BOUT. 281
シンガー MISIAに聞く
5月12日、NY・ソニーホールでライブ 「Japan 2019 Presents Japan Night」
昨年、デビュー20周年を迎え、同年12月には第60回「日本レコード大賞」を受賞した日本の歌姫、MISIA。1998年のデビュー曲「つつみ込むように…」以来、J─POPの枠にとらわれることなくチャレンジを続け、日本にクラブカルチャーを根付かせている。と同時に、世界基準のサウンド・クオリティーとポピュラリティの両立を果たしている。そんなMISIAが5月12日、ニューヨークで初ライブを行う。同日、日中に行われる「Japan Day @ セントラルパーク2019」の連動企画として、同夜、音楽の祭典「Japan 2019 Presents Japan Night」が行われ、そのステージで歌声をニューヨーカーに披露する。ニューヨーク公演を控えた心境を伺った。
(聞き手・高橋克明、インタビューは日本で実施)
声質の変化をすごく楽しみながら歌い続けていきたい
来月12日、ニューヨークでのライブです。今のお気持ちを。
MISIA もう、本当にうれしいです。ニューヨークは大っ好きな街で。音楽的にも、もちろん個人史的にもすごく特別な街なんですね。ファーストアルバムのトラックダウンやマスタリング、いわゆる仕上げ作業をやったのもニューヨークでした。ジュニア・バスケスさんをはじめ、ニューヨークの素晴らしいDJの方々にリミックスを手掛けていただいたり。それから、新しいアルバムもニューヨークで制作した楽曲がすごくたくさん入っているんですね。ニューヨーク在住の(トランぺッターの)黒田卓也君をはじめ、たくさんのミュージシャンに演奏してもらった曲がたくさん収録されているので。
関わりの多い街なんですね。
MISIA なので、そんな街でライブができるというのがすごくうれしくて。それこそデビューの時から、いつかできたらいいねって言ってたような、そんな街です。
でも、今回が初めてなのは、意外な気もします。すごくニューヨークの街並みとMISIAさんの曲がマッチする印象だったので。
MISIA 初めてですね、はい。なかなかそういう機会がなくて。
でも、7年前のワシントンDCでのライブは大盛況でした。会場にいたのですが、終演後の観客全員のスタンディングオベーションが忘れられません。
MISIA あの時が、最初のアメリカ(でのライブ)だったので、(観客から)どんな反応が返ってくるか全く分からなかったんですけれど、終わった瞬間に、アメリカのスタイルらしいというか、大きな拍手と大きな歓声を頂けて。手探りな状況だった分、すごくうれしかったですね。「明日へ」というバラードを歌った後にアップテンポになるんですけれど、そのまま皆さん、踊ってくれて、盛り上がってくれて。
アメリカならではの、すごい盛り上がりでした。
MISIA 「music is language」という言葉がありますけども、言葉とか文化とかを飛び超えて、何かこう、つながれたっていう感動はありましたね。特にあの時は東日本大震災への支援に対して感謝の気持ちを伝えるというライブだったので、その気持ちが伝わったということもうれしかったです。
次はニューヨークです。
MISIA 日本の文化を紹介するという大きなイベントの中でのライブなんですけれど、今の時代って(国による)壁を感じて、お互いの違いを感じて、じゃなくて、一緒に感動できるもの、お互いが共感できるもの、その文化を理解していくことなんじゃないかなって思うんですよね。共感できるところから、異文化を感じていくというか。例えば、私の音楽自体は日本の伝統的な音楽から派生しているものではなくて、アメリカだったり、ヨーロッパだったり、もっと言うとアフリカのソウルミュージックに感銘を受けて、そこからスタートしていて。なので、ニューヨークや世界中のミュージシャンと一緒に音楽を作ってきたんですね。でも、だからこそ、逆に自分のアイデンティティー、日本人的なものをすごく感じるんですよ。今回、一緒にライブを作り上げてくれるメンバーも、バンドマスターになってくれる黒田卓也君っていうトランペッターこそ日本人ですが、その彼がいつも一緒にやっているニューヨーカーたちが集まってくれてるので、日本人だけで構成されているわけではないんですよ。でも、それこそが音楽という文化を(世界の)みんなと分かち合っているピースな空間だと思っていて。
お互いに感動できるもの、楽しめるものを分かり合うようなライブになる、と。
MISIA それこそが「日本っぽいな」と私は思っていて。日本っていろんな文化をすごく受け入れる国だと思うんですよね。それこそクリスマスもやるし、ハロウィーンパーティーもやるし、結婚式では白無垢(むく)も着る。「Happy New Year !」って言いながら初詣に行ったり…。いろんなカルチャーを受け入れながら、そしてそれをリスペクトしながら生きていく。みんなで輪になってピースに生きていくという文化だと思うので、(ライブも)音楽を通して、みんながつながっていけるような空間が生まれるといいなと思いますね。
ある意味、今の世界にいちばん必要な感覚かもしれないですね。そのMISIAさんが、ここ最近のエンターテインメントシーンで印象に残ったことはありますか。
MISIA ここ最近で一番印象的だったのは、去年の1月にニューヨークで開催されたグラミー賞授賞式ですね。実際に見に行けたんですよ。
あ、マディソン・スクエア・ガーデンにいらっしゃったんですね。
MISIA 生で見るグラミー賞授賞式はすごく感動的だったんですよ。エンターテインメントというモノの発信するメッセージの深さであったり、ニューヨークという場所が作り上げているカルチャーの豊かさであったり。エンターテインメントを通して、世界中の人間に門を開いている。これって、これから世界中がそういうふうになっていくべき、平和の一つのモデルみたいなものだと思ったんですよ。これから進むべき道を自分たちで見つけようとしている姿勢がすごくすてきだなと。
なるほど。
MISIA ステージ上の皆さん、自分のアイデンティティーに自信を持って歌っていらっしゃるのを見て。なので日本人としてあの街に行って、歌うってなった時は、やっぱり日本人として歌いたい。日本人としてこれまで受けてきた(世界中の)カルチャーを素直に全部出しながら表現できるといいなと思いました。
そして、またDCのライブの時のように、今度は会場のニューヨーカーをノックアウトしてやってください!
MISIA あはは。(笑)
デビュー22年目になられます。この先のゴールはどこでしょうか。
MISIA 歌い続けていくということですね。声質自体も年齢によってどんどん変わっていくと思うんですけど、その変化をすごく楽しみながら、歌っていきたいなって思っているんですね。で、できたらすごく長生きして、声がしゃがれるぐらい長生きして(笑)。それでも何か伝えられる歌を歌えたらいいなと思っています。
生涯歌い続ける、と。
MISIA はい、それは歌手としての一つの目標で。音楽としては、あらゆるジャンルを飛び越えて「いいものはいいじゃん!」って、どんどん新しいものを取り入れて作っていきたいですね。やっぱり、今の世界の音楽シーンを見ても、みんな混じり合ってる。ジャズの人たちもR&Bだったりソウルだったりロックだったりファンクだったり、いろんな音楽を「同世代の曲」として聴いてるんですよね。前述の黒田くんもジャズ畑とはいえ、私が歌ってきた音楽と実は接してきてないわけではない。接している。例えば私もエリカ・バドゥーさんだったり、ルーツさんだったりのヒップホップなんだけどジャズを取り入れていたり。ヒップポップっていうもの自体が、他の音楽をサンプリングするので、いろんな音楽をリスペクトしてる音楽ですから。そこから、また、ジャズっていうものをやっぱり感じてきていたり。そういうふうに自分のジャンルだけで壁を作るんじゃなくて、壁を超えて新しいものを作っていきたいですね。
今回のニューヨークライブで、また新しいものを感じられるかもですね。
MISIA ニューヨークも大好きですし、それからもちろんアフリカも大好きなので、世界中のいろんなカルチャーに触れて全部、ミックスチャーしたいです。いま自分が感じてることを表現する、表現できる歌手になっていくためにも。
ニューヨークという街自体にはどういった印象をお持ちでしょうか。
MISIA プライベートで行った際は、小さなジャズクラブを見つけて入ってみたりするんですけれど、すごく面白いと思ったのは、日本だと営業時間が終わっているような時間でも、オープンしてますよね。
特にジャズクラブは遅い時間まで営業していますね。
MISIA で、深夜の12時くらいから始まるライブはチケットがすごく安かったりして、あとで聞いてみたら、頑張っている(まだ無名の)若いミュージシャンに場を提供してるっていうんですよ。ああ、こんなふうに街全体でミュージシャンをバックアップしてる街ってすごいなーって、思いましたねー。
今回のニューヨークでも時間があれば…。
MISIA ぜひ、(現地の)ライブは行ってみたいです。ニューヨークの面白いところは、いつも何かをやってるってところだと思うんですよ。その場にポンと行って、楽しめる。今回も、なんとか時間を見つけて行きたいな〜とは思ってるんですけどもね。
最後に、ニューヨークの日本人に何かメッセージをお願いします。
MISIA 日本人として海外で生きていくっていうのはすごく大変なこともあると思いますが、皆さんがそこでいろいろと培ってくださったおかげで、私たちもニューヨークを身近に感じられます。今度は私が皆さんに力を与えられるように、頑張って、ライブを盛り上げていきたいと思っています。初めてニューヨークでライブができることは、本当に楽しみで、たくさんの方に来ていただきたいです。皆さんにライブでお会いできることを、楽しみにしています。
MISIA 職業:シンガー
長崎県出身。1998年、デビュー曲「つつみ込むように…」が大ヒット。グルーヴ感抜群の歌唱で、音楽シーンに衝撃を与える。2000年にはバラード「Everything」がヒットして国民的人気歌手となり、04年には女性アーティストとして初めて5大ドームツアーを敢行。アジアにも進出して大成功を収めた。以降、J-POPの枠にとらわれることなくチャレンジを続け、日本にクラブカルチャーを根付かせた。同時に、世界基準のサウンド・クオリティーとポピュラリティの両立を果たしている。ライブにおいても常にトップ・アーティストであり続け、コンピューターを駆使した大規模なツアーでは斬新な演出の中心となり、楽器の生演奏のみのコンサートではエンターテイナーに徹し、最新のグルーヴを探究するライブでは超一流ミュージシャンとのセッションを楽しんでいる。20周年を迎えた18年はフェスの最高峰〝フジロック〟でその実力を世界に見せつけた。また社会貢献活動にも積極的で、特に子供の教育支援に尽力。音楽に込めるメッセージと、貢献活動が一致していることも特筆される。そのアーティスティックなライフスタイルは、あらゆる世代の男女に強い共感を呼んでいる。
公式サイト:http://www.misia.jp
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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
■ライブ情報
5月12日午後9時開演
MISIA with special guest Puffy AmiYumi
at Sony Hall(235 W46th St, NYC)
開場:午後8時/開演:午後9時
チケット購入:www.ticketmaster.com
タイムズスクエアにある「ソニーホール/Sony Hall」で5月12日(日)、「Japan 2019」の一環として、日本が誇る歌姫、MISIAのライブを実施される。特別ゲストとして、米国で人気のCartoon Networkで日本のポップシンガーとして初めて紹介された、Puffy AmiYumiも出演する。
「日本の音楽シーンをリードするアーティストのパフォーマンスをニューヨークの観客に『生』で体験してもらうこと」を目的に実現された。
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「Japan 2019 presents Japan Night」は、Japan 2019 の公式企画として、国際交流基金、ディスクガレージ、ゴージャスエンターテイメントおよび Cool Japan Music によって主催され、木下グループの協賛により実施される。Japan 2019 の事務局である国際交流基金は、世界の全地域において、総合的に国際文化交流事業を実施する日本で唯一の専門機関。
(2019年4月27日号掲載)