鴻上尚史

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NYは最終的にたどり着きたい街

「ガチ!」BOUT.87

エッセイスト、作家、演出家、ラジオ・パーソナリティー、テレビ司会者、映画監督とさまざまな顔を持つ鴻上尚史さん。先日、自作の戯曲「トランス」英語版のリーディングがニューヨークのジャパン・ソサエティーで行なわれた。東京から同時デジタルネットワーク配信を通じて参加した鴻上さんに、終演後お話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

NYで戯曲がリーディング

たった今、ニューヨーク上演が終わりました。日本から同時ネットワーク配信で見られた感想を聞かせてください。

鴻上 俳優さんたちが僕のイメージにそれぞれ3人とも合っていて、あの短い時間でよくやってくれたな、と。とても幸せな気持ちですね。

このような形でニューヨーク–シカゴ–東京という同時3元中継でご自身の作品を鑑賞した経験は初めてだと思うのですが。

鴻上 いやぁ、すごい時代になったな、と。一応、僕のツイッターで今日の上演を宣伝したんですけれども、さきほど「会場に行きましたよ」ってフォローしてくれた書き込みがあって、そんな時代になったのだな、と驚いてます。

できれば、こちらの会場に来て生の反応を感じたかったのでは。

鴻上 まあ、そうですね。…でもニューヨークって今寒いんでしょう?(笑)

(笑)。ひょっとしてこちらに来られなかった理由は、寒いから…。

鴻上 いやいやいや(笑)。それも、ま、30%くらいは…(笑)。でも70%は忙しかったからなので、はい。

「トランス」というタイトルの意味が上演を見て「トランス状態」のトランスだということが分かりました。

鴻上 そうですね。それもありますし、「超えていく」という意味も含んでいるんです。それら全てを含んで「トランス」なんですね。

今回の作品はロンドンでも上演され評論家からも絶賛されました。日本とロンドン、そして今日のニューヨークと観客の反応にそれぞれ違いは見られましたか。

鴻上 まぁ、日本はホームグラウンドってこともあって安心して見ていられますけど(笑)。(今日のニューヨークの観客の)反応としてはロンドンと比べてそんなに違いはなかったような気はしてますけどね。ただ、ロンドンで上演した時に観客や俳優たちから(この作品は)「アメリカでの方が受けると思う」って言われたんですね。その時は自分ではよく分からなくって、なんでだろうと不思議だったんですけど、多分ゲイである(登場人物の)参三っていうキャラクターがニューヨークの方が愛されやすいってことだったのかな、と今は理解していますけど。

確かに、宗教であり、同性愛であり、皇室であり、テーマはこの街で受け入れられやすいかもしれないですね。

鴻上 そうなってくれてたら、すごくうれしいですけどね。まあ(今日の)リーディングは脚本家にとってはスタートなので、そこから実際の(実演)上演に向かうチャンスが生まれればすごくうれしいなぁとは思いますね。

ぜひ、ニューヨークでの実演での上演も楽しみにしています。

鴻上   やりたいですねえ。ま、先立つものがあるので、どこかに呼んでいただけるのが一番ダメージ少ない最良の方法かと。(笑)

ニューヨークという街の印象を聞かせてください。

鴻上 僕が生まれて初めて行った海外がニューヨークだったんですね。20代の前半にブロードウェイに行ったんですけど、その時以来、僕にとってはやはり最終的にたどり着きたい街って感じですね。

それは演劇人として。

鴻上 そうですね。うん。たどり着くべき場所だと思っています。海を越えていく事がやっぱり、僕の次の目標なので。

最後に在米邦人である読者に何かメッセージをお願いします。

鴻上 いやいやいや、もう一番ハードな街で生きてらっしゃる方々だと思いますから。心折れる事なく頑張って生きてくださいって、それだけですね。

デジタル配信を通じて、日本から参加した鴻上尚史さん(スクリーン左上)

デジタル配信を通じて、日本から参加した鴻上尚史さん(スクリーン左上)

 

鴻上尚史(こうかみ しょうじ)

職業:作家・演出家

1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部出身。1981年に劇団「第三舞台」を結成。以降、作・演出を手がけ次々に新作を発表・上演。94年に上演した「スナフキンの手紙」で、翌95年、栄誉ある岸田國士戯曲賞を受賞。演出家としても、紀伊國屋演劇賞、ゴールデンアロー賞など受賞作は数多い。97年に文化庁の芸術家在外派遣研修制度で渡英。さらに、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティー、テレビ司会者、映画監督と、活動の幅は実に広い。桐朋学園芸術短期大学特任教授。第三舞台サイト:www.thirdstage.com

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2010年11月27日号掲載)

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