毎回、これが最後の作品と思って出演しています
「ガチ!」BOUT. 253
現代の日本映画の幅広く奥の深い作品の数々を紹介するジャパン・ソサエティー主催の映画祭「JAPAN CUTS」(7月13日~23日)。11回目となる今回、国際的にも活躍する俳優のオダギリ ジョーさんが、日本映画界に貢献する俳優の功績をたたえるための「CUT ABOVE(カット・アバブ)」賞を受賞した。主演作品の上映会と、授賞式出席のため来米したオダギリさんに話を伺った。 (聞き手・髙橋克明)
「CUT ABOVE」賞受賞と主演作上映で来米
今作の出演に至った経緯を教えてください。
オダギリ 一番はやっぱり台本が面白かったからですが、2番目は山下(敦弘)監督とほぼ同い年なのですが、一度はちゃんと監督と主演で映画をやってみたかったっていう理由ですね。
原作者の佐藤(泰志)さんも、亡くなられた時が41歳で、撮影時のオダギリさんと監督と同世代でした。3人の同世代感のシンパシーで一つの作品を作ったことになります。
オダギリ あくまで結果論ですが、それがいい作用を生んだとは思いますね、はい。カメラマンの近藤(龍人)さんも山下監督のもともと同級生だったり、その同世代感の感覚が、作品から漏れ出ているような気はしますね。
従来、オダギリさんが演じる役は、イケメンであったり、あるいは、逆に振り切った個性的な役であったりが多かった気がします。今回は地方都市にいそうな本当に「普通の人」でした。逆に難しかったのでは。
オダギリ あはは、そうかもしれないですね…。うーん、どうなんだろ。いや、でも、例えば振り切った役も今回の白岩義男という普通の人も、結局は、素の自分とは違う自分を演じるわけで、演じる上では一緒のプロセスを踏むわけなので、特に難しいとか、やりやすい、とかはないかもしれないですね。
蒼井優さんとの10年ぶりの共演はいかがでしたか。
オダギリ いやぁー、もうとても素晴らしい女優さんなので…。何か、この10年間の彼女の歩みを見せつけられたというか。本当に素晴らしい感性を持たれている方ですよね。
今回、彼女はいわゆる、かなり「壊れた役」でした。僕も地方出身の40代男性なのですが、絶対イヤだなこんな女って思いました(笑)。オダギリさんは…。
オダギリ プライベートでですか? いや、僕も無理ですね。(笑)
ここ数年、海外の作品にも多く出演されてらっしゃいます。今回は、ある意味、久しぶりの「日本映画」らしい「日本映画」でした。
オダギリ 今の日本映画って、なんていうんですかね、エンターテインメント性が強いというか、ビッグバジェットの作品が大きな存在感を持ちすぎて、海外で見てもらうものも、そういう作品ばかりが増えていってる現状だと思うんですよ。
はい。
オダギリ もともと、日本の良さ、日本映画の良さって、そこではないと思うんですよね。今回のようなインディーズの作品にこそ、まさに詰まってると思うんですよ。例えば、函館の小さな街の話なんて、とても日本的だと思うし、そこに登場する人たちも(観ている)日本人が(共感して)ほんとに強くうなずけるような人たちばかりだと思うんです。
そこも米国人の観客に観ていただきたいですね。
オダギリ そうですね。漫画が原作の日本映画ばかりでなく、本当に人間を描いている家族性の強い、こういう作品に興味を持ってもらえるとうれしいなとは思いますね。
オダギリさんの今後の目標を教えてください。
オダギリ 目標…いやぁ…ないんですよ(笑)特に。(オファーが)来た仕事を全力でやるだけですかね。やっぱり面白い作品と出合いたいというのは、ずっと思ってますし、逆に面白くないと思う作品には関わる意味もないと思ってるので。
はい。
オダギリ だから(しばらく沈黙)…結局、それって出会い、ですよね。(やりたくない作品に)無理矢理どうのこうのっていうのは、好きでもない人とつき合うみたいな感じになっちゃうので(笑)。うん…やっぱり、興味のない作品には出たくないです(キッパリ)。やるべきじゃないとも思ってます。いつまで役者をやれるか分からないし、本当に面白い!と思える作品(のオファー)が来た時に、毎回、これが最後の作品と思いながらやるのがいいのかなと思っています。
今後、ハリウッド映画などへの進出も視野に入れていますか。
オダギリ 自分が面白いと感じられ(る作品であ)れば。ハリウッド映画は特に好きというわけではないんですけれど、ただ、インディーズの監督とか、本当に才能がある方は世界中にいらっしゃるので、そういう方から声を掛けていただくというのはとても光栄だと思いますし、断る理由はないですね。全ては、面白いと思えるかどうか、だと思います。
ニューヨークにはどんな印象をお持ちですか。
オダギリ 20年前に初めて来たのがまだ学生だった時だったのですが、アクターズスタジオにクラスの見学に行きたいって連絡したんですよ。そうしたら、プロじゃないから見学できないって言われて、全然相手にされなかったんですね。当時は、苦い思いをしたというか、やっぱりハードルが高い街のイメージはまだありますね。その分、なんていうのかな。世界中の夢がたくさん詰まった街ってイメージもあります。
最後にニューヨーク在住の日本人にメッセージをお願いします。
オダギリ 本当に僕なんかが何も言えることはないんですけれど、僕も同じように夢を叶えようとアメリカに渡った一人なので、なんていうんですかね、夢って諦めなければいつか叶うと思うんですよ、どんなものだとしても叶うと思うんですよ。なので、どんなことがあっても諦めないで前に進んでもらいたいと思います。
★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12294817725.html
オダギリ ジョー 職業:俳優
1976年生まれ。岡山県出身。99年に舞台『DREAM OF PASSION』で俳優デビューし、映画初主演となった『アカルイミライ』(2003年)では日本映画プロフェッショナル大賞で主演男優賞を受賞。その後、『血と骨』(04年)や『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)での出演で国内の映画祭にて多数の助演男優賞、男優賞を獲得。初の脚本・監督作となった『さくらな人たち』(07年)は第38回ロッテルダム国際映画祭で上映される。『オーバー・フェンス』(16年)は第90回キネマ旬報ベスト・テン入り、『FOUJITA』(15年)は第28回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品される。公式サイト:http://dongyu.co.jp/profile/JoeOdagiri/
〈作品紹介〉『オーバー・フェンス』
小説家・佐藤泰志の芥川賞候補作となった同名短編小説を『苦役列車』の山下敦弘監督が映画化。原作者が職業訓練校に通った自身の体験を交えてつづった小説をもとに、それぞれ苦悩を抱える孤独な男女が共に生きていこうとする姿を描き出す、オダギリジョー、蒼井優、松田翔太ら豪華キャストが演じる愛の物語。(公開・2016年)
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2017年8月5日号発行)