佐藤浩市「(コロナがあって)カメラの前で演じることの幸せに、気付かされた」/渡辺謙「僕たちは未来に対して、できることがあるんじゃないか」

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BOUT. 298
俳優 佐藤浩市と渡辺謙に聞く

NY映画祭で「CUT ABOVE」賞受賞

ニューヨークのジャパン・ソサエティーが主催する日本映画祭第14回「ジャパン・カッツ」で『Fukushima 50』(日本公開:3月6日)が上映され、日本映画界に貢献をしている監督や俳優の功績をたたえる「CUT ABOVE(カット・アバブ)」賞が、同作に出演する佐藤浩市さんと渡辺謙さんに贈られた。同作は全世界73の国と地域での上映が決定している。ニューヨーカーとのライブQ&Aに参加した直後のお二人にオンラインでお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

佐藤浩市と渡辺謙

この度、「CUT ABOVE(カット・アバブ)」賞受賞おめでとうございます。たった今、ニューヨーカーの観客とのQ&Aが終わりました。こちらの観客と日本とでは反応に違いがありましたでしょうか。

渡辺 いや、(作品自体)違和感なく受け止めてもらえたんだなと思いましたね。やっぱり人間ドラマって国を超えていくものだと改めて思ったし、僕たち(日本人が)感じているもの、その習慣や歴史、伝統というものを超えて伝えられるものが映画だと思っているので。しっかりと受け止めてもらえたんじゃないかなっていうふうに思ってます。

佐藤 僕は逆にニューヨークの方々にどう見えたのかが気になりますね。日本人にとっての、桜を見る、という感覚や(劇中、登場人物たちが)トイレでたばこを吸い合って、語り合う(シーン)…あれって、要は“盃(さかずき)”だよね、僕たちにとって。そのあたりの感覚をどう見てくださったのか、聞きたかったくらいですね。

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

そして世界73の国と地域での上映も決定しました。世界の人にこの作品を通じて伝えたいことは、言葉にすると何でしょう。

佐藤 やっぱり、最後(のシーンで)どうして爆発しなかったのかっていうのは誰も分からない。で、それによって、これからの自分たちの未来に何が必要で、何が必要じゃないか、そういったことを含めて、みんながこの映画を見て、これからいろいろと話し合えると思うんですよ。また、そうなってほしいなって思うんですよね。

渡辺 今、こんなことを言うと、ちょっと口幅ったいんですけど、僕は「いい映画」だと思っているんですね。で、いい映画って「この作品のテーマは何々です」とわざわざ説明しなくても、ちゃんと受け止めてもらえるものだと思うんですよ。それが全てスクリーンの中にあると思うんです。(テーマが)家族であったり、友情であったり、ひょっとしたら故郷かもしれない。そういったものに対する思いが、観るだけで伝わる作品になっていると思うんです。その上で今、佐藤君が言ったように、これから僕たちはどうやって生きていくべきなのか、それを考える一つのきっかけになってほしいなって思います。あの震災があった後に、僕たちは本当はもっと、これからの未来に関して話し合ったり考えたりする必要があったんじゃないかって思うんです。時間がたってしまうとおざなりになって、また元の生活に戻ってしまう。そういったことに対する、ちょっと啓示みたいなものも(この作品には)あるんじゃないかなって気はしますね。

今、おっしゃられたように、非常に重いテーマを背負う作品なわけですが、出演オファーがあった際、最初に感じられたことを教えてください。

佐藤 (福島第一原発について)あまりに知らないこと、というか知らされていないこと、というのが僕も含め、(世間一般に)多過ぎた。こんな大きな事象があったのに、どうして僕らはこんなに知らなさ過ぎたんだろう。それはわれわれの情報の取捨の問題なのか、それともメディアの発信の問題なのか、それは分からない。でも僕は、その知らないことそれを認識するということをしたいと思ったんですね。そして、われわれがそう思うように客もそうである、と。それが(オファーを承諾した)一理、だと思います。

渡辺 あのー、僕、日本映画の弱点って三つあると思うんですよ。実際にあった出来事を映画化する、あとスポーツ(の話)を映画化、そして音楽を映画化。この三つが非常に不得手だなってつくづく思ってたんですね。そのあたりは、ハリウッドはやっぱり素晴らしいスポーツものだったり音楽ものだったり、本当に実際にあった政治の話だったり…。得意ですよね。それらの作品を観た時に、いっつも悔しい思いをしてたんですね。

ハリウッドは確かに、上手過ぎます…。

渡辺 でも、この作品に関してはとても出色の出来になるって思ったんですね。実際にあった話を、もちろんフィクションの要素も入れて、その中で情報として非常に大事なものを伝えていける。同時にドラマとして、人々の胸を打つことも両立した映画になると僕は思ったんですね。ある方にとっては非常にリスクの高い映画ではないか、というふうにおっしゃる方もいるんですけど、僕は全くそうは思わなくて。やっぱこういうことをキチンと俎上(そじょう)に上げて、映画っていうエンターテインメントになると確信してましたね。

それに加えて、日本映画ではあまりに大規模な作品にもなりました。

渡辺 でも、撮影それ自体は、ハードルは高くはなかったですね。まあ、本人を前にして言うのもなんなんですけど、そこにはやっぱり佐藤浩市っていう素晴らしい俳優がいるっていうことが、やっぱりそのハードルをもっと下げさせてくれたっていうか。(本人に向かって)まぁ、照れないで、照れないで。(笑)

佐藤 (笑)

佐藤さんにとっては、渡辺謙という役者はどういった存在でしょう。すでに何度か共演されていらっしゃいますけれど。

佐藤 それは大きいですよ。渡辺謙がそこにいてくれるっていうことだけでね。監督が、よく言うんだよね。役者は“武器”だと。何かを伝える際の大きな武器になる。そういう意味でいると、やはり、んー…攻守なんだよね。渡辺謙という大きな盾はときには、大きな剣にもなり…。なので、逆にお互いの絡みのシーンが少なくても、そちら側でやってくれるということに対して信頼を置けるという。

なるほど。

佐藤 なんか、そんなふうな関係でありたいし、僕自身もそうありたいし。そういうことが、やはり、何十かな?お互い40年やってるわけだから、そこは変わりなくありたいなと思います。

何か……相思相愛ですね。

渡辺・ 佐藤 いやいや。(笑)

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

今回は新型コロナの影響で舞台あいさつは延期になりました。この自粛期間、お二人のキャリアの中でも、今までなかった空白だったと思うのですが、この間に映画人として考えたこともあったのではないかと思うのですが。アフターコロナで、ご自身の俳優としての生き方に何か変化は出てくるでしょうか。

佐藤 もう、当たり前のことを当たり前と思わない。自分が撮影現場に行って、メークをして着替えて、で、カメラの前に立つ。それを当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないんだよね。3カ月ぶりに日本が少しだけ回復して、その中で、仕事場に行って撮影を再開させてもらった時に、やっぱりカメラの前に立てるということが自分にとってどれくらいのことなのか。で、自分が何者なのか、それを改めて考えさせてもらえた。僕らはもう60(歳)で、この年で、そんな当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないんだなってこと、自分が何者なのかをそれを改めて考えさせられました。

渡辺 僕はもともと、そんなに多作ではないんですよ。仕事は嫌いじゃないんですよ(笑)。嫌いじゃないんですけど、次の仕事まで2カ月や3カ月空くことは、ここ何年か珍しくなかったんですけれども、でもその間にたとえば前作のプロモーションがあったりとか、次にやる作品の準備だとか、単純に全部空白な時間ってことではないんですよね。でも、今回の場合はほんっとに全く白紙の状態で、3カ月。しかもそれがどこで終わるかどうかも分からないようなメンタリティーの中で、時間を過ごさなければいけなかったので…というか、いまだにまだ、その心のよりどころみたいのを、どこに持っていくのか、そんなに定かではないんですね。

確かに、まだコロナ禍は終わっていないですし。

渡辺 例えばどこか大きな災害がありましたっていうと、そこにいなかった僕たちは何ができるだろう、何をサポートできるだろうって考えられるんだけど、今回の場合は本当に全世界、みんなに均等に緊張みたいのがきているので。僕は個人として、さてこれからどうやって生きていこう、これからどうやって社会と関わっていこう、と考え続ける3カ月でしたね。おそらくいまだにまだ、考え続けていると思います。その中でも、次のお話をいただいてはいるので、その準備を…あまりこう、エンジンの回転数を上げずに、ゆっくりと始めてはいるんですけど。

でも、安心します。世界のKEN WATANABEも、今回のコロナへの不安感は一緒なんだと…。

渡辺 いや、全然同じですよ(笑)。それはもう全く変わらないと思いますね。

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の一場面(Fukushima 50 © 2020 “FUKUSHIMA 50”Production Committee)

渡辺さんはアメリカにも住まわれたり、ニューヨークにも何度も来られている印象があるのですが、佐藤さんはいかがでしょうか。ニューヨークという街にはどんなイメージをお持ちでしょうか。

佐藤 僕はね、若い時はよく行ったんだけど……基本的に、すみません。海外旅行は好きじゃないんです(笑)。飛行機に長時間乗るというのが、得意な方じゃないんです。

渡辺 俺もそんな得意じゃないよ(笑)。行かなきゃいけないから行ってるだけで。

でも、それこそ、もしコロナがなければ、今回の受賞でニューヨークに来ていただけていたのではないかと……。なので、次回、また機会がありましたら、ぜひ…。

佐藤 もちろんです!(笑)

今回の作品で描かれているブラックアウト(全域停電)は、ニューヨークにも2003年にありました。そして、同時多発テロ、ハリケーン「サンディ」、今回は世界最大級のクラスターと、この街も日本同様数年おきに人災、天災に見舞われてきました。ニューヨークに住む日本人に最後にメッセージをいただけますでしょうか。

渡辺 これだけグローバルな世の中になっていって、自分がどこに住むべきか、どこの社会の中にいるべきかっていうのは、全くパーソナルな話になってきてると思うんですよ。日本人だから日本に住まなければならないってことはないし、ただ、やっぱり日本に家族を残して、もしくは逆に日本のご家族からニューヨークに住まわれている皆さんのことを心配されることは日常的になると思うんです。特に今回は、異国にいてボーダーがシャットダウンされてしまうその心配の度合いは、通常とは違う時間を過ごされたんだろうなと思うんです。僕も、ロスにいる友人やニューヨークにいる友人が、どんな生活をしているのかって心配もしましたんで。それはやっぱり、こういう今までにないくらいの規模での世界的な厄災っていうのは、本当にいろいろと考えさせられましたね。

佐藤 コロナだけじゃなくて、いろんな事象が起こって住みづらく感じることもいっぱいあるでしょうし、でも本当にこれから先、地球で生きていく上で、人種間の問題も含めて人間が解決しなきゃいけない問題が多々ある中で、負けないでというのは簡単過ぎるけれど、でもそこで踏ん張ってやっていただきたいなと、そう思います。

 

佐藤浩市(さとう・こういち) 職業:俳優
映画初出演の『青春の門』(81)で第5回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『忠臣蔵外伝四谷会談』(94)、『64 ‒ロクヨン- 前編』(16)では、同賞最優秀主演男優賞、『ホワイトアウト』(00)、『壬生義士伝』(03)で最優秀助演男優賞を受賞。『日本海大海戦 海ゆかば』『魚影の群れ』(83)、『THE 有頂天ホテル』(06)、『ザ・マジックアワー』(08)、『最後の忠臣蔵』(10)、『あなたへ』『のぼうの城』(12)、『起終点駅 ターミナル』(15)でも同賞優秀賞を受賞している。近年の作品として、『愛を積むひと』(15)、『花戦さ』(17)、『北の桜守』(18)、『友罪』(18)、『空母いぶき』『ザ・ファブル』『記憶にございません』『楽園』(19)など。

渡辺 謙(わたなべ・けん) 職業:俳優
ハリウッドデビュー作となった『ラスト サムライ』(03)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。以来、『SAYURI』(05)、『バットマン ビギンズ』(05)、『硫黄島からの手紙』(06)、『インセプション』(10)、『GODZILLA ゴジラ』(14)、『ゴジラ キング・オブ・モンスター』(19)などハリウッドの話題作に出演を果たす。映画デビュー作は『瀬戸内少年野球団』(84)。『明日の記憶』(06)、『沈まぬ太陽』(09)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、『絆 -きずな-』(98)、『千年の恋 ひかる源氏物語』(01)、『陽はまた昇る』(02)で同賞優秀助演男優賞を受賞。その他の代表作は『タンポポ』(85)、『海と毒薬』(86)、『北の零年』(05)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(12)、『許されざる者』(13)、『怒り』(16)など。

 

●作品紹介●
『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』

2011年3月11日、東日本大地震による福島第一原子力発電所事故を描いた作品。福島第一原子力発電所の現場作業員は、原発内に残り原子炉の制御に奔走するが、事態は悪化の一途をたどる。官邸が試算した被害範囲は、最悪の場合、東日本の壊滅を意味していた。外部と遮断され何の情報もない中、作戦は始まる。命を懸けて原発内で戦い続けた50人の作業員たちの知られざる物語。本当は何が起きたのか? 何が真実か? 家族を、そしてふるさとを思う人々の知られざるドラマが、ついに明らかになる。私たちは、決して風化させない──。
2020年/122分/監督:若松節朗 出演:佐藤浩市 渡辺謙 吉岡秀隆ら
【ウェブ】www.fukushima50.jp/

(2020年8月8日号掲載)

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

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