コシノジュンコ

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日本の伝統的なものを伝えるためにも着物を着てほしい

「ガチ!」BOUT. 190

 

コシノジュンコ

 

先月末、ニューヨークの日本クラブで開催された第9回「きもの文化検定」(主催・全日本きもの振興会・京都市下京区)。海外に住む日本人に正しい日本の伝統文化を今後現地に紹介してもらい、国際親善につなげるため、このたび海外での実施に至った。それを記念して、ニューヨークを訪れた同会の審議委員で、ファッションデザイナーのコシノジュンコさんに、着物の正しいあり方、日米間のファッションの違いなど、語ってもらった。 (聞き手・高橋克明)

 

「きもの文化検定」NYで開催

コシノジュンコ
先生が「きもの文化検定」の委員を第1回から勤められている、と聞いて実は意外な気持ちでした。着物という「和」よりも、どちらかというと…。

コシノ 洋服のイメージの方が強いでしょう?(笑)。あの「カーネーション」(※)というドラマご覧になりました? 私が子供のころ、うちは呉服屋だったんですよ。おじいさんが始めて。だから小さいころは周りは全て「和物」だったんです。着物を着させられて、お琴やお茶やお花を習わされて。(当時の)着物の呉服屋だったらそれが当たり前な環境で育ったんですね。

先生のルーツは着物だった、と。

コシノ それをうちの親が全部反発して、どんどんどんどん新しい(洋の)物を取り入れて、変わっていっちゃったんですね。あのドラマどおり(笑)。そこからはずっと洋服の世界にいるわけですけれども、だからこそ、着物に対して尊敬の念が非常にあるから、とても大切な物、なんですね。なので、私はどちらかというと、「正統派」ですね。(従来の型を)壊して、洋服だか、着物だかってどっちつかずの物は作りたくないんです。だったら、洋服でいいじゃないかって思っちゃう。着物に対して尊敬の念があるから。まず、浴衣をプレタ(ポルテ)にしたのは私なんです。30年前に。今や、あのデニムでも浴衣を作ってる。私は浴衣は着物の始まりだと思ってるんです。着物のTシャツだと思ってるんです。だからドレス感覚で着て、イヤリングをつけて、ハイヒール履いて自由に着たいっていうのだったら、浴衣ですればいいと思うんです。ただ着物に関しては、崩すのは私は反対ですね。

「きもの文化検定」の委員を第1回から9年連続で勤められている理由が今、分かりました。(笑)

コシノ でもね、実は実際に審査をするわけでなく、私は着物の振興というか、広めるための基礎的な知識を教えさせていただいてるんですね。やっぱり、着物を着る以前に伝統的な日本文化を学ぶ必要があると思うんです。こちらにいる、ある日本人留学生が、最初にこっちに来て、アメリカの方に「着物の着方教えて」と質問されて、1回も着た経験がなかったことに、ものすごく恥ずかしい気持ちだったと。自国の文化を勉強してないのに、海外に留学しても、ねって。それに着物って大変なお金が掛かりますし、最低100万円はするものでしょう。だから、実際に着る、に至るまでに知識があることによってより楽しめると思うし、自信も付くと思うんですよ。

ただ、今は着物を着ていく場所自体少なくなってきてますよね。

コシノ そう。それに呉服店自体もどんどん少なくなってきてますでしょう。やっぱりそれは(日本人が)着物に対する自信がなくなってきているから。専門的な知識を伝えられる方が少なくなってきてますよね。それが一番の欠点だと思うんです。今、日本の伝統的なものそのものが下火になっていっている。それを世界に伝えていくことに「着物を着る」ということは大変、効果的ではないかなと思うんです。もちろん、それは着ることだけでなく、日本中にもメーカー、産地がたくさんあるわけで、今回、群馬県の旧富岡製糸場が世界文化遺産に登録されたり、和食が無形文化遺産になったけれども、「やっと」ですよね。日本は長い歴史の中で世界に誇る物がいっぱいありながら、あまりにも世界に浸透していなかった。日本のものづくり、その技術は世界に誇る物だと思うんですね。明治のころは日本の輸出の70%が絹だったんですね。今やクルマやカメラやメカニックなものになってますが、輸出の先駆者は絹だったんです。日本の絹って本当に世界に誇る最初の物だったんですね。あなたもニューヨークにいらっしゃるからもうお分かりだと思うんですが、外から見ると日本って素晴らしいでしょう。

コシノジュンコ

ある意味、世界で一番だと思います。

コシノ ねぇ。だから、もったいないなって。だって、もし着物が(この世に)なければ、すごく寂しいでしょう。そういう意味では今回の検定も合格された方は自信を持っていただきたいなって思うんです。特に、9歳で3級に合格した小学生もいるので、小学生からそういった経験を持ったら将来楽しみですよね。将来、どんな活躍をしてくれるのかってことでね。着物って、知識と実際に着ることと両方そろって初めて実になるものだと思うんですね。なので、彼らには、自信を持って今後、日本の文化を紹介してほしいと思いますね。

先生から見られた時、今のニューヨークのファッションシーンにはどういった印象をお持ちですか。

コシノ 特にニューヨークは世界の顔ですからね。(ファッション業界において)世界の中でもニューヨークとパリは別格だと思うんですね。ただパリにはモードという一つの伝統的なものがありますから、それに比べるとニューヨークはいろんな可能性を秘めてる街ですね。ヨーロッパや日本は実績主義というか、過去(の履歴)を重んじますが、ここは逆に「やったことないから、やる」っていう感じ。良ければ、受け入れる。そこに対しての理解は深いですね。「経験はないから、やらない」だったら、永遠にやれないじゃないですか。私ね、1990年に、メトロポリタンミュージアムでファッションショーをやったんですよ。あの美術館で普通は考えられないでしょ。“ダメもと”で話を振ったら、「やったことないから、やってみよう」って。ここがいいですよね、この国は。いいものに対して、前向き。やっぱり新しいことに挑戦しないと。着物って、古い物だからダメってわけじゃなく、いい物は受け入れてくれる。それに、(ほぼ)単一民族なので(意見が)偏る日本に比べて、ニューヨークってアップタウンとダウンタウンで、文化も人種も全く違うから、分かる人が必ずいるっていうことですね。

(※)「カーネーション」 2011年度下半期にNHKで放送された連続テレビ小説・第85作目のテレビドラマ。コシノジュンコさんの母、小篠綾子さんがヒロインのモデルとなっている。

コシノジュンコ

 

★インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-11930874153.html 

 

コシノジュンコ 職業:ファッションデザイナー
大阪府岸和田生まれ。文化服装学院デザイン科在学中、新人デザイナーの登竜門とされる装苑賞を最年少で受賞。東京を拠点に活動し、1978年のパリコレクションを皮切りに北京、ニューヨーク、ベトナム、ポーランドなど世界各地でショ-を開催。2006年にイタリア連帯の星カヴァリエーレ章受勲、09年にモンブラン国際文化賞を受賞するなど、世界から高い評価を得ている。オペラやブロードウェイの舞台衣装、スポーツユニフォームといった服飾デザインのみならず、インテリアデザインも手掛けるなど、幅広い分野で活躍中。東日本大震災発生以降、復興支援活動にも力を入れている。
公式サイト:junkokoshino.com/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年11月22日号掲載)

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