毎日が千秋楽…自分とお客さんのために一生に一度の演奏を
「ガチ!」BOUT.25
20代にして、世界最大のフェスティバル英「グラストンベリー・フェスティバル」に出演、ほか全米・中東・日本などの各国で活躍するジャズピアニスト上原ひろみさん。ブルーノートでの1週間公演初日直前、楽屋にお邪魔して直撃インタビューを行った。(聞き手・高橋克明)
4年連続 ブルーノート1週間公演
HIROMI’S SONICBLOOM @ Blue Note NYC
昨年のブルーノートで、初めてお話させていただきました。
上原 昨年の1月ですから、もう1年半たちますね。
その間はどのように活動されていたのですか?
上原 地球何週したんだろう。(笑)アフリカも行ったし、アジアも行ったし。本当に南半球、北半球行ったり来たり、呼ばれたところに次から次へって感じです。(活動範囲は)特に決まってないですよね、場所も、期限も。
今回は久しぶりのニューヨークなんですか?
上原 いや、久しぶりでもないですよ。2カ月ぶりですかね。今回はちょっとゆっくりできそうな感じです。
去年はご結婚されて、おめでとうございます。お相手は日本の方ですか?
上原 日本の方です。(笑)主には東京とニューヨークを行ったり来たりですが、ポルトガルでとか、パリでとか…。いろいろお互いまだ若いし、今は、こういう生活も人生経験として楽しんでいけたらって思ってます。
なるほど。結婚して何か心境の変化だったりとか…。
上原 あんまりないかな…。自分が女性であることとか、日本人であることとか、静岡で育ったこととかが、この音楽のここの部分に現れていますって切り取って言い表せないじゃないですか。全部をこう、込めて、混ざっていくものだと思うので、そんな感じですね。多分何か変わったのかもしれませんが、それも自然な流れで毎日を過ごしているような気がします。
今後の拠点は?
上原 そうですね、拠点という言葉が、自分でこの仕事をしていてわからなくなるんですよね。世界中、毎年パフォーマンスするところで、楽しみに待ってくれる方々がいるので。とにかく、ピアノのある場所、あとコンピューターとね。この2つがあればどこへでも行きます。(笑)
演奏されている姿をテレビで拝見していて、とてもダイナミックな演奏スタイルなので、実はお会いするまでかなり奇抜な方を想像していたんです。でも昨年はじめてお話した時に、すごくゆっくりとマイペースでお話されるので、そのギャップにびっくりしてしまったんです。ピアノの前に立つと、スイッチが入っちゃう感じがします。
上原 よく言われます。(笑)ステージ上の自分っていうのは、自分だけじゃないんですよね。ピアノと、自分とお客さん、っていうこの3つのエッセンスが合体して、本当に超合金ロボットみたいなカンジでね、ガシャン、ガシャン、ガシャン、て。一人じゃないんですよね。いろんなバックアップがあって、ピアノっていう相棒がいて、で演奏する自分がいて、そんな感じかな。
去年ステージを拝見して、すごくその感じが伝わってきました。どちらかというと、アップテンポの曲を演奏されることが多い印象を受けたのですが、リズムだったりメロディーだったりは、どういう風に作り出されているのですか?
上原 うーん、自分的には、なんか面白い音になるのはないかなって常に探していて。とにかく集中してアンテナを高く張っていると、やっぱり生まれてくるんですね。
今年5月にニューアルバム「ビヨンド・スタンダード」を発表されました。今までのアルバムとの違いとかってありますか?
上原 一番は、自分の書いた曲じゃない曲をモチーフにしたことです。人の曲をやるってことに対する責任をすごく感じましたね。やっぱり人の作ったものって、独特なものがありますので。作曲者に対して、私がこの観点で、この曲を聞いたんです、っていうことをきちんとプレゼンできるようなものをつくりたかったんですね。
今日(22日)からブルーノートでのライブが1週間始まりますが…。
上原 1週間、いつも今日が最後だと思ってやってるんです。やっぱり、ニューヨーカーの人だけじゃなく、あっちこっちからも来ていただいていますしね。今日来てくれたお客さんと出逢うっていうか、(だから出来る)このコンビネーションだったり、この雰囲気だったり…。いろんなコンビネーションがあって面白いですよね。本当に一期一会です。一生に一度だから、とにかく1本終わって、また明日に集中してって感じです。毎日が千秋楽って感じですよね。
今年4月には日本武道館でコンサートをされましたが、今回のブルーノートでのライブは規模も違えば、お客さんの層も違いますが…。
上原 そうですね、5000人の観客の前でやることもあるし、小さなクラブでやることもあるし、野外でやることもあります。場所によってそれぞれ雰囲気も違いますし、音楽(自体)も違う可能性があります。でも自分は、舞台の持つ可能性をいかに引き出してあげるかっていうのが、大切だと思って演奏するだけですね。
どこでパフォーマンスするということにかかわらず、その場その場の空気や雰囲気を楽しむというか…。
上原 (遮るように)だってお客さんも、1時間2時間という時間をさいてコンサートに来て頂いてますから。その時間をさいて良かったって思われるようなパフォーマンスをするのが最低条件ですね。私にとってのミニマムのゴールです。それから、プラス自分も満足するっていうのが理想なんです。ただ自分が毎日演奏して聞いてる音楽で感動するっていうのは、意外に難しいんですよね、自分を驚かすって。(笑)
最後になりましたが、ひろみさんにとってニューヨークは? 日本とは、違いますか?
上原 どこの場所も違いますけどね。日本には日本の良さがあって、ニューヨークにはニューヨークの良さがあって、面白さを探すのって自分次第だと思うんです。どこの街に行っても、やっぱり面白いことって自分で作っていけるから、面白いことがないっていうことがない。(笑)自分で作り出していけばいいだけですから。ニューヨークっていう街はいろんな人がいますし、音楽に関しては、数えきれないくらいのクラブがあるので、本当に。毎晩渡り歩いてたらいい音楽に出合えるっていう。そういった意味では、音楽に囲まれて生活できる環境が出来上がってる街。しかももの凄くハイレベルな音楽に。いろんな人に感化されますよ。
◎インタビューを終えて
ジャズ界の殿堂ブルーノートでの1週間公演。その初日の舞台前だというのに緊迫した雰囲気は一切なく、終始リラックスした様子で答えてくれました。ゆっくりと一言一言を確認するように丁寧に話してくれたその姿とライブ中の頭を振り上げ、時には立ち上がり鍵盤をたたく姿はまるで別人のようでした。ただその共通点を挙げるとするならば、その場その場を楽しむその笑顔とそして近くにいる人間を否応なく惹きつける彼女自身の持つ「とってつけてない」人間力かなと思いました。彼女の言うその〝一生に一度の演奏〟は「その場にいた感」がそっくりそのまま優越感になるほどの魅力的な夜を運んでくれました。
上原ひろみ(うえはら・ひろみ) 職業:ジャズピアニスト
1979年静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。99年ボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラーク・レーベルと契約。2003年にアルバム「Another Mind」で世界デビューし、欧米でのライブ活動をスタート。同年同院を首席で卒業。04年にアメリカの「サラウンド・ミュージック・アワード<ニュースター賞>」を受賞。05年に活動の拠点をボストンからNYに移す。07年にはプロジェクト「HIROMI’S SONICBLOOM」を結成し、アルバム「Time Control」を発売。ブルーノートでの一週間公演後、ハリウッドボールでの「PLAYBOY JAZZ FESTIVAL」出演が 予定されている。公式サイト:www.hiromiuehara.com
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2008年7月27日号掲載)