菊地成孔のNY公演に迫る
“ジャズ界の異端児”に話を聞く

0

ジャズミュージシャン、文筆家、レーベルオーナーなど八面六臂に活躍する菊地成孔さん。“ジャズ界の異端児”の異名を持つ菊池さんが昨秋、自身初となるニューヨーク公演を行った。同時期にマンハッタンのジャピッツ・センターで開催されたアニメコンベンション「Anime NYC」にて、自身が制作を手掛けたガンダムシリーズ最新作「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の楽曲を披露。大盛況のうちに終わったライブ後にお話を伺った。

〈写真はいずれも=2017年11月19日、ニューヨーク(撮影:牧野)〉

 -今回ニューヨークでガンダムシリーズ最新作「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の楽曲を披露されました。菊地さんとガンダムの組み合わせは意外だと思う人も多いかと思いますが、ガンダムシリーズの楽曲を制作するにあたって何か特別意識したことはありますか。

菊地 原作はそもそも兵士が音楽を聞きながら戦っているんだという設定です。キャスリン・ビグロー監督の映画『ハート・ロッカー』でもそうですが、兵士は素面では戦争できないので、音楽を聴いている。それはケニアの部族の踊りから連綿と続いていて、第二次世界大戦中にもVディスクというの戦意高揚のレコードがありました。

今回いわゆる劇伴音楽というものを制作しないで、二人が聞いてるであろうiPodの中身をつくるという形で制作しました。二人の登場人物が片やジャズ、片やオールディーズを聞いている。最近だと映画『ベイビー・ドライバー』というのが全く同じ感覚だったんですけど、効果としての音楽がなくて、ならなんで音楽が流れているかというと登場人物が聞いているという設定なんですね。

ただ原作におけるジャズ考証には緩さがありました。オールディーズは甘くて戦闘に合うんですが、ジャズは小粋にスウィングするような比較的リラックスしたハードバップが元々の設定でした。これだとものすごい轟音がなる戦闘シーンには緩い。だからもっとオフェンシブなフリージャズや未来派と呼ばれるものがこの世界にはあるんですよとスタッフに聴かせて提言しました。結果、エリック・ドルフィーなど60年代の反体制的でオフェンシブなジャズを元ネタにつくったので、機動戦士ガンダム対応というのは出来てないというか、出来ないですね。(笑)というかガンダム全く知らないですし(笑)一回も見たことない。僕クールジャパンを全く嗜まないので。ゲームもやらないし、漫画も読みません。ガンダムでどんな曲が流れているかも知らないです。(笑)

-今回意外にもニューヨークに来たのは初とのことですが、どのような印象を持たれていましたか。

菊地 日々映画やドラマ、ニュース番組で観ているのでニューヨークに住んでるような気になってるんですね(笑) それぐらい有名な都市なので頭に入ってしまっていて、実際に来てみると違うなっていう感じはあまりなかったですね。ただ今回はJFケネディ国際空港からホテルに行って、この会場にとグルグルしているだけなんですが(笑) ただ(移民が多くて)いっぱい色んな人がいて色んな格好しているというのはいいなと思いました。

-菊地さんといえばジャズはもちろん、HIP HOPクルーの「Jazz dommunisters(ジャズ・ドミュニスターズ)」としてヒップホップにも携わっていますが、関係が深いブラックミュージックという観点から見てニューヨークはどういった街ですか。

菊地 もちろんニューヨークはヒップホップ発祥の地ですし、ジャズにとってもコットン・クラブ(※かつてニューヨークハーレム地区にあったデューク・エリントンなどが活動をしたジャズクラブ)があるので、ニューオリンズ、シカゴと続く中で最新の決定打が生まれた重要な街です。

-ニューヨークでもアニメ人気は非常に高いです。会場もコスプレした人々で溢れかえっていますが、この現象についてどう感じられますか。

菊地 ニューヨークは今回初めてなんですが、パリはよく行っていて、パリに行くともっとすごいです。ジャパンエキスポがあるんで、ルーブル美術館の前にラムちゃんとかいるんです(笑)

コスチュームプレイヤーっていうのはクールジャパンの中でどういった意味を持つのか分からないですが、本来一番日本人に向かないはずだと思ってます。(笑)仮装するのが一番苦手なところを逆転して日本の輸出文化になっている。ただアメリカでは元々ハロウィンで変な格好するし、アフリカの祭りやリオのカーニバルでも仮装するので、それが世界に広まって定着していくというのは何も不思議じゃない。けれどその参照元がリオのカーニバルのような神話ではなく、アニメになっているというのは興味深いです。

-「ルパン三世」のアニメ化40周年を記念して制作された27年ぶりとなる新作テレビシリーズの音楽を担当されたり、アニメとの関わりも多くなってきているかと思います。何かその中にご自身の活動の可能性を見出されたりしますか。

菊地 自分の音楽が日本だけで消費されているということは前から息苦しく思っていたんですが、大人の事情で何十年もさほど輸出されてきませんでした。ジャズだけずっとやっていてもニューヨークに来れなかったと思うんですね。けどガンダムをやったら一発で来ることができた。クールジャパンは底なしですからそこに乗っかれば何でも輸出される。ニューヨークでジャズを演奏するのが夢だったというのでは全くないですが。

ただ(アニメ作品の)サウンドトラックをつくるということは、もともと映画が好きで映画音楽もいっぱいやってきましたので、実写かアニメかという違いだけで、基本的に嫌でも苦手でもない仕事です(笑)

Share.