〈インタビュー〉「ノブタカアシハラ建築事務所」代表・芦原信孝氏

0

マンハッタンに誕生した北米一の高層ホテルを設計

利用者がリラックスできる空間を
日本人としてのやり方を貫く

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

〈プロフィル〉 芦原信孝(あしはら・のぶたか) 東京生まれ。法政大学工学部建築学科卒業。1965年鹿島建設に入社し、翌年渡米、Kajima Associates L.A.勤務。その後ハーバード大学大学院を修了し、78年Nobutaka Ashihara Architectを設立。

ニューヨークのミッドタウンに昨年12月29日、高さ約228メートル、68階建てのビル「Courtyard & Residence Inn, Manhattan/Central Park」が誕生した。同ビルは、オフィスや居住スペースのない全棟ホテルの建物としては北米、ひいては西半球で最高層となる。ビル内には、大手ホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」傘下の「コートヤード」が6階から33階に、「レジデンス・イン」が37階から65階にオープン。セントラルパークやタイムズスクエアからのアクセスも抜群なブロードウエー沿いに位置しており、話題性だけでなく利便性も高い、注目ホテルだ。
◇ ◇ ◇
数々の有名建築事務所がひしめくマンハッタンで、同ビルの設計を任されたのは「ノブタカアシハラ建築事務所」の代表、芦原信孝氏。建物の美しさだけでなく、安全性、機能性、快適性、クライアントの採算性、そして「道行く人へ降り注ぐ日光を遮らないよう」といった周辺環境まできめ細やかに配慮した設計が評価され、新ビルディングの建築家として選ばれた。
同氏率いるノブタカアシハラ建築事務所は1978年に設立。ニューヨークにメーンオフィスを構え、世界各地にホテルをはじめとする商業施設、住宅、学校や美術館などの教育文化施設、さらにはオフィス、店舗の内装工事設計など数々の建築設計を手掛けている。
◇  ◇  ◇
「一般的なホテルの部屋で感じがちな、『箱の中』のような閉塞感。これを取り払い、昼間は自然光やセントラルパークの四季折々の姿を、夜は月光や夜景を楽しめる開放感のあるデザインにすることで、利用者がリラックスできる空間をつくっています」と芦原氏は語る。
モダンなインテリアのシティホテル「コートヤード」と、簡易キッチンが付加された長期滞在型ホテル「レジデンス・イン」。異なるコンセプトの両ホテルだが、共通しているのは、マンハッタンを一望できる、床から天井までの全面ガラス窓が付いた客室を提供していること。
空間に対するこだわりは、ホテルのロビーにも表れている。ロビーに一歩足を踏み入れると、ミッドタウンの喧噪(けんそう)がすっと消え、まるで異空間に入ったかのような静けさ、優雅さを感じることができるのだ。
「ビルの外は人通りも多く、さまざまな音が聞こえる『パブリック』の場。ホテルの室内は緊張がほぐれ、ありのままの自分をさらけ出せる『プライベート』の場。その橋渡しをするのが、ロビーの役割です。ライトの色調や遮音性、インテリアの色合いなどにも配慮して、ゆるやかに心を解放できるような雰囲気づくりをしています。日本の料亭では、玄関と食事所の間に、庭や小道という『橋渡し』の場がある。そういった発想と似ているかもしれませんね」
世界を相手に活躍しながら、あくまで日本人であることを大切に、日本人としての仕事のやり方を貫く芦原氏。その細やかな配慮が散りばめられた同ホテルは、非日常的な特別感を演出しながらも、どこか「ホッ」とできる空間だ。

0215_1717Broadway01

「Courtyard & Residence Inn, Manhattan/Central Park」(1717 Broadway, New York)

米国だけでなく世界中に案件
同氏の事務所では、最近マンハッタンに完成した高層ホテル「Hyatt 48 Lex」や「Residence Inn by Marriott & Times Square New York」、中国・マカオのコンベンションセンター、また米同時多発テロの際に唯一崩壊しなかった「Marriott Financial Center」など、これまで建設に携わったものは200を超える。米国各地にとどまらず、欧州、中国など、世界中に案件を抱え、現在も20件ほどのプロジェクトが進行中。この景気低迷の中、同社の繁盛ぶりには目を見張る。
(「WEEKLY Biz」(ニューヨーク)2014年2月15日号掲載)


〈information〉ノブタカアシハラ建築事務所(Nobutaka Ashihara Architect)
【住所】132 Nassau Street, Suite 1320, New York 【電話】212-233-1783 【ウェブ】www.naa-arch.com

Share.