奥田瑛二

0

NYは目的を持ってこその街
次回来る時は監督で

「ガチ!」BOUT.57

「第8回ニューヨーク・アジア映画フェスティバル(NYAFF)」で、園子温監督最新作「ちゃんと伝える」がクロージング作品として上映され、 監督と、主演のAKIRA(EXILE)演じる史郎の父親役の奥田瑛二さんがニューヨークを訪れた。7月5日のワールドプレミア上映を前に作品への思い、 また初めて訪れたというニューヨークの印象などお話をうかがった。(聞き手・高橋克明)

 

NYAFFで「ちゃんと伝える」上演

今回は非常に複雑な役に挑まれました。

奥田 そうですね。元気な鬼コーチの父親から、病魔に侵された父親、そして亡くなってからの言ってみりゃ、物体と化した父親。この3つを演じなきゃいけないわけですからね。

はい。

奥田 でも幽霊なら別だけど、死体の役って演じようがないんですよ。言葉も発しないし、すべて受動態だから。4分何十秒の長回しのシーンも延々と寝ているわけですよね。

そうですね。

奥田 でもね、一つだけ決めていたことがあるんですよ。亡くなってから四十九日過ぎると仏になりますよね。でもそれまでは、まだ天に召されないで、お別れをするためにみんなを見つめている。だから、そこは息子や妻が語るセリフをちゃんと魂の耳で聞けばいいんだなあと思って。演技している自分の心を鎮めて、魂の耳で聞く事に徹していました。

この映画にかかわった事で何かご自身の中に変化はありましたか。

奥田 ありましたねえ。(題名でもある)ちゃんと伝えるということの意味が、恥ずかしながらこの年になって進化したというかね。今までは常套句(じょうとうく)であり、普段から軽々しく苦言として使ってきたけど、おい、おい、ちゃんと伝えとけよってね。でも実はもっと手前の心の中にあるんだなってね。人に強制するもんでもなく、自分がちゃんと伝えないといけないな、と。それは優しさじゃないですか。ちゃんと伝えるっていう言葉の意味が僕の中でボーン、ボーン、ボーン、って3ランクくらい上がりましたね。

この映画を通じて、観客には何を感じ取ってほしいでしょうか。

奥田 う〜ん、やっぱり愛でしょうね。抽象的な答えになっちゃうけど、伝える事の愛。自分の気持ちがちゃんと伝わるかどうか。日本人特有の阿吽(あうん)の呼吸ってあるじゃない。言わずもがなっていう…。

はい。

奥田 でもそうじゃないんだなって。最近、会話のない親子が多かったり、ややもすると、断絶までしたり。もう1回、家族みんなで食卓を囲んできちっと伝え合うことで、人と人のコミュニケーション、それ自体が優しくなれるんじゃないかなと思いますよね。それは言ってみれば子供をちゃんとしかれているかどうか。「何言ってもダメだぁ」みたいに、あきらめかけている時に、こういう映画で「ちゃんと伝える」という事を、もう1回、表現するのは意味があるんだなぁって思いましたね。

なるほど。奥田さんは監督としての評価も今や世界的ですが(※)、俳優と監督とどちらがご自身の中で比重が大きいですか。

奥田 前はね、ちょっと本音を言い過ぎて、監督の方が100倍楽しいって言ったら結構バッシングを受けてね(笑)。俳優の仕事が激減しちゃった事があって。でも監督業をやって俳優としてもまた新しい面が出てきたというか、両方のバランスが取れてきた今は自分でもいいなあと思いますけどね。

今回の映画の主演はEXILEのAKIRAさんですが、俳優の第一線で何十年もなさってきた奥田さんから見て、本業が役者ではない彼の演技はいかがだったでしょう。本音の部分で聞きたいのですが。

奥田 うん、これはね、久々に主演俳優になれる候補者が現れたなと思いましたね。

あー、そうなんですか。

奥田 彼もいつまでもずっとダンスを踊っているわけにはいかないので、将来、俳優一本でやっていくつもりなら、そっちの方にも目線を置いてやったらいいんじゃないか、ってことだけは撮影が終わってから本人にも言ったんですけどね。まあ、言わずもがな、いい才能を持った子だし。撮影中は彼の演技をすべて受け止めて、投げ返してやれたのかなとは思いますけどね。

いよいよ明後日、ここニューヨークでワールドプレミアですが、今のお気持ちはいかがでしょう。

奥田 今の気持ちっていうよりもね、初めてニューヨークに来て、しかも昨夜到着したばかりなんで、そっちの事の方が興奮してるというか、うれしいというか。(笑)

えっ、初めてなんですか。奥田さんのイメージは、お仕事でもプライベートでも、もう何度もいらしていたんだと勝手に思っていました。

奥田 らしいですよね。よく言われます。僕はまあ、ロンドンにしてもパリにしても、もう数えきれないくらい行っているんですけど、ニューヨークだけは、今さら恥ずかしいですけど、初めてでねぇ。自分でも不思議に思うんですよ。ずーーーっともう20年くらい前からニューヨーク、ニューヨーク、ニューヨークって叫び続けてたのに、来る機会がなかったっていうのは、これはきっと神のおぼしめしというかね「おまえね、若い時にニューヨーク行くとジャンキーになって、日本に帰れず死ぬから、

ダハハハハハ。

奥田 もうちょっと、人格形成されてからニューヨーク行った方がいいよ」って言われてるのかなってね。(笑)

なるほど。

奥田 だって、昨夜着いた途端、おおぉ、いいなぁ、やっぱりこれだぜ。みたいになってさ(笑)。どっかアパートないかなーってすぐに思っちゃったくらいだよ。

到着されて、まだ時間も経ってないですよね。

奥田 もう、着いてすぐにビレッジの方にお酒を飲みに行ったから。

(笑)。それだけで、もう肌に合ってる街だと分かっちゃいましたか。

奥田 何かね、おのぼりさんみたいにキョロキョロして写真ばっかり撮ってましたけど(笑)。行くとこ、いっぱいありますよ! ヤンキース(の試合を)見に行くでしょ。

◎インタビューを終えて アウトロー的なイメージが強く、非常に気難しい方なのかなと勝手に想像していたところ連載史上、最も気さくな方でした。笑顔がほとんどを占める取材の中、映画の話になると真剣なまなざしになり、何より男の色気が自然と漂ってきました。ヤンキーススタジアムのホットドッグを勧めたところ、「よし! それにビールだな!」と肩を叩いてくれた、そのときの無邪気な笑顔が印象的でした。

 

「ちゃんと伝える」の一場面。(左から)AKIRA、奥田瑛二(©2009 “Be Sure to Share” Film Partners)

「ちゃんと伝える」の一場面。(左から)AKIRA、奥田瑛二(©2009 “Be Sure to Share” Film Partners)

 

奥田瑛二 職業:俳優

愛知県春日井市出身。1979年にっかつ「もっとしなやかに もっとしたたかに」(藤田敏八監督)で主役に抜てきされ、頭角を表す。86年「海と毒薬」(熊井啓監督)で毎日映画コンクール男優主演賞受賞。94年「棒の哀しみ」(神代辰己監督)では、キネマ旬報、ブルーリボン賞など9つの主演男優賞を受賞する。2001年、映画「少女」を初監督。ベネチア映画祭ほか、多くの映画祭から招待を受け、第17回パリ映画祭、第16回AFI映画祭でグランプリを受賞。2作目の「るにん」は、東京国際映画祭コンペティション部門公式出品した。また、画家としても絵画個展や絵本などで活躍中。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2009年7月11日号掲載)

Share.