三木聡

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現代が抱えている問題は世界中そう変わらない

「ガチ!」BOUT. 164

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アイドルグループ「KAT―TUN」の亀梨和也と、ドラマ「時効警察」などで知られる三木聡監督がタッグを組んだ映画「俺俺(英題:It’s me, It’s me)」が昨年、イタリアのウディネ・ファー・イースト映画祭で「観客賞」を受賞した。同賞を受けたことから海外の評価が上昇し、劇場公開とDVD発売、VOD(ビデオ・オン・デマンド)配信を含めた33カ国での配給が決定した。昨年11月、ニューヨークでの公開に合わせ来米した三木聡監督にお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

 

映画「俺俺」、33カ国で配給

カナダ、イタリア、台湾、シンガポール、ロシアと公開されていきました。世界中で上映が決定した時のお気持ちはいかがでしたか。

三木 お客さんに観てもらえるチャンスが広がるっていうのは監督として非常にうれしいです。映画ってやっぱり観客がいて初めて成立するメディアなわけで、そのお客さんが多岐にわたってくれた方が、作り手としてもうれしいですよね。

それぞれの国で、やはり上映中の反応に違いはあるわけですね。

三木 そうは言っても、日本の時とそんなに大きな違いがあるわけではないんですよ。ただ日本だと(あの)亀梨君が演じている、というそれに対してのフィルターがかかる感じはあるかな。海外のお客さんはフラットに見るじゃないですか。そういう面白さはありますね。

日本だと誰が主役をしているかでお客さんの層も変わりますが、海外においては作品自体を観てくれる傾向があるというか…。

三木 でもね、モントリオールやイタリアでは、やっぱりジャニーズってすごい人気なのか、観客の女子の半分以上はそういう(亀梨君目当て)お客さんだったんじゃないですかね。(笑)

面白いですね。

三木 面白いですよ。意外と日本文化ってそういう意味でも浸透してるんだなって。やっぱりアニメが先発隊みたいに先に(文化として)入ってるでしょうし、ある種のテレビドラマも好きな人は好きなわけで。届いてるんですよ。だから、実は受け止め方や笑いのツボって、僕たちが思ってるほど違わないんですよ。昔ほどギャップはないんだろうなって思いますね。

違いがないとすると、製作過程で、海外の人が観る可能性をやはり意識されますか。

三木 でも目の前でどういう面白いことがあるかっていうことから作っていくんで、それを気にしながら作るってことはないですけど(その段階で)海外のお客さんまで意識した広い視野が持てれば、もうちょっと世界的な監督になってるとは思うんですけど。(笑)

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日本では大きな事件として扱われている“オレオレ詐欺”が、この映画を通して海外の人にどう捉えられていくか興味深いですね。

三木 楽しみですよね。全然、分からないって人もいるだろうし、それはそれで一つの反応なわけですから。この映画の(描く)抱えている問題は現代の日本の問題そのものなわけで。人間なんて(世界中)そう変わらないんだって部分も言いたいわけだし。

主演の亀梨さんは33人の役を演じ分けられてました。

三木 身体能力が高いし、ある種の勘みたいなものがすごい鋭い人ですね。あの(33)役って演じ分けていくっていうよりも、役をスイッチしていくって感覚に近いんです。それこそがこの映画のテーマとも重なる部分ですよね。(加害者は)ネット上では別の名前で別の人間を演じるわけじゃないですか。ネット上の自分と本来の自分をスイッチしていく感じと、役をスイッチしていく感じが重なっていく感じですね。

確かに、そういわれてみると。

三木 亀梨君ってスポーツキャスターもやるし、歌手としてコンサートで何万人を前に歌うっていう人間なので、割とキャラクターをスイッチしていくってことは日常的にやってるんですよ。彼が舞台あいさつで面白いことを言っていて、「ジャニーズに入って15年くらい経つんだけど、そのうち純粋な“亀梨”だった時期はトータルで3年くらいしかないだろう」って。いわゆる本当の亀梨和也だった時間は3年に満たないんじゃないかって。だからこそ、あのキャラクターを演じられたんだと思うんです。

監督の作品はドラマも映画も独特の世界観がありますが、影響を受けた監督さんはいらっしゃいますか。

三木 コーエン兄弟ですね。彼らの映画は好きでした。あとポール・トーマス・アンダーソンとか何人か好きな監督はいるけれど、イギリスのコメディーのモンティ・パイソンとかも影響を受けたものの人たちだと思います。

不思議な世界を創造される方ばかりですね。(笑)

三木 そうです(笑)。変な世界が好きだってことだと思います。

最後に読者にメッセージをいただけますか。

三木 偉そうなこといえる立場じゃないんですが…。ただ監督として、役者さんと接した時に、一生懸命、主観的に思い込んでやる時期と、それを客観的に評価する時期が交互にある人は伸びるっていう印象はありますね。ニューヨークって街に夢を持って来て、一生懸命に何かに打ち込んだときに、それを冷静に自分で評価する時間をどうやって作るかってことがきっと大切なんだと思います。自分のやったことを振り返って整理するのにある程度時間が必要ですから。煮詰まったら、ちゃんと寝て脳が整理する時間を待ってやる。ステップアップってそういうことなんじゃないかと思いますね。

★作品紹介★
「俺俺」(It’s me, It’s me)
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亀梨和也が主演を務め、星野智幸の小説を三木聡監督がメガホンを取った異色作。日常に不満を持ちながらも平凡な生活を送る青年・永野均が、なりゆきでオレオレ詐欺をしたことから、自分の知らない「俺」が33人も増殖し、やがて「俺」同士が互いを削除しあうという異色サスペンス。家電量販店で働く均に奇妙な仕事の依頼をしてくるミステリアスなヒロイン・サヤカ役で内田有紀、均の上司・タジマ役で加瀬亮が共演。ふせえり、岩松了、松重豊、松尾スズキら三木組の常連俳優も顔をそろえる。​

三木聡(みき さとし)職業:映画監督
1961年神奈川県生まれ。80年代から「タモリ倶楽部」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「トリビアの泉」「夕やけニャンニャン」などのテレビ番組に放送作家として関わり、2000年までシティボーイズのライブの作・演出を手掛ける。05年「イン・ザ・プール」で長編映画デビューを果たす。監督作に「亀は意外と速く泳ぐ」「図鑑に載ってない虫」「インスタント沼」、テレビドラマ作品に「時効警察」「熱海の捜査官」など。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年2月1日号掲載)

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