丸山敏秋 不確定な未来を憂うより、今、この瞬間を生きよう

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BOUT. 302
一般社団法人倫理研究所理事長 丸山敏秋

アフターコロナ、われわれの進む道

倫理研究所は、家庭、企業活動を通じ、日本再生を目指す、現在、日本最大6万8000社の会員企業数を有する一般社団法人である。社会教育者である、理事長、丸山敏秋氏にコロナ禍の本質、激動の現代の生き方を紀尾井町の本部にて1対1で聞いてみた。
(聞き手・高橋克明)

われわれが生きているのは、今、ここ以外にはない

一昨年(2019年)、理事長がニューヨークに来られた際にお話を伺った時、「(翌年の)2020年は、人類にとって稀に見る大きな変革の年になる」とおっしゃっていました。まるで預言者のごとく、実際に歴史的な年になりました。理事長には先が見えていたのでしょうか。

丸山 預言者だなんて、とんでもない(笑)。ただ、歴史を勉強すると、世界はある程度のパターンを繰り返していることが分かってくるんですね。歴史は繰り返す、と(アーノルド・J・)トインビー博士(19世紀から20世紀にかけて活躍した英国の歴史学者)も言っていたように。未来のことは分からないけれども、過去のことは調べればかなり分かる。そこにパターンの波のようなものが見えてくるわけです。例えば、日本の社会はだいたい約30年周期でパワーの転換期を迎えています。特に明治以降は、その傾向が顕著ですね。

ジェネレーション・ギャップという言葉もだいたい30年ごとに区分されますよね。

丸山 そう。世界的に見ても、1990年以降は30年周期で大きな転換を迎えています。89年にベルリンの壁が崩壊して、91年には、あのソ連が崩壊しました。日本では89年に昭和天皇が崩御されて、中国では天安門事件が起きています。あれ以降、中国は発展していきました。そこから約30年後が去年から今年にかけてですから。大転換期を迎えても不思議ではないですよね。

その30年は、まるまる「平成」も重なり、一昨年からは「令和」という新元号にも変わりました。

丸山 同時に、「失われた30年」が終わりを告げたことも意味します。コロナが収束した後は、日本は上昇気流に乗っていくのではないかと思っています。世界が混乱した後は、そういう動きになることは多々ありました。

今回のコロナ、長期的に見れば、決して悲観的な話ではない、と。

丸山 そう思います。もちろん、誤差はあると思いますよ。でも、世界中のさまざまな社会学者、経済学者、見識者たちが同様に言っています。例えば、自分のことを「社会生態学者」だと言い切った、ピーター・ドラッカー(1909~2005)。彼が出てきたおかげで、「マネジメント」の意味を多くの人たちが理解するようになった。だから彼は「マネジメントの発見者」とも言われています。そのくらい「人間」のことも、「社会」のことにも精通している。のみならず「歴史」についても造詣の深い人でした。ドラッカーは95歳で2005年に亡くなったのですが、亡くなる前にこう語ったそうです。「この転換期は今後30年間は続く。私たちは非常に困難で苦しい時期を過ごすことになるでしょう」と。

2005年から30年…。

丸山 まだ今は転換期のさなかです。事実、予期せぬ出来事、困難な事態がいろいろ発生しています。ドラッカーはまた「これから先に何が起こるかは予測できないが、予測できない方向に進んでいくことは予測できる」と述べています。名言ですね。

つまり、大転換期にいることは間違いない、と。

丸山 ドラッカーやその他多くの見識者の見解も参考に重ね鑑みると、われわれは人類文明の大転換の時代を生きているのだと確信できます。そのことを前々から、いろいろな機会に話してきました。

ただ、悲観的な話ではないとしても、実際に、コロナ禍により世界経済は混乱しました。破綻した例も少なくありません。先が見えなくなってしまった人も実際には多く存在すると思うのですが。

丸山 もちろん業界によって差はあったとしても、全体的には厳しいですよ。ただ、日本はまだ国が支援、補助で社会を支えることができる。経済は上がり下がりはどうしても出てくる。それ以上に深刻なのは、コロナそのものだったと思いますね。

ウイルスによる世界的な健康被害の方。

丸山 先ほどの「予測できない事態」の一つでもあると思うのですが、コロナというウイルスの感染率も国によって全く違いました。疫病であるにもかかわらず、欧米諸国と日本を含む東アジアの重症者、死者の数が明らかに差がありました。

理事長的には、何が原因だと思われますか。

丸山 なんとも言えないですね。さまざまな人がさまざまな意見を言っています。もともと衛生観念が違う、あるいは、コロナウイルス自体にいくつかのタイプがあって、西と東では違うのではないか、あるいは、同じウイルスであっても、欧米人と東洋人とでは耐性が違うのではないか、つまり民族の体質的な違い、自然免疫のレベルの違いが要因ではないか、など、いろいろな専門家が、いろいろな意見を言っていました。説得力のある意見もその中にはありますが、でも、それだけでは説明がつかないほどの差がありますね。

確かに。

丸山 とにかく分からないことだらけです。例えば、コロナの流行によってインフルエンザがどこかへ行ってしまった。日本では毎年、厚生労働省が1週間のスパンで、インフルエンザ発症者数を公表します。例年4万人とか5万人くらいの週も珍しくない中、去年の冬はわずか60人ほどの週もありました。ほとんど消えたと言っていい。理由としては、皆がマスクをして、ソーシャルディスタンスを徹底して…それくらいしかないのだけれど、ウイルスは超ミクロの存在なので、人間がそう簡単に防げるものでもない。とにかく説明つかない現象ですよね。…何だかウイルスたちも、任侠の社会じゃないけれども、お互いに仁義を切って、縄張りを守っているみたいだね(笑)。今年はウチが流行(はや)らせてもらいますよ、みたいな。もちろん、インフルエンザは発症者で数える、コロナは検査の陽性者数で発表する、という違いもあります。そもそもの数の定義から違うので、単純に比較はできないですがね。

大転換期には不思議なことがやはり起こるという一つの現象みたいですね。本当の意味で「収束」はいつくらいになると予想されますか。

丸山 それを正確に言い当てる人間はこの世にいないと思います(笑)。「収束」という言葉自体の定義にもよるし、こればかりはね。なにより、もう政治マターになっちゃっています。医学的にどうということだけでなく、政治力によっても「収束」はいかようにもなるわけですよ、表面上はね。今でも感染者数が毎日、発表されていますが、正直に言ってしまうと、それも信用していいものかどうか、分かんなくなってきている。死者と言っても、本当にコロナで亡くなられたのかどうかもよく分からない。それぞれの専門家のそれぞれの専門分野からの意見が飛び交っている。ある意味、私は、今回のコロナパンデミックの本質は、「インフォデミック」だとも思っています。

インフォメーションのエピデミック(疫病などの流行)。情報の氾濫だと。

丸山 大衆に真偽が不明な情報が氾濫してしまった。特に日本の場合は、恐怖心こそが先に感染したと言えるかもしれない。2020年は、テレビが朝から晩までコロナ一色でした。2月3日に大型クルーズ船が横浜港に入ってきてから、コロナ感染症が報道し続けられ、国民の頭の中はコロナで染まってしまいました。振り返ると、本物のウイルス以上に、恐怖ウイルスが感染拡大したとも言えるかもしれません。

「新型」という名称であったり、中国が発生源であったりと言われていたり、実態以上に怖いイメージが先行された面もあるかもしれませんね。

丸山 正しく恐れることが大事だと思います。それができなくなっていたこの1年半だったことに問題があります。視聴率が重視されるテレビでは、煽(あお)るコメンテイターを使いがちになります。医療関係者は1人も患者や死者を出さないのが使命と思っているようで、必要以上に、マスク、手洗いと連呼する。聞いている方は恐怖ウイルスにやられてしまう。その結果、職場も飲み会も、リモートが主要になってしまった。

確かに。リモート自体はいい面もあると思うのですが…。

丸山 もちろん、悪いことではありません。でも行き過ぎちゃうと、ずっと家に閉じこもって鬱(うつ)になってしまう。自殺者が増えてきているのも、無関係ではないかもしれない。ステイホームが増え、経済が回らなくなると、感染防止対策だけでは解決できない状態になってしまいます。このあたりのバランスをとることが大事になってきますね。

なるほど。

丸山 あとは、個人個人が、なにより免疫力をつけることが大事ですね。政府も医師会もそれについてあまり言及しないけれど、一番肝心なことのはずです。手を洗うことも、マスクをすることも、「予防」です。でも、たとえウイルスが人体に入ったとしても、ウイルスがそれ以上活動しないようにするためには、身体本来の抵抗力をつけることです。それを棚に置いて、予防ばかりに注視するのはどうも本末転倒じゃないか、と。ここまで予防だけに言及するのには、みんなが免疫力を高めると、病院に行く人が減って、医者が困ってしまうのかな、と勘ぐりたくなるくらいです。

予防以上に、免疫力を高めることが重要だと。

丸山 免疫力アップが一番の予防です。政府も、医療関係者も、もっとそう言うべきですね。自分が免疫力を高めるために実際にしていることを5つほど挙げましょう。まずは第1に「身体を温める」ということ。体温の低い人は1度か2度上がるだけで、かなりの病気が治ってしまいます。だけど、これが、なかなか難しい。そのためには「食のバランス」が重要になってきます。人と自分の身体にはそれぞれ違いがあります。それを体質とか体癖と言います。ある程度生きていたら、自分の体質が分かりますよね。それを聞いてあげる。つまり身体に素直になるということです。今日はちょっと食べすぎたな、と思ったら、翌日は減らす。身体が冷えてきたな、と思ったら、陰と陽で言えば、陽性の食べ物、例えば、よく火を通したものを食べる、とかね。そうやって自分で調整していく。それが2つ目ですね。
3つ目はもちろん「適度な運動」。人間は動物なので、運動しないと体が鈍ります。「気」という生命エネルギーが滞っちゃうんですね。4つ目は「快便」。便秘をしないことですね。腸は、健康の非常に大きな源になります。腸に宿便をためないよう、腸内細菌を活性化させるよう、もっと意識してください。そのためには、2つ目の「食べ物」、3つ目の「運動」が大いに関わってきますね。そして最後は「睡眠」。時間よりも質が重要です。いかに熟睡ができるか。例えば、7時間寝るとして、4時間熟睡できれば。あとの3時間は身体を横たえるくらいでも、身体は十分、回復できます。自分が心がけていることは、まずはこの5つですね。

なるほど。でも、それらは小学生の頃から言われていたことですね。

丸山 そう、当たり前のことでしょ。基本ですから。でも、みんなやらない(笑)。そんな当たり前のことをやらないから、病人が減らないんです。こんなに医学が発達しても、病人が減らないどころか増えていっているのも、また不思議なことの一つですよね。

確かに。

丸山 そして、それらにプラスして免疫力アップで大事なことは「心の健康」です。いつも明るく、朗らかで、前向きであるよう心がけましょう。わが名刺にはこんな言葉を書いています。──「今日もきっといいことがある」。我々(われわれ)、純粋倫理を学んでいる者たちは「今日一日、朗らかに明るく、喜んで進んで働きます!」という言葉もモットーにしています。そういう心の健康がベースにないと、本当の健康は掴(つか)めないですよ。

今日のお話で、これからの時代は特に、自身で「免疫力」を高めていくことが重要だということが分かりました。

丸山 すべてに言えることだと思います。身体だけでなく、経営でもね。会社だって体質を強くしたいでしょう。体力をつけて、強化したい。これは「免疫力」を高めるということに他ならない。周囲から不必要なモノや妨害要因が入ってきても、それを跳ね返すだけの力をつける。それって、経営にはとても大事な要素じゃないですか。

世の中のあらゆることに、免疫力は必要だと。

丸山 あらゆることは、すべて絡み合ってます。万物万象の一つ一つを掘り下げていくと、すべては見えない次元で繋がり、関わっていると分かります。だからこそ、今、目の前の一つのことに、一点集中でコツコツやることが大切なんです。やっているうちに、他のいろんなことも関連して良くなっていったりする。あらゆる物事を、切り離して考えない方がいい。例えば、今日も「これからどうなるのか」「コロナは収束するのか」「新しい生活様式はどうなるのか」と聞かれました。みんな、先のことを聞きたがります。でも、答えられない。当然ですが、分かりませんから(笑)。歴史を鑑みれば、ある程度は想像がつくかもしれない。でも、正解は誰にも分からない。そうやって先のことばかりを気にすることこそが問題なのではないか、と思うんです。それは近代的な考え方なんですよ。なんでも未来を先取りして計画し、計画通りに行かないとダメだと思い込む。今のような大転換期には、不確定要素が多すぎて、計画の通りに運ばないことが多い。不確定な未来であると自覚した上で、今日の「今、この瞬間」にこそ、もっと目を向ける必要がある。まずは足下の今日やるべきことをきちっとやる。その良い流れが、明日以降につながっていく。すると先々のことも自然とある程度は見えてきます。その足下をおろそかにして、「これからどうなるんだろう」「どうすべきか」ばかり考えても、あまり意味がありません。考える前にやることがあるでしょう。われわれが生きているのは、今、ここ以外にはないのだから。

すべて、ふに落ちました。目から鱗(うろこ)です。

丸山 ローマの皇帝で、哲人皇帝と知られるマルクス・アウレリウス・アントニウスという人が、「自省録」という書物で、こんな言葉を残しました。──「善い人間の在り方如何について論ずるのはもういい加減で切り上げて、善い人間になったらどうだ」と。時代が変わっても、人間の本質、人生の真理はそう変わるものではありません。なので、まだ未確定な未来のことばかりを憂うよりも、過去の人類が築いてきた文明、文化の中の貴重な教えに気付き、学ぶということ、そして、今を生きるということが大事ですね。人間はまだまだ進化の途上にあるのだから。

丸山敏秋(まるやま・としあき) 職業:一般社団法人倫理研究所理事長
1953年、東京都に生まれる。東京教育大学文学部哲学科卒業。84年、筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。日本学術振興会奨励研究員、筑波大学非常勤講師等を歴任。日本家庭教育学会副会長。著書に『家庭のちから』『生きぬく力』『「いのち」の輝き』『苦難は幸福の門』『つながる』(以上、新世書房)『「いのち」とつながる喜び』(講談社)『最高の自分を生きる』『美しき日本の家庭教育』(以上、致知出版社)ほか多数。最新刊『経営力を磨く』(倫理研究所刊)。
【ウェブ】www.rinri-jpn.or.jp/

(2021年9月18日号掲載)

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

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