矢野顕子(3)

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ライブでは音楽だけが持つ喜びを感じてほしい

「ガチ!」BOUT.128 

 

矢野顕子

 

「ガチ」連載史上最多出場の矢野顕子さん。11月7日、ニューヨークのJoe’s Pubにて「AKIKO YANO TRIO」ライブを開催する。今夏、4回目の日本ツアーを一緒に行ったウィル・リーさん、クリス・パーカーさんとの共演でのニューヨーク公演は実に3年ぶり。当日に向けての気持ち、アメリカ暮らしについてお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

 

トリオで3年ぶりNYC公演

矢野さんに最初にインタビューをさせていただいたのは、もう8年前になります。それ以来、一切お年を召されてなく、お若いままで。

矢野 何、言ってんですかぁ。(笑)

ホントに全然、変わられてないです。アメリカ暮らしであるということも「若さの秘けつ」に関係ありますか。

矢野 (いきなり)この前、日本で中学の同窓会に何十年ぶりかで行ったの!

あ、周りのあまりの劣化具合に、びっくりされました?

矢野 そんなことはないけど(笑)、でも、こう、感慨深いものはありました。お互いの人生で歩んだ道の違いっていうのかな。特に男性の場合は日本社会で生きていく大変さってあるでしょう。もちろん、ニューヨークの生活もいろいろ大変なことはあるけど、ストレスと言っても、ね…。

日本社会の中で受けるそれとは違うかもしれないですね。

矢野 例えば同じ職種で比べてみた時に、やっぱりニューヨークに住んでることで、自分が恵まれていることはたくさんあるとは思います。でも私の場合、そこ(若さ)がビジネスのプライオリティーではないので、やっぱり音楽を聴いていただくっていうのがまず第一ですから。まだまだ、これからとは思ってますけど。(笑)

そのニューヨークでのライブは「いつまで経っても特別なトキめくものだ」と昨年のインタビューでおっしゃられてました。

矢野 もちろん! 日本であればプロモーターがいて、マネジメントカンパニーがあって、私は当日そこに行って歌えばいいわけですけど、こっちの場合は自分でやらなきゃいけない部分も多いのね。自分が一介のシンガーソングライターとして、皆さまに足を運んでいただいて、そして「私の」音楽を聴いていただく。それが緊張感にもつながるし、より謙虚な気持ちになるかしらね。

今回のライブも矢野さんとはン十年来のお友達であるベースのウィル・リーさんとドラムのクリス・パーカーさんとの共演になります。「その3人だけの音がある」ともおっしゃっていましたが。

矢野顕子

矢野 何かね、だんだん(音が)熟成される度合いが濃くなってきて。

うれしそうです。(笑)

矢野 うん!(笑)例えば、家族や夫婦が一緒に暮らしていけば、まぁいいことも悪いこともあるけれど、それでもだんだん“絆”って強くなっていくじゃない。

はい。

矢野 そんな感じ。(笑)

矢野さんにとっては本当に家族や夫婦みたいな関係なんですね。

矢野 うん、「家族」っていうのが一番近いかしらね。

夏には、このトリオで日本でもコンサートをやられたんですよね。

矢野 はい、今年の夏はたくさんやりました。初めて東京以外にもツアーで回ったから、当然、演奏する機会が増えますよね。そうするとやはりバンドですから、毎回、毎回、3人の有機的なつながりっていうのが変化してくるわけです。「あら、あなたこんなこと思ってたの?」とか、「へー、そんなふうに感じてたんだ」とか、音楽的に会話ができるっていうのかしらね。回数を重ねていくうちに「あ、そうだったんだー、じゃあ、これからそうするね」って。どんどん3人の関係が、濃くなっていくのが分かるんですね。

そうなっていくと矢野さんご自身も楽しくなりますよね、やればやるほど。

矢野 すごく楽しいです、やればやるほど(笑)。このトリオで演奏する時って、もう思いっきり、曲をプレーすること自体をエンジョイできるっていうのかな。私たち自身の盛り上がりを、そのままお客さんに楽しんでいただけるって思ってるんです。割と私たち自身が楽しんでます。(笑)

矢野さんはいつも、お2人の話をする時ってホント、楽しそうですよね。

矢野 もうね、うれしくてしょうがないの。(笑)

では、その3人の今度のライブ、言葉にするには陳腐かもしれませんが、観客には何を伝えたいでしょう。

矢野 そうだねー、うん…。(しばらく考えて)深い考えはないんです。ひたすらワクワクするような曲も、こう、じっくり考えるような曲も、いろーんな曲を演奏するので、それらを全部ひっくるめて、音楽だけが持つ喜びっていうのかしらね、それを感じ取っていただけたら、いいなあって。それだけですね。

はい。

矢野 例えばロックだったら、一緒に踊って、わーっていう楽しみ方もあると思うけれど、私の場合は、他にもいろんなエレメントがあるので。そう考えると、やっぱり歌詞の持つ意味は大きいかもしれないですね。それも踏まえて楽しんでいただけたらな、と。

なるほど。日本のアーティストがニューヨークでコンサートを開催する場合、皆さん「一世一代の勝負っ!」って感じで意気込むわけじゃないですか。矢野さんの場合、この街でのライブはもはや日常の光景というか、ある意味、恒例行事にすらなってますよね。

矢野 まぁ、住んでるとこだからねぇー。

でも、日本でのライブも日常的にやられてますよね。ここ何年かのスパンで見たときに両方で当たり前のようにライブをされているアーティストは稀(まれ)だと思うんです。それってすごく贅沢(ぜいたく)というか…。

矢野 そうか、贅沢っていえば贅沢だねぇ。なるほど、それ気が付かなかったな(笑)。うん、ほんとだね。なんつーこった(笑)。でも確かにそれも含めて、アメリカで暮らしていることの恩恵っていうのは感じますね。モノを創る気持ちにしても、ずっと日本にだけいたら生まれてこないのかなとも思いますし。やっぱりこの街の持つ力っていうのはすごいよね。

この2012年、矢野さんにとってはどんな年だったでしょう。

矢野 (かぶせ気味に)忙しい! だって…今…10月?…10月!!!(自分で言って、自分で驚き)信じらんないね。(笑)

(笑)。日本とアメリカの行ったり来たりの生活だけでも大変でしたよね。

矢野 でも、やっぱり思うに、その同窓会に行っても思ったけどさ、全ての人が自分の仕事が楽しくてやってるわけじゃないでしょ? それに比べれば、私は楽しいこと、得意なこと、しかもそれによって人が喜んでくれることを商売にさせてもらってるわけよ。そしたらね、ほんとにね、不満なんて言っちゃいけないよねー(笑)。ほんとにそう思います、はい。

最後に、現在在米で頑張っている日本人に向けてメッセージをいただけますか。

矢野 私、何人かの学生の友達もいますけど、(アメリカに)いられる間にできるだけ勉強してほしいと思いますね。それは学業だけじゃなく、社会全体を感じてほしいって意味で。このネットの時代でなんでもクリック一つで見えたり、買えたりするじゃない。でも、体感を、体験をしてほしいと思う。例えばニューヨークに来たとするならば、「ニューヨーク」を本当に楽しんで、感じてほしい。いつか日本に帰ることがあったとしても、その時に「あぁ、あんなことあったんだよなー」って思えるでしょう。それって宝物になると思うのよね。

矢野顕子

ネットだけでは分からないことを。

矢野 そうね。グーグルアースでさ、自分の住んでるとこ見ると「こんなとこまで!」ってところまで写るじゃない。そうしたら、自分のいる場所から一歩も出なくても「矢野顕子ってこんなとこに住んでるんだあ」って分かるわけですよね。でも、実際来て、触ってみると、例えば「この建物こんなに古いけど、なんでまだ崩れてないわけ? あ、このあたり地震が少ないんだ」ってとこまで分かるじゃない。今まで生まれてから一度も地震を経験したことない人が世界中にはまだいっぱいいるでしょ? そういう人たちと実際に会ってたくさん話をしてほしいわけ。

世の中、体感しないと本当のことは分からないことだらけですよね。

矢野 ほんとのこと言えば、例えば日本国民全員がアメリカに1年でも滞在すれば、日米間での戦争って絶対起こらないと思うの。「この国にはどうやっても勝てないや」って思うでしょ(笑)。太平洋戦争の時だって、一生懸命反対した人たちはやっぱり留学経験者だった。山本五十六だってそうですよね。この国を体験した人ならば「あの国と戦っても無理だから」って、分かるの。もちろん、逆を言えば、ニューヨークに生まれた人たちだって、どんなに他民族、多人種の中で育ったとしても、実際、日本に一度行ってみれば「えっ!」っていうようなこと、やっぱりたくさんあると思う。お互いの文化への敬意とか、理解する気持ちっていうのはネットじゃ無理よね。だからこそ、今アメリカに住むことができていたとしたら、アメリカを感じて、ぜひそれを十分に楽しんでほしいと思いますね。

■ライブ情報

【日時】11月7日(水)午後7時30分〜(午後7時開場)
【会場】Joe’s Pub NYC
【場所】425 Lafayette St(bet 4th Ave & Astor Pl)
【チケット】Reserver 30ドル、Premium 35ドル(全席指定)
【チケット購入】212-967-7555、joespub.comから
【ウェブ】矢野顕子公式サイト:www.akikoyano.com
フェイスブック:www.facebook.com/pages/Akiko-Yano/127575147819
ツイッター:https://twitter.com/Yano_Akiko

 

矢野顕子(やの あきこ) 職業:シンガーソングライター&ピアニスト
1955年東京生まれ、青森育ち。幼少からピアノを弾き始め、青山学院高等部在学中よりジャズクラブで演奏を始める。76年にアルバム「APANESE GIRL」でソロデビュー。初期YMOのライブメンバーでもある。90年にニューヨークに移住。現在までに、海外リリースを含む29枚のオリジナルアルバムをリリースしている他、現在は森山良子、上原ひろみ、故rei harakami、それぞれとのユニットも組んでいる。CM、映画音楽も手掛けており、宮崎駿監督作品「崖の上のポニョ」ではポニョの妹たちの声を担当した。今年の12月は、恒例の「さとがえるコンサート」のために訪日、ものまねで知られるタレント/女優の清水ミチコを迎えて日本でツアーを行う。訪日中には、アイルランドの重鎮、チーフタンズのコンサートにゲスト出演する他、ソロリサイタルも各地で開催する。最新アルバムは今年8月に発売されたベストライブ盤「荒野の呼び声―東京録音―」。公式サイト:www.akikoyano.com

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2012年10月27日号掲載)

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