ゴルフは自分との闘い
「ガチ!」BOUT.55
5月初め、ニュージャージー州にあるアッパーモントクレアCCで行われた米女子プロゴルフツアー第9戦「サイベース・クラシック」に出場した宮里藍さん。現在ロサンゼルスを拠点に米国で活動している宮里さんに、日米でのプレーの違いや、ツアー生活などについてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)
米女子プロゴルフツアー サイベース・クラシック出場
米国でのツアー生活の苦労と楽しみ
まず、今回のトーナメントに対しての意気込みを聞かせてほしいのですが。
宮里 そうですね、ここのコースは100年以上の歴史があって好きなコースの一つなんですね。アメリカの歴史があるコースっていうのは、だいたい、ここみたいにフェアウエーが狭くて、グリーンが小さいってイメージがあるんですけど、こんな感じのオールドファッションなコースがすごく好きなので、楽しみにしていた試合です。
今回でここのコースは何回目になりますか。
宮里 多分…今回を含めて3回目ですかね。こんな都会の試合ってなかなかないんですよ。(笑)
都会……?(※インタビュー収録場所はアッパーモントクレアCC)
宮里 普段、ツアーを回っていても田舎の方ばかりなので…。
えっと、都会っていうのはここの事ですか…。
宮里 そうですよ! ダウンタウンにすごく近いって意味ですけど。
ここは近い方なんですか。
宮里 あー、もう、全っ然近い方ですね。近いです。普段のツアー中には、あんまりダウンタウンに出歩く事はないんですけど、でも全米の中でもやっぱりニューヨークのダウンタウンっていうと、ものすごいあこがれというか、「行きたいリスト」の中の一つじゃないですか。(笑)
はい。(笑)
宮里 だから、ロスにしてもそうなんですけど、都会に近いコースだと息抜きの遊びに行けるってことも含めて好きなんですね。田舎だと…まあモールに行ったりぐらいしかできないので(笑)。それだと、どこ(の州)に行ってもほぼ同じような感じになっちゃいますよね。
アメリカだとそうなってしまいますね。
宮里 でもやっぱりニューヨークだとショッピングするにしても、いろんな違うお店があったり、食事するにしても、いろんなレストランがあったり…。(うれしそうに話して、急にわれに返り)えっと、試合自体も、もちろんすごく楽しみです、ハイ。コースも木が多くて緑が多いのでカリフォルニアの砂漠状態とは全然違いますね。すごく新鮮な感じがします。
アメリカは何でもアリです(笑)
日本国内とこちらとでツアーを回る際に違いはありますか。
宮里 (アメリカは)移動が長いのが一番の違いじゃないかと思います。日本だと便利な宅配便もあるし…。
ゴルフバックを送るための。
宮里 そうですね。楽なんですよ、日本の方が。本当に小さな手荷物一つだけで日本中、回れちゃうんですね。こっちだと、そういうわけにはいかないんです。
ご自身で持ち運ぶんですか。
宮里 送ってもちゃんと手元に届かない事があるんですよ。コネクションのあるフライトだと、よく変なとこに行っちゃうんです。ちゃんとチェックインしたのに、まぁったく違うとこに行っちゃうとか(笑)。そんな心配は日本じゃあり得ないですよね。
う~ん、そうですよね。
宮里 あとは、西(海岸)に住んでいるので、長時間のフライトも結構あったりとかで体調管理は大変です。乗り継ぎ、乗り継ぎで、また乗り継ぎみたいな。だからちゃんと息抜きできるように、リフレッシュを意図的にするようにしています。
だから近くにダウンタウンが重要なんですね。(笑)
宮里 ちゃんとオン・オフの切り替えができるように。(笑)
コースの芝の違いはありますか。日米間で若干、違うって話をよく聞きますが。
宮里 全然違いますね。場所によって違うだけでなく、(同じコースでも)毎週毎週、状態が違います。例えば、ここも先週はすっごくきれいでピュアなグリーンだったのに今週はすごくポコポコする、跳ねるグリーンになってるんですよ。
そんなのって…アリなんですか。(笑)
宮里 アリですね(笑)、アメリカは。ボールのスピードも止まり方も距離の出方も毎週変わってきますから。そのへんのアジャストはすごく難しいです。またフロリダに行けば、バミューダっていう全然違う芝ですし、日本は日本でベントっていうすごくきれいな芝なんですね。日本人は景観にもすごくこだわってるので、やっぱり見た目にも美しくないといけないっていうのがあるんだと思いますね。
なるほど。それでは藍さんにとって世界ランキングってどういった位置づけなんでしょうか。
宮里 う~ん、ゴルフをしている中でいろいろ、小さな目標はあって、その中の一つとして(ランキングは)自分のバロメーターではあると思うんですけど、ただ、ポイント制に関しては、もうちょっとフェアなやり方ができるんじゃないかなっていう気もします。今後はもっと世界的にフェアなきちんとしたものができていくんじゃないかなとは思うんですけど…。
はい。
宮里 でも、基本的には、やっぱり頂上に達したいっていうのは、どの選手も思っている事でしょうし、トップ10に入りたいなっていう目標を持っていれば、必然的に自分の調子も上がってくると思うので、そんな感じで見ていますね。
なるほど。いよいよ明後日から始まります。調子はいかがですか。
宮里 天気の心配もちょっとあるんですけど、そうですね、自分自身が楽しんでできればいいなあって思ってます。一日一日を丁寧に最後まで回る事ができれば。
分かりました。藍さんの目標とされている選手っていらっしゃいますか。
宮里 えーーっと、たくさんいるんですけど(笑)。引退したアニカ(ソレンスタム)には今でもあこがれは強いですね。ゴルフはもちろんずば抜けて強かったんですけど、人間的にもすごく尊敬できて、それでいて気さくな人なのでゴルフと人間性のバランスっていうか、そういうものが彼女は他の選手より頭一つ飛び抜けていたなって、今でも思いますね。
今度の出場メンバーで特に意識されている選手はいらっしゃいますか。
宮里 ライバルっていえば全員だと思いますね。ゴルフはやっぱり個人スポーツで自分との闘いっていうふうに基本的に私は思っているので、あえて言えば、試合に出ている選手全員になるんじゃないかなと思っています。
最後に読者にメッセージをお願いします。
宮里 えっと(笑)。最初こっちに来てすごく苦しい時期に試合を通じてお会いした日本の方に、助けてもらって、自分だけでなく世界中で日本の方が頑張っているんだなって思わされました。それはこっちに来て感じる事だったので、これからもアメリカにいる日本人の一人として頑張っていきたい、と思っています。その上で応援してくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいですね。
◎インタビューを終えて ゴルフには全く疎い僕のおかしな質問にもすべて丁寧に受け答えしてくれた藍ちゃん。お会いする前からとってもいい人と予想ができて、実際お会いしてもとってもいい人だった藍ちゃん。試合前々日にもかかわらず、嫌な顔一つせずずっと笑顔で対応してくれた藍ちゃん。最終ラウンドは強風と寒さのため、通算2アンダーで18位という思ったような結果を出せなかった藍ちゃん。お会いした後は今まで全くゴルフに興味のなかった僕がテレビにかじりついて観戦しました。藍ちゃん自身が尊敬するアニカ・ソレンスタムのことを「人として素晴らしいからゴルフもすごい」というならば、宮里藍はきっと一流のゴルフプレイヤーになる、藍ちゃんとお会いしたこの日、僕はそう確信しました。
宮里藍(みやざと あい)
職業:プロゴルファー
沖縄県出身。1985年生まれ。4歳からゴルフを始める。全国中学選手権、高校選手権を制し、日本ジュニアでも優勝するなどアマチュア時代から活躍。2004年プロへと転向し、本格的にレギュラーツアーに出場。初戦で、瞬く間に4勝を挙げて「藍ちゃん」旋風を巻き起こす。その勢いは止まらず、年間6勝をマーク。06年米国女子ツアーの出場資格を賭けた「ファイナルクオリファイ」にも出場し、2位に12打差の大差でトップ通過を果たす。米国女子ツアー初挑戦の06年、2年間のシード権を獲得した。公式サイト:www.ai-miyazato54.com
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2009年5月30日号掲載)