負けるのを恐いという気持ちより負けたくないという気持ち
「ガチ!」BOUT. 155
8月26日にニューヨークで開幕した全米オープン(USオープン)。世界中が注目するテニスの四大大会に日本の若きエース、世界ランキング12位の錦織圭選手も出場。惜しくも1回戦で敗れてしまったが、試合前日に試合への思いやプロとして戦う姿勢など、貴重なお話を語ってもらった。
(聞き手・高橋 克明)
USオープン開幕直前に直撃
いよいよ明日(8月26日)、USオープンが開催されます。当然、緊張もされていることかと思うのですが…。
錦織 そうですね。緊張もしてますけど…。同時にわくわくもしてます。(ニッコリ)
調子はいかがでしょう。
錦織 だいぶ上がってきてます。リターンもサーブも良くなってるので、今のところ不安になるところはないですね。あとは当日どう戦っていくか、本番でどう力が出せるかだけだと思います。
錦織選手にとってUSオープンはどういった位置付けの大会でしょうか。
錦織 (地元がアメリカ国内なので)移動時間もそんなにかかんないし、コートも、ボールも、雰囲気自体好きですね。グランドスラム(四大大会)の中では一番やりやすいかもしれないです。やってて楽しいところですね。割とここでは毎年いいプレーができているので、自分には合っていると思います。
ただ、時期的には非常に暑く、以前試合中に選手が熱中症で倒れるというアクシデントもありました。2週間の長丁場、スタミナ面での心配はありませんか。
錦織 グランドスラムになると、もう体力勝負だと思うんです。特に男子の場合は5セットですから。暑いのは苦手ではないですけど、もちろん好きではないですねー(笑)。でも、以前ここで5時間の試合も経験してるので(笑)。暑くて死にそうでしたけど、しっかり水分補給して…。はい、死なないようにはしたいです。(笑)
現在、日本人では最高ランキングの12位。世界で戦う時、それはプレッシャーになるでしょうか。それともプライドになりますか。
錦織 プレッシャーにはならないです。(12位というのは)まだまだ世界には強い選手がいるってことですから。日本人でナンバーワンっていうのは、あんまり意識してないですね。基準は“世界”なので。まだまだ未熟でしかない(順位)です。上がある限りは上を目指さなきゃいけないので。
1回戦の相手は英国のダニエル・エバンズ選手です。どういった印象をお持ちでしょう。
錦織 ランキングはそんなに高くないですけれど、この数カ月で戦績を伸ばしてきている選手なので、その勢いに負けないようにしたいと思います。
5歳のころからテニスを始めて、小学生の時点で全国大会優勝など、エリートとしてやってこられたと思うんです。でも、世界で戦うとなったら、常勝のままではいかない。世界の壁を感じた時、やめたいと思った時はありませんでしたか。負けることが怖くなるとか…。
錦織 負けるのが怖いっていうより、負けたくないっていう気持ちの方が強いですね。それを力に変えてきたんだと思うんです。毎試合、緊張もしますけれど、それは決して悪いことではないと思うし、その緊張も力に変えられるようになったら強いですよね。そのへんはしっかり頭を整理してやっていきたいとは思いますね。
錦織選手にとっての一番尊敬する選手は誰でしょう。
錦織 一番は(ロジャー・)フェデラーですね。子供のころから見ていて、(プレーが)楽しいなって思える選手だったので、そこが好きですね。他の選手にできないことが彼にはできちゃうんですよ。もちろん他にも何人も尊敬できる選手はたくさんいますけど、自分にとってのアイドルはフェデラー一人です。今、ランキング7位っていうのは信じられないですね。
今回のUSオープンの開催地でもあるニューヨークにはどういった印象をお持ちでしたか。
錦織 もちろん大好きです。来るのは毎年この(USオープンの)時期だけなんですけれど日本食もたくさんありますし、アジア系の方も大勢いらっしゃるので、日本人にはなじみやすくて、暮らしやすい場所だと思いますね。でも、まぁ忙しい街なので、やっぱり観光で来るのにとてもいい所だと思います。
ホームタウンであるフロリダの方がやっぱりお好きですか。(笑)
錦織 えーと、はっはは。そうですね。どっちも好きです(笑)。同じくらい。
夢を持って渡米してきた読者にメッセージをお願いします。
錦織 世界で日本の方が活躍するのは(日本にいる)日本の方にとっても力になると思いますし、(日本の)経済面でも変わってくると思うんですよ。なので僕は僕で自分のできることをしっかり頑張って、世間に影響を与えられたらいいなと思います。
錦織 圭(にしこり けい) 職業:プロテニスプレーヤー
1989年生まれ。島根県松江市出身。米フロリダ在住。父親の手ほどきで5歳からテニスを始める。11歳の時に全国小学生大会を含む〝全国3冠〟を達成し、13歳で米国のニック・ボロテリー・テニスアカデミーに留学。そこでも実力を認められ、17歳でプロ転向。18歳にしてツアー初優勝を成し遂げるなど、目覚ましい勢いで頭角を現した。2009年に肘のケガで1年もコートを離れるが、翌年に復帰を果たすと、11年終盤に大躍進。現在、世界ランキング12位(8月26日時点)公式サイト:keinishikori.com、facebook:www.facebook.com/keinishikori
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2013年9月7号掲載)