「永野・森田公認会計士事務所 日下武」ビジネスのツボ 第75回
公認会計士という職業柄、よくクライアントの会議に同席するのですが、いろいろなスタイルの会議があることに驚きます。もちろん業種によっても内容は異なるのですが、最近、とても面白い会議の場面に同席しました。
従業員が50名ほどの製造業で皆さん楽しそうに働いており、社内の人間関係が良い印象を受ける会社です。その会社の社長はとてもユニークで、各従業員一人一人の趣味や出身地など覚えているようで、従業員と話すときは常にその従業員のバックグランドを意識してわかりやすく説明をすることを心掛けているようです。
その会社の営業チームの会議に同席したのですが、議題はコンプライアンスのアップデートの重要性ということでした。最近は、規則や環境が急速に変わっていくので、回りを見ながら気をつけて勉強しなければ、今まで良かったものも違反になりうるということを社長は言いたかったのですが、営業チームの中のある新人さんがよくわからなそうにしていました。そうすると社長が、「XXX君、サッカーで言うとオフサイド・トラップに気をつけるということです」と説明すると、その新人さんの従業員はすぐに納得していました。ちなみにオフサイド・トラップとは、サッカーの守備戦術で守備陣が連携してオフサイドラインを押し上げ、意図的に攻撃選手がオフサイドポジションに取り残された状況を作り出す戦術らしいです。サッカーを知らない人であれば、逆に理解しにくいのですが、その社長はその新人さんが学生時代にサッカーでフォワードをしていたことを知っていました。難しい内容の会議も従業員に合わせて噛み砕いて説明する姿勢はとても勉強になりました。
昔、私が会計士になる前にある日系会計士事務所にいったことがあります。「個人タックスリターンをお願いしたいのですが」というと事務所の受付の人が「テンフォーティーですね」と聞き返されました。内心、さすが専門家、難しい単語が出てきたと感心しながらも、テンフォーティーって何かわかりませんでした。個人タックスのフォームであるForm 1040のことです。今では私にとっては常識的な言葉になりましたが、初心に戻り、難しいことでも相手にわかりやすく説明が出来る専門家を目指そうと努力しています。
相手にわかりやすく伝える「Intelligibility」という単語があるようです。相手の立場になることこそがコミュニケーションがうまくいく秘訣かもしれません。
(次回は6月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 日下 武(くさか たけし) 永野・森田公認会計士事務所NJ拠点マネージャー。大手日系食品商社での営業経験を生かし、顧客の立場になって、全体的なビジネス、会計、税務相談を受けている。メーカーからレストラン、リテーラーマで、幅広く顧客を持つ。
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