魔裟斗

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「夢」は叶わない。「目標」にした時に叶うと思ってるんです

「新生K―1」がアメリカ大会を成功  「ガチ!」BOUT.127

あのK―1が生まれ変わった。今年5月、立ち技格闘技世界最強を決めるイベント 「新生K―1」のEP(エグゼクティブ・プロデューサー)に就任した魔裟斗。5月のスペイン大会を経て、今月8日ロサンゼルスはメモリアル・スポーツ・アリーナにて、新生以降初のアメリカ大会を成功に終わらせた。本文中の魔裟斗EPの願いどおり、大会はKO決着続出。大盛況で幕を閉じた。大会直前の貴重な証言。生まれ変わったK―1のEPとして、アメリカ市場、現役の選手、そして今後の戦略について話を伺った。
(聞き手・高橋克明)
◇ ◇ ◇

新体制「K―1」の「エグゼクティブ・プロデューサー(EP)」に就任して3カ月が経ちました。今のお気持ちを聞かせてください。

魔裟斗 もともと選手だったので「闘う」ってことに関しては自分ではプロフェッショナルだと思ってましたけど、(闘いを)プロデュースするってことは、また別の分野じゃないですか。それ自体、今回初めてのことなので、いろいろ模索しながら、周囲の協力の下、やっていくしかないですよね。最初は会議に参加することも違和感はありましたけど(笑)、ただ、今の状況を把握しておくことは大事だし、それにプラスしてみんなよりさらに先のことを考えて、こうしていこうっていうイメージを持ちながらやってますね。

一時期の勢いに乗っている状態からのバトンタッチではなく、全くゼロからの出発になりました。

魔裟斗 でも、何もない状態からのスタートなので、逆にやりやすいかもしれない。一時期、K―1ってすごくいい時代があって、その時に、僕はそのK―1で有名にさせてもらったので「失くすわけにはいかない」っていう気持ちですね。その時の勢いをまたよみがえらせたい、というかそれ以上のものにするっていうのが今の目標なので。結局、頭の中はいつもそのことですね。今日も朝イチで起きてすぐ(インター)ネット(を)開いて、選手のデータ見て、どのマッチメーク組もうかなとか。

今は背広組、というかフロントにいるわけですが、プロデュースをしていく中で現役時代を思い出し、またリングに上がりたい! という気持ちにはならないですか。

魔裟斗 それはないですね、まったく(キッパリ)。(リングの上で)やり残したことはないので。

選手時代と今とどちらが大変でしょう。

魔裟斗 いやぁ、選手のころの方が大変ですよ(笑)。それは間違いない。ただ、自分のことをやるのはある意味、簡単なのかなとは思いますよね。自身のプロデュースは。人をプロデュースするのは難しいなぁって(笑)。俺だったらこうするなぁとか、もっとこういうふうにやればいいのになぁってことを(選手は)やらないというか、やれないというか。

それは試合内容だけでなく、試合前の会見であったり、試合後のインタビューであったりも含めて。

魔裟斗 そうですね。会見場やリングに立った後は、もうそこからは選手個人の仕事になってくるじゃないですか。それを歯がゆく見ることは、やっぱ、ありますよね。

魔裟斗さんがいてかつての「K―1 MAX」が成り立っていたことは間違いないと思うんです。最大の課題はやはり「ポスト・魔裟斗」が今、日本では見当たらないということだと思うのですが。

魔裟斗 なかなか…。今は見当たらないかもしれないですね。ただ、今までのK―1のイメージってやっぱり日本やヨーロッパが強かったと思うんですよ。それが新しい組織に変わって、今後はアメリカというマーケットを意識していこう、と。格闘技のマーケットでアメリカという場所はすごく大事だと思ってるんですね。今はまだ、ボクシングとUFCが(マーケットを)占めていて、そこに負けない(ような)“立ち技”(というコンテンツ)で入っていきたいと思ってるんですね。

アメリカではまだキックボクシングがメジャーでないだけに、開拓しがいがある、と。

魔裟斗 やっぱり選手はいるはずなんですよ、絶対に。先月のトライアウトでも、ネットで見ても、まだ脚光を浴びてない、いい選手がいっぱいなんですよ。今回、トーナメントの優勝賞金が100万ドルなんですね。大きなお金が動くと必ず選手も動くと思うんです。今、ボクシングやUFCを目指している選手もK―1を目指そうっていう気持ちになると思うんですよ。

アメリカ人は特にそのへんの意識はハッキリしてますね。ただヨーロッパ人やアジア人に比べて、格闘技において、痛みに弱いというイメージもありますよね。すぐにあきらめちゃうというか。

魔裟斗 怪我(けが)してまでやるもんじゃないと思ってますよね、アメリカ人は。やっぱり「ビジネス」っていう意識が強いんじゃないですか。これで怪我したらこの先、仕事にもなんねーって(笑)。試合観てても、倒されたら、もういいや、っていう選手多いですよね。(笑)

メジャー・リーグもそういうところありますよね。魔裟斗さんには考えられない。

魔裟斗 僕もそういう部分は持ってるんですけど、ただ試合に関しては途中でやめるって事はなかったですね。試合をビジネスだとは思ってたんですけど、ビジネスだからこそ絶対勝たなきゃいけないっていう。これしか仕事がないと思ってたんで。これで成り上がるしかないと思ってたからこそ、逃げるっていう選択肢はなかったですね。ただ…。

ただ…?

魔裟斗 一流の選手はアメリカ人でも何人でも(試合を途中で)投げないと思ってます。試合でも根性見せてくれるアメリカ人は絶対いると思ってますね。

なるほど。前回のスペイン大会(5月27日)がEPとして初の大会でした。総括としてはいかがでしたか。

魔裟斗 まだ日本で知られていない新しい選手が半分くらい出場してたんですけど、その中でも強い選手は結構いましたね。テレビなりもう少し(世間に)出ていけば、いい方向に進むんじゃないかなっていう確信はありますね。1回目の大会としてはまずまずかな、と。

気になった選手はいますか。

魔裟斗 ドラゴとやったアンディー・リスティー。彼は強いですね。オランダでカルビン会長のもと練習をしているので今後もっと強くなると思います。

マイク・ザンビデスの試合はいかがでしたか。

魔裟斗 ザンビって僕は現役時代に1、2回試合してるんですけど、その時は当然、お客さん目線で彼のことを観てなかったんですよ。当然、どうすれば自分が勝てるかなっていうことしか考えないんで。今回、プロデューサーという立場で見てみると、あいつ、面白い試合するなって。(笑)

面白い話です。ファンの中でザンビデス選手の試合は面白いというのは通説ですが、魔裟斗さんの中では…。

魔裟斗 僕の中では全然なかったです。客観的に見ると、分かりやすくてはずれのない試合する選手だなって今回初めて認識しました。(笑)

やはり選手目線とプロデューサー目線は違うんですね。そのスペイン大会ではリング上では堪能な英語でスピーチもされましたが、勉強もされてるんですか。

魔裟斗 堪能じゃないっすよ(笑)。勉強もちょこちょこっとしか、はい。

(その場にいた、広報担当さん) びっくりするほど習得が早いですよ!

集中力が人並みではないですものね。

魔裟斗 あのー、興味があるものに関しては結構、飲み込みは早いかもしれないですね。格闘技もそうなんですけど、仕事や興味あるものに関してだけはがーって。(笑)

次回のアメリカ大会(9月8日)、プロデューサーとして、まず出場選手に期待することってなんでしょう。

魔裟斗 K―1は3分3ラウンドしかないので、もう3分間を目一杯使って、力を残さず殴り合いをして、なるべくKO決着してもらいたいなっていうことですね。3ラウンドの短距離走なので。そこが(12ラウンドの)長距離走のボクシングとの違いなので、もうヘトヘトになるくらいの打ち合いをしてもらわないとダメなんですよ。たったの9分間。まぁ、9分って一般の人からしたら長いかもしれないですけど、選手にはもう最初から全力で倒し合いをしてもらうことが大事だろうな、と。僕自身、選手のころはいつもそう思いながらやってたので。

来てくれるお客さんに対してはどこを観て、何を感じてもらいたいでしょう。

魔裟斗 まだ知名度はなくても若くてイキのいい選手がいっぱい出場するんですね。“新陳代謝”をしなきゃいけないなぁと思っているんですよ。新しい選手をどんどん出していきたいな。若い選手を見つけて、オモテに出していくことも僕の重要な仕事の一つだと思ってるので。ただ、その中でも、以前から知名度のある選手も出場して、彼らも意地を見せてくれると思うんです。10月の(両国)大会には、久しぶりにミルコ(・クロコップ)も出るので。ま、そのへんの新旧対決は僕は実現させたいなと思っているんですけどね。

分かりました。最後に在米の日本人読者に向かって、何でも結構です。メッセージをお願いできますでしょうか。

魔裟斗 皆さん夢を持って、ニューヨークなりアメリカに渡っているわけじゃないですか。その時点ですごい行動力あるなって思うんですよ。夢を持って渡っている時点で、それはもう「夢」じゃなくて「目標」に変わっていると思うんですね。もう“始まっている”わけで、後はその自分の意思を貫いて、いかに努力して実現するかということだけだと思うんですよ。俺は「夢」は叶(かな)わないって思っているんです。「目標」にした時に初めて叶う確率が高くなるんだろうなって思うんですよ。

なるほど。

魔裟斗 でも、僕も一緒(の境遇)なんです(笑)。今回、アメリカで成功っていうことを叶えるという意味では。もう、動き始めてるんで。

「目標」としてですね。もう一つだけ。先日、お子さんが生まれました(6月22日)。父親になった感想はいかがでしょう。

魔裟斗 いやぁ(笑)。自分が一人じゃなくなったから頑張れるっていう感じですよね。独身で自分一人だったら、もうラクして生きたいなと思ったかもしれないですけど(笑)。結婚して、自分の他に、もう一人を背負うようになって、子供が生まれて、また一人背負うようになって。僕の背中には今のとこ二つ乗っかってるんで。そのためにも今、また闘ってるって感じですよね。

魔裟斗(まさと)

職業:K−1エクゼクティブプロデューサー

1979年、千葉県生まれ。15歳でボクシングを始め、17歳でキックボクシングに転向。1997年、全日本キックボクシング連盟でのプロデビュー戦で鮮烈なKO勝ちを収めてデビュー。2000年、K-1 WORLD MAXの前身「K-1 J・MAX」で王座奪取に成功し、一躍注目を浴び始める。その後、舞台を「K-1 WORLD MAX」に移し、03年には念願の王座に輝いた。翌年からは「K-1 PREMIUM 2004 Dynamite!!」にも参戦、国内外の猛者と格闘技史に残る激闘を繰り広げた。09年12月31日、さいたまスーパーアリーナで開催された「Dynamite!! ~勇気のチカラ2009~」でアンディ・サワーとの試合を最後に引退。12年、K−1のエグゼクティブプロデューサーに就任し、新たな格闘技の潮流を引き寄せるキーマンとして注目を浴びている。

▪試合後のコメント▪

KO決着続出で、いい試合も多かったし、お客さんのノリも良かったですね。アメリカ進出第1回大会としてはすごく手応えありました。大成功だったと思います。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2012年9月22日号掲載)

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