長井秀和

0

こっちに来て実力を証明するしかないなって…

「ガチ!」BOUT.24

長井秀和

「間違いない!」の決めゼリフと毒舌で、日本で一世風靡したお笑いタレント長井秀和さんが、単身ニューヨークにやってきた。人気絶頂期に渡米してきたその意図は? 今、ニューヨークで感じた、日本のお笑いと、アメリカのコメディについて、長井さんにお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

人気絶頂期に単身NYへ ライブで感じた〝笑い〟の違い 

ニューヨークに来られて10カ月たちました。

長井 やっと慣れてきた、ってかんじですね。季節も夏に入ってきて特に最近楽しくなってきたところですかね。

日本と違って苦労されてる事はありますか。

長井 そうですねぇ、日本にいる時に虫歯になると治療費がバカ高いって聞いてたんで毎日一生懸命磨いてたんですよ。なのに急に痛くなって、あれ、おかしいなって思って。で、歯医者さんに行ったら磨きすぎによる知覚過敏って言われちゃいました。まぁそれくらいですかね。

知覚過敏って(笑)。それくらいですか。

長井 そう、やりすぎも良くない。あ、あとはねハーレムに行った夜にこっちをめがけてガラス瓶を投げられました。歩いてるだけで。それも4、5発。最初はipod聴いてたんで気がつかなかったんですけどパリーンって音がして。なんだろなって思ったらガラス瓶だったんですよ。ハーレムにいたのに「THE BRONX」って書いてあるTシャツ着てたからなのかなぁって思ったり。

多分、それは関係ないかと…(笑)。あの、僕が最初に長井さんにお聞きしたかったのは、なぜ、人気絶頂期に日本の芸能界を離れてNYに来られたのかという事なんです。この質問は嫌という程されてきたと思うんですけど。

長井 そうですね。実はかなり前からずっと(渡米したいと)思ってたんですよね。去年の2月か3月くらいにはもう完全に行くって周りに言ってて。結果9月までのびたんですけど。やっぱり理由としてはまず英語でコメディーが出来る人間になりたかったんですよ。特に日本はアメリカの影響をすごい受けてる国だと思うんです。映画の宣伝と言えばジョージ・クルーニーやキャメロン・ディアスが来たりして。なんかそれを見てると日本はいつまで良いお客さんでいるのかなって。それが嫌だったらアメリカに来てアメリカ人に納得させる形で自分の主張を伝えるべきだと。そう考えてるうちに、あ、これはアメリカの土壌で勝負出来るようにならないとにっちもさっちもいかないなと思いまして。

そう考えると長井さんのスタイルはスタンドアップコメディという点でアメリカ向きというか…。

長井 こっちでもやれるようにって(日本にいる時から)ネタを作っていたんで。こっちの人間が笑うような理屈の通ったネタをですね。アメリカ人はエンターテイメントは自分たちがナンバーワンだと思ってますから。だから絶対こっち来て(自分の実力を)証明するしかないなって思ってました。ちょっとえらそうかもしれないですけど、それは日本にいる時から思ってて、こっちに来てもその考えは変わってないですね。

笑いという点では特に言葉のハンデってありますよね。

長井 今おれ38歳です。当時は37歳だったんですけど、なるべく早く行かないと語学的にダメになっちゃうなって思ったんですよね。よく言われるのは35過ぎたらむずかしいとか、日本人の男性は語学習得に向いてないとか。早いうちにって思ったキッカケではありましたね。例えばトランプでいうとアメリカ人のコメディアンが53枚全て揃えてるのに俺は2、3枚みたいなね。パフォーマンスにおいて絶対的なバリエーションの差はあるんです。ただ、逆に言うと俺は日本人だ、外国人だっていうことで彼らが使えないようなジョーカーを持っているとも言えるんですよね。そこをどう使うかだと思います。

その絶対的に差のあるバリエーションで工夫されてる事はなんでしょう。

長井 うーん、ただね、英語の問題だけでなくそれプラスちゃんと聞かせるっていうペイアテンションをもたせる力もないとダメなんですよ。むかし、どこかの英会話学校の宣伝で英語が話せると10億人と話せるってのがありましたけど、その10億人のうち何人にお前と話したいと思うのか、そのうち何人にお前に魅力を感じるのか、そこが問われると思うんです。要は独創性が重要だと思うんですね。

最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

長井 そうですね、自分にはこれが出来るんだって思う事、そしてそれをやり続ける事も一つの才能だと思うんですね。その才能を大切に目標に向かって頑張って下さい。

今日はありがとうございました。

 

米国人の前で笑いをとる長井秀和=16日、「ニューヨーク・コメディ・クラブ」

米国人の前で笑いをとる長井秀和=16日、「ニューヨーク・コメディ・クラブ」

 

◎インタビューを終えて

日本のメディア用に、ただ単に「ニューヨークで舞台に立ちました」という既成事実を作るために渡米したのではなく、本気でアメリカのコメディアンと日々戦っている長井さん。「全く自分の事を、日本の実績を知らないこっちの客の前に出て、笑ってもらいギャラをもらう、俺はそれがしたいんですよ、そこまでしたい。つまりガチンコなんですよ」。インタビュー直後、長井さんはその足でステージに立ち、言葉通り何の前知識もない観客を笑わせていました。少ない手持ちのカードは日々増え続け、日本人でもアメリカ人の笑いのつぼをつかめる事を証明するために、今日もステージに立ちます。間違いない!

長井秀和(ながい・ひでかず)

職業:お笑いタレント、コメディアン

東京出身。大学卒業後、芸人の道を歩む。当初は、得意なパントマイムなどの持ち芸で路上パフォーマンスなどを行っていた。1992年に芸能界デビュー、風刺漫談を用いた芸風に変化を遂げる。地道な活動が花を咲かせ、2003年には決まり文句「間違いないっ!」で一躍時の人となり、以降はバラエティで精力的に活躍。渡米した今も所属事務所タイタンに所属する。ブログ:http://machigainai.blogspot.com、www.j-comedy.com

■ライブ情報 8月19日(火)長井秀和主催/Naguy show開催 日本語でのお笑いをベースに、同クラブでショーを開催。ほか日本語が出来るお笑い、ミュージシャン、アクターの出演を予定している。

お酒を飲みながらカジュアルにスタンドアップコメディを楽しむニューヨーカーら=16日、「ニューヨーク・コメディ・クラブ」

お酒を飲みながらカジュアルにスタンドアップコメディを楽しむニューヨーカーら=16日、「ニューヨーク・コメディ・クラブ」

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2008年7月20日号掲載)

Share.