〈コラム〉歴史の彼方の、凛然とした姿を求めて

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歴史力を磨く 第1回
NY歴史問題研究会会長 髙崎 康裕

人は、未来に希望を託すことができると信じる時、生きる意欲と安堵を得る。人は誰でも皆、愛する者の未来の確かさを願い、故郷や祖国の繁栄とその基盤の堅固たることを願う。しかし今、どれだけの日本人が日本人であることに誇りを持ち、愛する者や故郷や祖国の未来を信じ、次の世代に希望を託することが出来ているであろうか。

今私たちが、日本という国の在り方を大切なものと感じたとしても、豊かな文明や歴史、日本人としての価値観を誇りに思ったとしても、日本の未来に対する不安は拭いきれないのではないだろうか。

そのような不安が生み出される要因は、敗戦後の日本が、あまりにも長い間国家として迷走し、他国の要求に屈して、本来の日本とは異なる姿を形成してきたからではないだろうか。そしてそのような方向へと日本を導いたのは、紛れもなく占領当時のGHQ(連合国総司令部)の占領政策であった。

その目的は日本国家の解体であり、日本人の矜持を奪うことであった。神話教育は否定され、国家の栄光を讃える本は焼却され、学校で悠久の歴史を学ぶ機会は失われた。侵略国家との烙印と同時に敗戦コンプレックスを植え付け、国民の自信を喪失させることが目論まれた。その結果、中学校の歴史教科書を見ても、誇りある歴史という記述は戦後70年を経た今日でも見られない。

そして昨今の日本を取り巻く国際情勢は、自国の歴史や日本人の精神、道徳などを教えることを止め、歴史の理解を欠くようになった日本が、歴史を政治の有効な道具として利用する国々によって、如何に不条理に貶められているかを物語っている。日本人に歴史認識や歴史問題が突きつけられるとき、歴史を知らないが故に、いわば相手の主張どおりにその問題を受け容れてしまう。類い稀なる優れた文明を生み出した日本の歴史に思いが及ぶこともない。

他国との軋轢を恐れ、摩擦を回避することのみに専心し、本来の日本人と日本国があるべき姿から切り離されていくことにも気づかない。これでは日本の敗北は目に見えている。

歴史力を磨くとは、近現代史の事実関係をまず理解し、それらの事実がどのような価値観から生まれてきたかを知ること、即ち、日本の歩みとその背後に交差したはずの様々な価値観を全体像として捉える力を身につけることである。その姿勢が身についたとき、私達は歴史を利用する国々の日本に対する政治的非難に対して、日本の立場や主張を事実に沿って展開し、更に、先人たちの想いを汲み上げながら日本の歴史観を語ることができるようになると思うのである。

歴史の彼方に見える日本人本来の美しさと誇りを取り戻すこと、私たちが目指すものはそこにある。

髙崎 康裕〈筆者プロフィル〉髙崎 康裕(たかさき・やすひろ)
ニューヨーク歴史問題研究会会⻑。YTリゾリューションサービス社⻑として、日系顧客を中心とした事業開発コンサルティング、各種施設の開発企画・設計・エンジニアリング・施⼯管理業務等を⼿掛けている。シミズディベロップメント社⻑、Dillingham Construction代表取締役、東北大学特任教授歴任。現東北大学総⻑特別顧問。著作に「建設業21世紀戦略」(日本能率協会)、「海外業務ハンドブック」(丸善)、 「海外プロジェクトリスクへの対応」(エンジニアリング振興協会)など多数。

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