〈コラム〉賃貸契約に代わる実施許諾契約の便利性

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク市では通常賃貸契約(Lease)の不履行に基づく強制退去(eviction)を求める場合、大家・所有者はハウジングコートと呼ばれる裁判所で強制退去の手続きをする必要があります。大家の多くはこの強制退去の手続き、申請後の進行過程に常々ストレスを感じています。その理由に通常は強制退去の手続き開始後に、借家人は手続き開始の際の不備に基づく手続(訴訟)の却下、審議終了までの現状維持(status quo)を求め、契約不履行の存在等の審議を求めます。(借家人による)これらの一連の行為、また裁判所による現状維持の命令が下された場合、大家は借家人を追い出す事は言うまでもなく、家賃を回収する事も難しくなることがあります。その間も大家・所有者には自身の物件への不動産税、管理費、修理費、維持費、等の出費は継続的に発生します。一般住宅ならまだしも、商業物件の場合、何カ月も(または何年も)回収できない多額の家賃、継続的な大家への諸経費の負担は膨大です。
強制退去における大家のストレスを半減するための手段の一つとして賃貸契約ではなく実施許諾契約(license agreement)の選択があります。実施許諾契約というとソフトウエアの使用や物品の生産販売過程における特許や商標の使用にのみ適用されるという印象がありますが、不動産賃貸契約においても必要条件が満たされれば使用可能です。実施許諾契約の場合、通常大家とされる者は実施権を与えるLicensor(所有者)となり、借家人となる者はLicensee(使用者)となります。「家賃」とされる金銭は「ライセンス手数料」等と呼ばれます。不動産賃貸における実施許諾契約は通常はオフィススペース、倉庫、ヘアサロンやネイルサロン等の敷地内の「部分的」な使用契約等に利用されます。
ニューヨーク州では通常は実施許諾契約が施行可能な契約として存在するためには、①所有者の独断での契約解除が同意されており②所有者が物件の絶対的な管理権を持ち③所有者は使用者の物件使用目的のための基本的に必要な物(電気等)の提供を行う必要があります。賃貸契約と異なり、実施許諾契約においては所有者は独断(at-will)での契約解除が可能なため、仮にライセンス手数料の滞納等の不履行が生じた場合、使用者への通知の後、一方的に契約を解除し、新しい使用者を見つけることが可能です。また所有者は自己強制退去が可能なため、賃貸契約の場合と異なり、わざわざ裁判所へ行く必要がありません。その他賃貸契約が実施許諾契約と異なる点として、前者の場合は借家人となる使用者が物件の排他的な使用権を契約により与えられるのに対し、後者は契約締結後も所有者が絶対的な管理権を持ちます。このため通常“sublease/sublet”と呼ばれるまた貸契約等の場合、使用者へは特定期間内の排他的な使用権が発生するために実施許諾契約は成立しません。なお気をつける点として、物件使用に関する契約書が実施許諾契約か賃貸契約書かの判断は様々な契約内容事項・形態等に基づき総合的に判断されます。このため実施許諾契約と明記してある場合でも、法的に賃貸契約書と見なされる事があるため、契約書の規定事項・形態には注意を払う必要があります。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は6月第3週号掲載)
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