芝居も書道も一期一会
演劇の神様からの贈り物
「ガチ!」BOUT.42
ニューヨークの日本クラブギャラリーで12月16日から5日間、米国初の個展を行う女優の佐久間良子さん。書家としての今までの活動や、今回個展を開催するに至った経緯などを伺った。(聞き手・高橋克明)
初の海外書道展をNYで開催
書道は独学で始められたとの事ですが。
佐久間 ええ、そうですね。小さいころより学校から帰ると、もう新聞紙が真っ黒になるまで書いていました。「書を書く」というより、ただ楽しんでやっていただけなのですけれど。そこから書の先生についた事はなかったですね。
本格的にやり始めたきっかけはなんだったんでしょうか。
佐久間 この世界に入りまして、お世話になった方々にお礼状を書きますでしょう。それをたまたま書家の先生がご覧になって、あなた今年の日展にお出ししなさい、みたいな事をおっしゃっていただいたんです。日展なんて書道家の最高峰といわれているところですから最初は、私なんかとてもじゃないですけどできないなぁと思っていたんです。でもまぁ、心を決めてやってみようと。
そこで入選なさいました。
佐久間 はい。その時は800枚は書きましたから。
800枚ですか!
佐久間 はい、800枚(笑)。その中から1枚選んで出したんですけれど、日展なんてところは本当の書家の偉い先生がお出しになっても(入選するのは)難関なんですね。それがたまたま通って(入選して)その時にいらした審査員の先生、手島右郷さんが「あなたの書には音楽的であり絵画的でもあり、そういった要素が詰まってる」と言ってくださいました。
書道の品評に音楽的であり、絵画的である、と。
佐久間 はい。(そこには)書のうまさだけでは、もちろん上手な方はたくさんいらっしゃいましたから。そういった方々の中でのそのお言葉は非常にうれしかったですね。
具体的な活動内容を教えてください。
佐久間 いえいえ、私(の本業は)は女優ですから、本当に時間がある時に先生の元に伺って書くくらいでしたから。それに私の作品はすべて(サイズが)大きいんですね。本当に畳一畳敷きとか。ですからすごいエネルギーがいるし、(落ち着いた)時間も必要になってきますのでね。その時間ができたのも、ここ5年くらいからですね。
それらの作品に要する時間はだいたいひとつにつき、どれくらいなんでしょうか。
佐久間 あのねぇ、本当にその時によって違うんです。もう、朝起きてすぐにできるときもありますし。何度も何度も(紙を)破ってもできないときもありますし。時間がある時は1週間ほど山にこもって書くときもあるんです。富山県に隣接した白川郷で山のわき水をくんできて、その水で2、3時間かけて墨をすってね。
水道水とは違うわけですね。
佐久間 (笑)。全然違いますね。乾きが違うんです。山の新鮮な空気と水は作品の仕上がりを全然違うものにしますね。
女優業と書道、共通点はありますか。
佐久間 例えば私たちは舞台をしますでしょ。1カ月興行なら1カ月間毎日芝居をします。でも全く同じ芝居は毎日できないんですね。というのは、やはり芝居というのは、お相手もあることですし、その日の体調も左右します。同じ芝居が二度とできないのと同じように、やはり書道も同じ作品は二度とできないんです。その場の息、空気により仕上がりも違ってくる。つまり両方とも一期一会なんですね。
なるほど。お互いがいいように作用する事も…。
佐久間 ありますね。その時に必要な集中力は私にとって刺激でもあるんです。その刺激が私は大好きなんですね。
日本での個展とこちらとで気持ちの上で何か違いはありますか。
佐久間 違いはないと思っています。ただ、こちらニューヨークは芸術家の集まりの街ですから、少しの不安はあるかもしれないですね。
今回の個展の見どころをお願いします。
佐久間 従来の作品だけでなく今回は中国4000年の昔に作られた文字、金文字を用いた作品もございます。つまり文字の原型ですよね。例えばお魚っていう字はお魚の形からきていますよね。それは一見、絵的でもあると思うんです。そういった要素も含み、バラエティーに富んでいると思います。あとは和紙作家の堀木エリ子さんとのコラボレーションで…。ちょっと口で説明するのは難しいですね。やはり直接見に来ていただくのがよろしいかと思いますね。(笑)
最後に。佐久間さんのその若さの秘けつは何でしょうか。
佐久間 (笑)。ちっとも若くないんですけど、でもやっぱり何かいろいろチャレンジする事じゃないでしょうか。挑戦そのものが元気の素になると思いますね。
◎インタビューを終えて 実物の佐久間さんはスクリーン越しと同様とても綺麗な方でした。大女優でありながら書道においても「毎日書道展」毎日賞受賞、「北陸書道院展」院展大賞受賞と数々の輝かしい受賞歴をお持ちです。その才色兼備に最初は圧倒されかけましたが、プライベートにお話をふると、「すごくメトロポリタン美術館楽しみにしてたんですね、昨日すごくワクワクして行ったんですね…。お休みで閉まっておりました」 笑っていいのか、笑っちゃまずいのか、とてもかわいい一面もお持ちの方でした。
佐久間良子(さくま よしこ)
職業:女優・書家
1957年東映にスカウトされ、第4期ニューフェースとして入社。映画「白い壁」でデビュー。代表作である「五番町夕霧楼」で女優として開花以来、東映の看板女優として数多くの作品に出演。テレビ・舞台へと進出し各方面でも活躍、日本を代表する大女優としての地位を確立する。書家としては、75年「夢」で日展入選。故手島右郷氏に師事、仕事の合間を見つけて作品作りに没頭する。
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2008年12月6日号掲載)