【独占インタビュー】武田双雲

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武田双雲

BOUT. 324

書道家/現代アーティスト 武田双雲に聞く

NY訪問が人生の変わり目 言葉にならない大きな変化

ただただ生きる、どこにも向かわない

無心になって書くと、自然に美しい作品が生まれる

日本を代表する書道家として活躍する武田双雲さん。世界各国で書道のワークショップも開催する一方で、60作を超える著書を発表し、講演会も行うなど、多岐にわたって活動してきた。そんな双雲さんが、ソーシャルメディアを手放し、書道教室を辞め、コミュニティーと距離をとり、書道家として作品に向きあったことでたどりついた境地について、お話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

弊紙として2年ぶりのインタビュー、ご無沙汰しております。

双雲 (前回ニューヨークで)お会いした頃が、ちょうど人生の変わり目だった気がしますね。その直後に、いろいろなソーシャルメディアを手放したり、書道教室を辞めたり、コミュニティーといったん、距離をとってアーティストとして作品に向き合い、制作に集中していました。絞っていく時期だったのだと思います。そういった意味では取り巻く環境も、人間関係もだいぶ変わってきましたね。結果、言葉にならない大きな変化が感じられています。

手放して、焦点を絞っていく。今の日本人にとって一番大切なことかもしれませんね。

双雲 そうかもしれません。日本は、随分長く「閉塞感がある」と言われていますよね。長いというより、村社会文化な分、多分、何百年も何千年も変わってないのかもしれない。それが海外と比較した際、閉塞感って言葉が出てくるのかもしれないです。

確かに。

双雲 バブルの時、一時的にバグってしまった。その時の興奮状態を忘れられないだけで、もともと村社会文化だったと思うんですよ。インターネットなどで地球が狭くなった時代に入り、そこで本当の意味で国際社会を意識し始めたので、閉塞感がより際立っただけなんじゃないでしょうか。

実は、そう変わっていないのかもしれませんね。

双雲 良くも悪くもバブルで調子に乗って興奮してしまった。もともとの日本人気質はそう変わってないと思います。それに閉塞感というなら、日本だけじゃなく世界中が感じてるかとも思うんですよ。(インター)ネット(が日常化して)以降、比較が始まったわけですから。

世界中を見て、比べられるようになりました。

双雲 いろんな絵の具が混じると、今まで知らなかった色まで見えてきてしまう。今まで知らなかったこと、モノが交じるようになると、自由さと同時に不自由さも感じるようになったんじゃないかな、と。

ネットにより世界は広がったはずですが、逆に狭くなったとも言える、と。

双雲 そうですね。ITの普及と共に、世界中でまさに“塞”が広がっているような気がします。

今や小学生でも宿題のリポートをタイプ打ちで提出する時代、書道家の双雲さんとしては思うところがありますか。

双雲 デジタル時代になって人との関わりが一気に広がりました。良いことでもある反面、すごく、薄い。オンライン上の出会いは、常に自分がどう見られているのか、どうあるべきか…いわゆる承認欲求だったり自己顕示欲だったりに意識がとらわれがちになってしまうと思うんですよ。意識がどうしても外へ外へと向きがちになってしまう。僕がここ最近、デジタル断捨離したり、ネット断捨離をしたり、そして人間関係を断っていたのは、丁寧に日々を暮らしたいからでした。逆を言えば、僕自身が見えてなかった自分自身の野心や驕(おご)りなどに気づく余白を作りたかったんです。

なるほど。

双雲 一昔前では考えられないくらい、時代の変化のスピードも速くなりましたよね。人の心はもうショート動画にしか耐えられなくなっていっている。世界中に一瞬にして動画が送れる時代に、人が本を読まなくなった時代に、僕はあえて“遅れ”ていきたい。書道って、超アナログ。あえて墨を擦るとか、1本1本を丁寧に書いていくというのは、

真逆の世界観、価値観ですね。

双雲 そう。この変化のスピードと真逆に、一線の墨を擦って、一線の色を描いていく。そこに筆の柔らかさだったり、墨のにじみだったり、香りや、紙の質感を味わいながら丁寧に書いていく、文字をくみ上げて、書き上げていく。時代の真逆を行っています。(笑)

聞いているだけでぜいたくな時間だと分かります。

双雲 そうなんですよね。今でも書道で気付かされることは多いです。起業して20年経った時に、僕もどこかで意識がすごく外向きになっていたな、と。それでいったん、走るのをやめて、ただただ、ただただ、生きる、どこにも向かわない、をした際に気づくことは多いですね。説明するのは難しいけれど。

十分、伝わります。

双雲 どこにも向かわずに、今、ここに、1本1本の線を、一言一言を大切にする。例えば歯磨き一つとっても、身内とのコミュニケーションでも、着替えも、お風呂も、トイレも一つ一つを丁寧にやっていく。外への意識をやめていくと、まず自身の状態が変わります。

考えてみると、自分と向き合う時間が圧倒的に短い現代ですね…。

双雲 外ばかりに意識が行くと、内面に向き合ってるようで全く向き合えてなくて。やっぱり人間って周りのことがすごい気になるじゃないですか。社会は、自分がどうかを問われちゃうから、仕方ないのだけれど、それを僕は取りあえず「どうなりたいか」とか「どうありたいか」というアイデンティティーみたいのを、全部捨てたんですよね。そうしていくうち、私がどうかっていう、「私」がいらなくなってくる。どうでもよくなっていく。必要なくなっていく。そういう感覚にはなっていきます。

インプットやアウトプットすら、意図的にしていくモノではなくなる、と。

双雲 そう。今は、なにか、感動体験をしなきゃいけない! みたいな風潮がある。刺激的な体験とか、今までにない体験とか、旅行する、大自然に行く、すごい人に会う、とか…。それもやめて、もっと普通に毎日生きてるということを丁寧に一つずつやることに、シフトしたんですよね。インプットの意味自体を変えていった。SNS時代の今、本当に落ち着けないと思うんですよね。毎日を普通に生きることが難しくなってきている。常に、このままじゃダメだ! みたいなメッセージを受け取ってしまう。常に追い立てられ、何者かにならなきゃいけない、という自分の意図とは違う何かに突き動かされていく。

あまりにも自然に、不自然な生き方を強いられている気はしますね。

双雲 ただただ毎日を丁寧に生きるってことが本当に難しい時代ということですよね。エゴを強めなきゃいけないっていうメッセージが世の中にはあふれていて、そんな時代に僕には書道があって本当に良かったと思ってます。いろいろなモノを捨てて、1本をただ書くことに帰着する。シンプルだけど、シンプルなだけに難しいですよ。自分がいかに雑に生きていたか、いかにエゴが強まってたか…結構びっくりするわけですよ。丁寧に毎日を生きていなかったなぁと。

原点に帰ることで改めて気付かされたことが多々あったわけですね…。

双雲 僕なんてただのとっちらかった人間です(笑)。どっちかっていうと野心的で、目立ちたがり屋で、ミーハーで…。仕事や名声で誤魔化し続けていたのだと思います。でも書道があった。自分には書があって本当に良かったと思いますね。

1人で没頭できるものに没頭する時間が、今の日本人には必要ですね。

双雲 最初は孤独だと思います。自分の見たくない面をただただ見る作業はつらかったです。受け入れるまで結構時間かかりました。それに今まで刺激エネルギーで生きてきた分、エネルギーは一時的には落ちるんですよ。でも、それを超えていくと、新しい自分に出会えて、それ以上のエネルギーが生まれてきます。それが本当の自分だけのエネルギーな気がします。

今の話を聞いてドキッとする現代人は多いと思います。

双雲 今の日々は、今度の個展のための作品制作に没頭しているのですが、自分がピュアな時にはやっぱりいい作品ができるんですよ。驕りや強がりがある時は、やっぱり整っていない作品になってしまう。そこを無心になって、すっと良いエネルギーで書くと自然に納得できる美しい作品が生まれるんですね。

作品はモロに反映されるんですね。

双雲 分かりやすいくらいに(笑)。もちろん夢に向かって頑張ることも必要だけど、やっぱり純真さっていうんですかね、そういう何もなくて、一瞬一瞬をただ丁寧に生きるということが、僕の経験上、一番良いエネルギーになりますね。なにか、不思議なくらい、自分ではないくらいのエネルギー。

でも、それが本来の自分のエネルギーかもしれないです。

双雲 そうなんだと思います。良い風が吹き込んでいる時は本来の自分の姿になっている時だと思うので。ギラギラエネルギーで書いたとして、感動する人もいるかもしれないけれど、そこに意味あるのかなって思っちゃう自分もいるんですよ。ダークなエネルギーで成功したとして、それは本当の成功なのか、とか。エネルギッシュな生き方の裏にはどこか焦りや劣等感や弱さが見える。心はいつか耐えられなくなると思います。

本来の自分に戻る大切さが身に染みて分かりました。

双雲 いやぁ、僕もまだまだなんです(笑)。でもいったん、自分を否定してみるフェーズも必要なんだと思います。今、49歳なんですが、今まで痛みを感じながらも、痛み止めを飲みながら走ってきたところもあって、この年になってよりシンプルに生きること、本来の自分に戻ることが必要だったのだなと思っています。

 

 

武田双雲(たけだ・そううん)職業:書道家。現代アーティスト
1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」、スーパーコンピューター「京」など、数々の題字を手掛ける。2013年度文化庁から文化交流使に任命され、ベトナム・インドネシアにて書道ワークショップなど行い、17年にはワルシャワ大学で講演するなど、世界各国で活動する。ベストセラーの「ポジティブの教科書」(主婦の友社)をはじめ、著書は60作を超える。日本各地や海外でも個展を開催し、独自の創作活動を展開中。

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「ニューヨーク Biz!」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

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武田双雲展 愛~Compassion~

2024年8月9日(金)~19日(月)
(8月9日午後4時半終了・最終日午後6時終了)
伊勢丹新宿店本館6階 催物場
https://shorturl.at/pfAKZ

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2024年7月13日号掲載)

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