グローバルコミュニケーションのスキル修得で欠かせぬ会社に
2社の共通点はしっかりとした理念の下でのビジネス
「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などの通信教育で知られるベネッセコーポレーションは現在、教育のみならず出産育児、語学、生活、介護を含む幅広い事業を展開している。ベネッセの代表取締役副会長としてグループ会社経営を担当され、その連結子会社の1つであるベルリッツインターナショナルCEOを兼務されている福原賢一氏にお話を伺った。
―ベルリッツを経営するまでの道のりとは。
福原氏 ベルリッツは今年で創業130周年を迎えるアメリカの歴史あるランゲージセンターで、1993年に当時の福武書店(現ベネッセコーポレーション)が経営権を取得いたしました。日本 の岡山にある非上場会社が、NYSE上場企業を買収するという、アメリカ人にとっては戸惑うことも多い買収劇だったと思います。しかし、それでも受け入れら れた理由は、ベネッセの理念(「Benesse=一人ひとりのよく生きるを支援すること」)にあると思います。以前、長年ベルリッツで働いている幹部社員から、「お金儲けしか考えない“乗っ取り屋”にではなく、理念のあるオーナーがおり、企業理念がしっかりしたベネッセに買収されたことにとても安心した」という話を聞いたことがあります。ベルリッツもそもそも、しっかりとした理念があり、語学教育に関する独自の教授法を持つ会社でしたので、共感してもらうことができたのでしょう。
―特に2つの会社の共通した点とは。
もともとベネッセは、1995年社名変更前の福武書店時代から一貫して「進研ゼミ」という通信教育を中心に事業展開してまいりました。ベネッセの通信講座は、「子ども達の向上意欲を支援したい」という気持ちをベースに、お客様の声を繰り返し聞き、子どもの発達心理やアカデミックな裏付けを下に開発しているもので、現在生後6カ月から高校生まで391万人の会員数を誇っています。 (2007年4月時点)
一方ベルリッツは、創設者のマクシミリアン・D・ベルリッツ氏が「なかなか外国語習得が上達しない生徒に、どのように教授したら効果がでるのか」を検証した結果、それまでに存在したどんな語学教授法とも、また同時代のどの方法とも異なる新しい独自の方法として「ベルリッツ・メソッド(R)」を確立しました。これは、語学を身につけるプロセスをより簡単に促進させる方法で、学ぶ語学のみを使い、身近な体験をベースにリアルなコミュニケーション経験に重点を置いた学習指導法です。
ベネッセ、ベルリッツ共にしっかりとした理念の下でビジネスを行う点が特に共通していると思います。
―ベルリッツ買収後の成長は。
01年米国同時多発テロ事件の影響や、市場競争の激化などにより売上げが落ち込んでいましたが04年より従来の経営体制を一新した結果、業績は徐々に回復し非常に好調です。南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの3つのリージョンに分け、それぞれにCOOを置き各地域の特長を活かした経営方法に変えた結果、V字型回復を遂げることができました。
現在は世界70カ国、500を越 える拠点数まで成長いたしました。
―実際提供している授業内容とは。
ベルリッツには、政府機関や企業のお客様も多いので、単に語学だけ上達すればいいというのではなく、異なるカルチャーや習慣などを持つ地域や国に行った時のチームの作り方やコミュニケーションのあり方など、ビジネスの実践に役立つコミュニケーションスキルを伸ばしていけるような授業を行っております。
例えば、最近では世界のベルリッツをネットワークで結び、インターネットでレッスンが受けられるベルリッツ・バーチャル・クラスルーム(BVC)をスタートさせました。このレッスンでは教師の映像は出さず、音声とテキスト画像のみで進められていくため、教師の表情やジェスチャーに頼らないコミュニケーション力(リスニング力とスピーキング力)を鍛えることができます。BVCは特に日本人が一番苦手とするテレフォンカンファレンスの練習に最適だと思います。
母国語を一切使わない勉強法はストレスフルだったり、努力もそれなりに必要になってきますが、このようにリアルな状況を組み入れてうまくモチベーションを維持していく工夫を行っています。
―今後のベルリッツの展望は。
今後ベルリッツでは、単なる語学力のみならずグローバルに通用するコミュニケーションスキルの修得ができるようなプログラムをますます充実させていきたいと考えています。
また、中国、ブラジル、ロシアなどの地域にももっと進出していきたいですね。現在中国にも4校あり、ロシアにも約10年ぶりに今年スクールがリオープン予定です。
これからはますますクロスカルチャルな対策が求められていると思いますので、50カ国以上の言語を教えることができ、マイナーランゲージのプログラムを持っているという強みも生かしながら、グローバルコミュニケーションのスキルを学ぶ上で、なくてはならない会社になっていきたいですね。
※本取材は、08年3月に実施したものです。(インタビュー 吉田 仁)
ふくはら けんいち 昭和51年野村證券(株)入社。ロンドン勤務、海外プロジェクト室長、機関投資家営業部長などを歴任し、平成12年、取締役グローバルリサーチ担当金融研究所長、野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(株)代表取締役社長に就任。ベネッセコーポレーション現会長兼CEOの福武總一郎(ふくたけそういちろう)との出会いがきっかけとなり、平成16年(株)ベネッセコーポレーション入社。取締役兼執行役員専務(株)ベネッセスタイルケア代表取締役社長などを経て、平成19年4月より現職。趣味は音楽。京都大学時代には「文化放送の全国バンドコンテスト」で優勝するなどボーカル、ギターはプロ並みの腕前。座右の銘は「しなやかに、たくましく、さわやかに」。家族は妻と二人の娘。(2008年3月現在)
(「WEEKLY Biz」2008年4月4日号掲載)