北村一輝

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出演作にこだわりを持たないということが僕のこだわりなんです

「ガチ!」BOUT. 174 

 

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日本人離れした端正な容姿と確かな演技力で知られる俳優・北村一輝さん。7月19日、北米最大の日本映画祭「JAPAN CUTS」(主催:ジャパンソサエティー)で彼の主演作品、3作品が上映された。この映画祭で「CUT ABOVE(カット・アバブ)」賞を授与された北村さんに、当日、上映前にお時間を取っていただいた。(聞き手・高橋克明)

 

CUT ABOVE賞受賞

このたび、「CUT ABOVE Award for Excellence in Film」を受賞されました。世界を魅了する業績を残した俳優に与えられる賞をもらった感想はいかがですか。

北村 もうご褒美ですね。「猫侍」でいただいたのは、ちょっとビックリしましたけど(笑)。評価されることは本当にうれしいことなんですけど、ただ“獲りたい”って気持ちはほとんどないに等しいというか。どっちかっていうと結果よりも作ることが趣味で、出来上がった作品を映画史に残していきたい気持ちよりも、僕はやってること(自体)が好きなんですね。この考え方が正しいのか間違ってるのかは分かんないんですけど。

撮影中に賞レースを意識することもないですか。

北村 ないですね。評価自体をあんまり気にしてないのかもしれない。評価されたことよりも(むしろ、その後の)それが今後のスタンスにつながって、世界がいろいろと広がることの方がうれしいですね。

その結果の一つとして、今日もこれから出演作が3本連続で北米初上映されます。全くタイプの違う3作品。それぞれ、ニューヨーカーに何を感じてほしいですか。

北村 全ての映画って(観客は)好き放題言っていいと思うんですよ。「面白い」。「つまらない」。何だっていいと思うんです。世の中にある全ての作品が全てにおいてクオリティーが高くなければいけないっていうふうには思ってないし。例えば「KILLERS」のようにインドネシアのプロデューサーが、ハリウッドに比べて少ない予算の中で“コレぐらいの物を撮れる”“世界にこれを発信したい”っていう熱い思いの作品もあったりするし、「猫侍」のように、クオリティーなんて無視して、難しいことなんて考えずにおじいちゃん、おばあちゃんも一緒に家族でわっはっはって笑って観られる作品もあるし。そんな感じでいろんな映画があることが正しいかなって思うんです。正解ばかりを見せて、間違いを見せない今の教育それ自体が僕はあまり好きじゃないので。いろんなチョイスがあって、いろんな物を見て、自由に感じてくださいって感じですね。

本当にさまざまなタイプの役をこなされていますが、出演作を決める基準は何でしょう。

北村 運とタイミングですね。あとは僕はチームで動いてるので、マネジャーやスタッフの意見はすごく参考にします。それに、知り合いの監督から「どうしても出て!」って言われてオッケーすることもあるし、エージェントに「いいんじゃない」って言われて「いいよ」って答えることもあるし。こだわりを持たないことが僕のこだわりなんですね。こだわるって、他の物を否定するってことだから、自分の感覚がすごく狭くなると思うんです。物事ってYESがあって、NOがある。表があって裏がある。映画を面白くするのは監督なので、その監督の駒になることが俳優なのかなって思ってるし、今のところ、僕はそこでスゴく楽しめてるので。

その選択肢の中にはこの先ハリウッドも入ってらっしゃいますか。

北村 もちろん。ただ、そこのため(だけ)にやるのは違うなって思うし、ハリウッドに限らず、他の国の魅力ある作品にもちゃんと準備ができるんであったらやりたいし。(海外の作品は)言葉の壁っていうのもありますから、やって作品を壊すなら僕じゃない方がいいと思うんです。(ハリウッドに限らず)そこに入って自分の力が発揮できる作品に関わりたいですね。

個人的にはハリウッドに進出していただいて、今までのステレオタイプの日本人のイメージを壊していただきたいです。(笑)

北村 僕思うんですけど、日本の“主役”を演(や)ってる方がよくハリウッドに行くじゃないですか。そうすると主役の演技しかできないから、脇に入ると動けないんですよね。だったら、僕は脇でも(実力を)発揮するから、そこは試してみたいなと。主役の方は常に自分がカメラを向けられてる中でのお芝居の仕方しか分からないけど、僕はフレームの中でどう動けばどう見えるって、全体を見れると自分で思ってるんですね。そういう考えで行ってる人ってまだ日本にはいないから。今まで、みんなが思ってる日本人、いわゆる寡黙な役とかだけじゃなくて、脇でも光る役はやってみたいですね。

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「CUT ABOVE Award for Excellence in Film」を受賞し、トロフィーを手に受賞の喜びを語る北村一輝さん(左)=7月19日、ニューヨーク

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「猫侍」上映後、舞台上で映画全般について語る北村さん(中央)=同

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ジャパンソサエティーに飾られた北村さん出演の3作品のポスター=同

ニューヨークはプライベートでもよく来られているということなのですが、やはりお好きな街ですか。

北村 刺激的ですけど、でも、よく言われる「ニューヨーク行けばパワーもらえるどーのこーの」っていうふうには、僕はあんまり感じなくて。ニューヨークもすごいけど、オレもエネルギーすごいから(笑)。俺がパワースポットだって思ってるので(笑)。場所でどうのこうのって(いうのは)ないですね。そういった意味では家にいるのとさほど変わらないんです。

なるほど。(笑)

北村 だって、来ても、どこか(観光名所に)行くわけでもなく、普通にカフェで台本読んで、ドラッグストア行って、友達と飲んで。普通な感じですね。

この街とご自身の波長が合い過ぎてる?

北村 あぁ、そうかもしれない。楽は楽ですね。無理に何かしよう! とかないかな。意味なくふらって一人で電車に乗って、適当な駅で降りて、人に道聞いて。

日本人も多いですから、顔さされますよね。

北村 この間も、地下鉄でメトロカードのチャージが切れてて、日本の方が話しかけてきたから、カードおごってもらっちゃった。(笑)

メトロ代を(笑)。今ごろ、北村一輝に運賃オゴったって自慢してるかもですね。

北村 そう(笑)。それで2、3駅だけ一緒に乗ってた。

まだ行かれてない所で、行ってみたい場所はありますか。

北村 うーーん、昨日、ヤンキースタジアムは行ったしなぁ。

マー君、欠場中ですね。

北村 いや、ジーター。

あ。なるほど。今季いっぱい(で引退)ですもんね。他にはありますか。

北村 行きたい所…うーん…。行きたい所っていうほど、ニューヨークを知らないんです。僕、ガイドブックを見るわけでもないので、何があるか分からない。あ! セントラルパークでのんびりしたい。(笑)

北村さん、ホントに、近所に来た感じですね。(笑)

北村 撮影でいつもいろんな国に行くじゃないですか。でも、下調べして行ったことはないんですね。結局、場所より人の方が大事なので、人と知り合って、で(結果)、その人といろんな場所に行くことができれば、それでいいやって感じです。別に場所はどこ行ったってそんなに感動はしないんですよ。それより内容というか。ニューヨークの観光名所がどうのこうのっていうより、ニューヨークで仕事をすることがどういうことなのか、そっちの方が興味ありますね。

最後に在米邦人の読者にメッセージをお願いします。

北村 いやぁ、もうこっちで頑張ってる人っていうのは、パワーもスゴいだろうし、憧れますね。でもね、結局、いろんなポジションから見るニューヨークってあると思うんですよ。その人の視点によって違うニューヨークがあるというか。実は僕、ハタチくらいの時に、ここにしばらくいたんです。で、その時に、こっちでやるか、日本でやるか、決断に迫られた時があって。本気で考えたんですね。でも、その時にバイト先で出会った先輩が、延々「ニューヨークはスゴいんだー、こうなんだー、ああなんだー」って言うから、おまえ、ただのバイトだろうって(笑)。彼の視点だけのニューヨークを語られても(笑)。日本に戻って、まず自分の国でトップ獲れば、その視点でまた戻って来られるなって思って。その時はまた違うニューヨークが見れるだろうなって。だから、こっちで“やり続けてる人”を見ると得ている物は大きいだろうなぁってうらやましいです。この街で継続して戦ってる人を見ると、本当にカッコいいと思いますよ。視野も広いだろうし、日本にいる日本人とは絶対、感性は違いますよね。これからも日本人という誇りを持って、継続して頑張っていただきたいなと思います。

なるほど。今日は本当にありがとうございました。

北村 あ、そうだ! コレも最後に付け加えておいて。「いつか、必ず僕もこの街で住むのでよろしくお願いします!」って。(笑)

北村一輝(きたむら・かずき) 職業:俳優
1969年生まれ、大阪府出身。96年公開の映画「LUNATIC」で注目されてから、数多くのドラマや映画で活躍。99年公開の「皆月」及び「日本黒社会 LEY LINES」で演技力を高く評価され、キネマ旬報新人男優賞とニフティ映画大賞助演男優賞を受賞。「皆月」ではヨコハマ映画祭助演男優賞も受賞。2010年には伊オートバイメーカー・DUCATIより、自社の製品のように力強く、美しい著名人を選ぶ「DUCATI Most Powerful Most Beautiful Award2010」を受賞。今までに80本近い映画に出演し、チンピラからゲイバーのママまでさまざまな役をこなしてきた演技派。最近は、日本・インドネシア合作の「KILLERS」主演や、インドネシア映画「ザ・レイド/GOKUDO」に出演し、国境を越えた活躍がますます期待される。特技は日本舞踊(坂東流)、乗馬、空手、水泳。
【公式サイト】www.from1-pro.jp/KitamuraKazuki

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年8月2日号掲載)

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