桂三枝/桂かい枝

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落語って本当に面白いんだと
世界の人に知っていただきたい

「ガチ!」BOUT.31.30

海外に向けて、落語のよさを広めることを目的とした、英語落語の寄席「第2回ニューヨーク繁昌亭」が17日、マンハッタンで開かれた。昨年に続き、文化庁文化交流使の活動の一環で全米で英語落語を公演中の桂かい枝さんが落語を披露したほか、上方落語協会会長の桂三枝師匠も特別出演した。公演後、 桂三枝師匠と桂かい枝師匠にお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

文化庁文化交流使として全米で英語落語を公演中

ニューヨークの観客を前に舞台を終えられて、今の感想はいかがでしょうか。

三枝(写真左) やっぱりね、この街はブロードウェイがあって、ショービジネスの国ですから。お客さんがとても洗練されてるように思いましたね。盛り上げていただいたというか、いいお客さんだったなと思います。

かい枝(写真右) まず最初に、やっぱり三枝師匠に来ていただいてすごく勉強になりました。僕らはある意味勢いだけでやってますが師匠は本当に落語というもののストーリーで笑わせる。アメリカ人まで大笑いさせる。それが落語の本来の姿ですから。その完成度に本当に素直に凄いなと思わされました。

かい枝師匠の後半のお題目(親日のアメリカ人と英語苦手の日本人の掛け合いがベースになってアメリカ人から見る日本の不可解なところ、不思議なさまを描写している)はこの日のために作られたんでしょうか。

かい枝 そうですね。ここ6カ月アメリカを回らさせていただいて、日本人に対するイメージだとか日本という国の不思議なところをアメリカ人から実際聞いて、それを寄せ集めたりなんかして。まぁ完成度はまだまだなんですが喜んでいただけてたら嬉しいです。

日本人のお客さんとアメリカ人のお客さんの反応の違いは具体的に感じられましたでしょうか。

三枝 んー、そんなに笑う箇所での違いは感じなかったです。まぁ先ほども申し上げたようにニューヨーク(のお客さん)は本当に洗練されていると思いましたね。盛り上げてあげようっていう気持ちがおありなんですねぇ。す~ごくやりやすかったです、はい。もちろん(今日のお客さんの)日本の方もそうですけどね。非常に楽しみ方がお上手なんだと思いました。

かい枝 ふつう、アメリカでやらせていただくと、日本人のお客さんも(われわれ)出演者と同じような感覚になってしまってヘンな責任感を持たれる方も多いんですね。「アメリカ人もちゃんと笑うかな」「大丈夫かな」って。何て言うんでしょう、自分の国を代表して落語家がアメリカ人を笑わせているという感覚なんでしょうか、やりにくい場合が多いんです。ただ、今日のお客さんは三枝師匠が来られるという事もあり(自分たちが)すごく楽しんで本当に盛り上がってくれましたので大いに笑いを引っ張ってくれましたね。特にアメリカ人の方は声量が大きいので(笑)。前の方にいた黒人の方がすっごく大きな声で笑ってくれてみんなをこうグーッといい世界に連れて行ってくれたような感じがありました。

三枝師匠が舞台袖から出てこられたとき、客席は異常に盛り上がって大歓声でしたが師匠は舞台上でそれを感じられましたか。

三枝 うん、もちろんそれは非常に感じ取れましたよ。ありがたい話ですし、ここ(舞台上)から見てますと、日本人のお客さまとアメリカ人のお客さまと、皆さん一体となっててあんまり違いは分かりにくかったかな。まあ字幕でやったのは初めてでしたから(字幕のタイミングが遅れて)多少アメリカ人の方がちょっと日本人の方より遅れて笑われるのでどこで笑わせているのか自分でよく分からなかったですけど。

(笑)今回、英語字幕と合わせながらの落語は苦労も多かったと思います。

三枝 あんまりね、しっかり合わす時間がなかったんですけども、字幕をやって下さる方が非常によくやってくれて。

次回は英語でやろうというお気持ちはありますか?

三枝 そうですね、かい枝くんたちを見てね、(字幕より)英語でしゃべる方が全体的に伝わるんでね。どうしても字幕ですと間接的でまどろっこしいっていうのがありますから。うまくいくか、いかないかは別として英語でやってみたいというのはありましたね。どの落語が英語に合うかもまだ分からないしね。うん、まぁ英語でやれたらな、とは思いますね。

かい枝師匠は今回の英語落語にどれくらいの準備期間をとられたのでしょう。

かい枝 英語落語は97年からですからある意味10年以上ですね。いままで12カ国以上でいろんな公演をやらせていただいたんですけども、今回はじめて6カ月という長期期間で来させていただきましたのでそのおかげで、なぁんとなくアメリカ人のお客さんはこんなふうにしたら笑うねんなっていうのはちょこっと分かってきたような気はしてます。ほんと、なぁんとなくですけど。60回もやらせていただいてますんで。この経験を生かしてやっぱり落語って本当に面白いんだと世界の人にも是非知っていただきたいですね。「落語」という言葉がそれこそ「スシ」とか「テンプラ」のように世界中の人に知ってもらえる事になれば本当にいいなと思いますね。

三枝師匠からご覧になって今日のかい枝師匠の落語はいかがでしたでしょうか。

三枝 そうですね、よくウケてたし、非常にリズミカルというか…。まぁ、私には英語でどれがどれなのかよく分からなかったですけど(笑)こちらで勉強した甲斐があったなと。(かい枝師匠に向かって)このままアメリカに住んだ方がいいんじゃない?

かい枝 (慌てて)え、いや、師匠、それはさすがに、あの…(日本に)帰らせて下さい!

三枝 でもこれで日本に帰ったら帰ったでまた日本のやり方をマスターしていかないと。どうしても(こっちでやると)多少オーバーになるし。またそれをアメリカのお客さんは喜ばれるからねー。

かい枝 師匠もおっしゃるように日本のやり方と全然違うくて、この間、日本にちょこっと一時帰国してやった時に、やっぱりおおげさになってしまうんですよ。いつも見てるお客さんに「あんた、前の方がよかったわ」って言われまして。(笑)

三枝 落語はね、難しいですけど、そこをうまく切り替えてね。僕はかい枝くんにはこれからアメリカを始め、ヨーロッパでも世界中、英語で落語も広めてほしいなと思います。

かい枝 頑張ります。

今年も盛り上がった「ニューヨーク繁昌亭」。最後の舞台あいさつをする(左から)司会のグレッグ・ロービックさん、桂あさ吉さん、桂三枝師匠、桂かい枝師匠、内海英華さん=17日、カフマンセンター

今年も盛り上がった「ニューヨーク繁昌亭」。最後の舞台あいさつをする(左から)司会のグレッグ・ロービックさん、桂あさ吉さん、桂三枝師匠、桂かい枝師匠、内海英華さん=17日、カフマンセンター

◎インタビューを終えて 三枝師匠が袖から登場された際の観客の反応を聞いた時、どれだけみんながこの日を楽しみにし ていたか分かった気がします。RAKUGO好きのアメリカ人のみならず久しく落語を聞いていなかった在米の日本人にとってもこの日は心の底から笑えた日になったのではないでしょうか。かい枝師匠の噺家特有の通る声に聞き慣れない日米の入り交じった笑い声が加わり、その場の国境は完全に消え、それでも自分が日本人だと不思議と実感できる、そんな心地よい空間でした。

桂三枝(かつら さんし)

職業:落語家、タレント、司会者、吉本興業代表取締役執事、社団法人上方落語協会会長

1943年生まれ。大阪府堺市出身。67年、ラジオ番組で若者に圧倒的な支持を得、69年には「ヤングOh!Oh!」の司会に抜擢され、テレビ界に進出。81年に創作落語を発表する「落語現在派」を旗揚げし、200を超える作品を発表。海外でも落語会を開催する。2003年に第6代目上方落語協会会長に就任した。

桂かい枝(かつら かいし)

職業:落語家

1969年生まれ。大阪府尼崎市出身。94年、五代目桂文枝に入門。古典・新作はもちろん、日本独自の笑芸落語の魅力を世界の人たちにも伝えたいと、97年より、英語落語海外公演を行い、これまでに世界12カ国200を越える公演を行っている。古典新作英語と幅広く活動している。モットーは「兎に角笑える高座」。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2008年9月21日号掲載)

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