クリームを使ったおソースを少し薄めてライトにしていっていると思う。

世界でも日本料理はナンバーワンなんですね。それさえ聞けたら、もう。

栗原 ええ、確実に。キュウリとお醤油で世界征服します(笑)!

最後に先生はニューヨークにどういった印象をお持ちでしょうか。

栗原 まだ、なじめてないんです(笑)。撮影だと今までロケバス移動じゃない。でも今回、時間があって初めてちょっと歩いてみたんです。やっとストリートとアベニューが分かってきて次回からは一人で歩けるんじゃないかな。うん、そうしないとこの街は面白くないですよね。

◎インタビューを終えて

栗原さんとお会いするのは実に3年半ぶり。この間、彼女を取り巻く環境はさらに変わり、特に欧州ではどこに行っても道行く人に話しかけられるほど。しかし再会した栗原さんは3年半前と全く同じ「栗原さん」の笑顔で僕たちを迎えられました。インタビュー中、前回お話に出た僕の持病である腰痛を覚えてくれていて、「そこに寝たままでインタビューしてくれてもいいのよ」と心配してくださいました。さすがにソファに一人寝転がってのインタビューは気がひけて遠慮しましたが、途中、冷蔵庫から昨夜漬けたという、キュウリの浅漬けを出していただくは、(絶品!)「まだ昼間だけど空けちゃおっか」とビールを勧めていただくは、と取材とは関係ないところでも最初から最後までお心遣い満載でした。レコーダーがONの時とOFFの時とこれほど変わらない有名人も珍しいかと思います。そして、3年半前と変わらず栗原さんとのお話からは大切な家族への愛を感じる事ができました。「どんなに忙しくても夫に対しておいしい料理を作る時間をちゃんと持たないと意味ないもんね」。世界的に有名なカリスマ主婦の正体は、何より家族思いのお母さんでした。

栗原はるみ(くりはら・はるみ)

職業:料理家

静岡県出身。1973年にキャスターの栗原玲児さんと結婚、専業主婦に。2児を育て、その経験を生かし92年、著書「ごちそうさまが、ききたくて。」(文化出版局)を出版。100万部を超えるベストセラーに。以来、暮らしを楽しむコツやライフスタイルを提案する「栗原はるみ」ショップや、レストラン&カフェを併設した「ゆとりの空間」をプロデュースし、オリジナルの食器やキッチン雑貨、調味料、インテリア小物、エプロン、ウエア、ハンドクリームなどを展開。ことし3月には、著書累計発行部数が2000万部を突破した。家庭料理を中心としたアイデアあふれるレシピは、年代を問わず幅広い層から支持されている。

公式サイト:www.yutori.co.jp

haru-mi公式サイト:http://harumi.fusosha.co.jp/

 

■新著紹介
ゆとりの空間・料理家栗原はるみ・海外出版書第3弾!!
「Everyday Harumi」
イギリス・ロンドンで撮影した、栗原はるみの英語料理本。日本人以外の方でも作りやすい和食をメインに、60点以上のレシピを掲載。内容はすべて英語。出版社: Conran

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2009年10月10日号掲載)

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