
マンハッタン最大の観光地、タイムズスクエアで三重野文緒さんの身長を超えるサイズの大きな紙に「勇氣」の書を書いた=ニューヨーク、4月8日
タイムズスクエアで書けたことが一番うれしい
「Artexpo New York」に参加
大分県を拠点に国内外で活動する書道家の三重野文緒さん。8歳から書道の道に入り、社会人になってから、仕事関係の人に勧められ書道パフォーマンスをするようになった。小柄な身体からは想像できないくらいのダイナミックな書道パフォーマンスで近年では、シンガポール、パリ、米国など、海外でも活動の場を広げている。
今年4月、27カ国以上、200以上の革新的な国内外のギャラリー、美術出版社、アーティストがニューヨークに集結する「Artexpo New York」に参加するため、初めてニューヨークを訪れた三重野さん。パリのルーブル美術館展示場で開催されたアート展に参加した際、「すごく良かったから、こっち(ニューヨーク)に来て展示とパフォーマンスをやってもらえないか」と、ギャラリー関係者からアート・エキスポへの参加を打診された。初めてのニューヨークながらも、「こういうチャンスっていつ巡ってくるか分からない。今、行こう、とすぐ決めた」という。
ニューヨーク滞在中には、セントラルパーク、タイムズスクエア、ワシントンスクエアなど、有名箇所でのゲリラパフォーマスも決行。初めてのニューヨークで、何を見て、感じ、そして変化があったのか、お話を伺った。

にぎわう週末のワシントンスクエアでは、ニューヨーカーに書道体験してもらうセクションも行い、多くの人がその模様を見学した=ニューヨーク、4月13日
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Q ニューヨーク・マンハッタンの各地でいろいろパフォーマンスをやってみてどうでしたか。
三重野 日本でやるよりも「殻を破れた」という感じ。日本ではドキドキして変な目で見られたらどうしようという気持ちがあるんですけど、こっちではそういう気持ちもあまり感じずに、堂々とできましたね。
Q 当地ではストリートパフォーマンスする人も大勢いるので、やりやすかったのでは。
三重野 はい。ニューヨーカーは反応が良くて、気軽に話かけてきてくれて。日本でやる時は感動もしてくれるけど、大きい声を出したらいけないんじゃないかって。結構、上品に見てくださるので。
ニューヨーカーの歓声通じて自信に
Q ニューヨークでのパフォーマンスをして、受け入れられるなっていう感覚はありましたか。
三重野 受け入れられているという感覚もありますし、その場その場で受け入れられる形を模索していかなきゃいけない。突き通す部分と柔軟にいろいろ実験するっていうことが大切だと感じました。正直、ニューヨークに来て壁に当たった部分もあります。でも、さまざまな場所でパフォーマンスをする中で「こんなの初めて見た」「かっこいい」「美しい」などの感想やダイナミックな動きに対する歓声を通してニューヨーカーとの心の距離を縮められたことは自信になりました。
Q パフォーマーとして一番印象残っているのはどこですか。
三重野 やっぱりタイムズスクエアです。(パフォーマンスが)できないかもしれないという不安とか、ものすごく寒いし、風も強いので危ないし、場所を汚すもしれないリスクもある中で、やらない後悔か、安全を取るかとか、迷いながら、荷物を運んでいる時はすごく変な目で見られて。邪魔になっているし、「何? この人たち」みたいな目で見られていたけど…。でも、行っちゃったらもうやりたいというか。始まったら人も集まってきてくれて、声をかけてくれたり、写真とかも撮ってくれたりとかして。でも、たとえ誰も見ていなかったとしてもこの場所で書けたことが一番うれしいっていう気持ちを味わえたのは、自己満足だけど良かったです。
Q 結果とか人の目とか気になって躊躇することがあっても、曲が鳴って筆を持った時には自分はこれをやりたいんだってことになっているように見えますが、実際やっている時は緊張しないのですか。
三重野 緊張と冷静と、燃え上がっている心が混ざっているような状態です。
感じてもらったことを次の作品の材料に
Q ニューヨーカーに感じてほしかったものは何ですか。
三重野 自分が何かを伝えたいというよりも、作品によって違うんですけど、自由に感じてもらったことを聞きたくて。それをまた材料にして次の作品を創っているっていう感じです。
Q 今回ニューヨークの反応で、一番感じたことは何でしょう。
三重野 ここに来て「もっと頑張らなきゃいけない、考えなきゃいけない、勉強しなきゃいけない」という現実を見られたことが、一番良かったと感じました。
Q シンガポールやパリでもパフォーマンスの経験があるとのことですが、それぞれの違いはありましたか。
三重野 米国では結構、派手なもの、ダイナミックなものが受けやすくて。パリはシンプルだったり、シックなものが受けるイメージがあります。シンガポールは割と静かに見てくれて、真面目なイメージでした。
Q 具体的には今後どこの国でやりたいとかありますか。
三重野 そこに人がいれば、どこだっていいです。米国に行く時もフランスに行く時も、調べたりとかもするんですけど、大体行った時に想像以上のいろんなものがあるから。景色とか、人との関わりとか、写真とかで調べても分からないことを体験することが多いので。死なない所だったら、どこでも行きたいっていう感覚です。
Q 来てみて改めて思ったニューヨークの印象を教えてください。
三重野 ニューヨーカーは、一人一人が自分の人生を生きているっていう感じ。アジア人だったら、海外に行ったら差別されるとか言われたりして心配だったこともあったけれど、みんな優しくて。あと、日本だったら自分も人目を気にするし、結構、他人のことを見ている人が多いイメージも私にはあって。何かちょっと違うことしてたら、「うわー、見て見て」って悪い意味で見たり、笑ったり、写真を撮ったりとかする人もいるけれど。ニューヨークだったら興味なかったらもう見ないし、そういう意地悪な感じで言う場面を一度も見ていないです。いろいろな人がいるから、皆それぞれ自分のことを生きているっていう感じがします。

ブルックリンのジャパンヴィレッジで書道パフォーマンスをする三重野さん=ニューヨーク、4月12日
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(パフォーマンスの)漢字の意味も、何を書いているかも、ニューヨーカーには分からないかもしれない。それでも、さまざまな場所でパフォーマンスをする中で「意味だけではなく、その動きで感じとってくれる」これこそが表現の本質的なところなのかと、感じることが改めてできたように見えた。今回の来訪での経験は、さらに高みを目指すために、三重野さんにとって「多くの気づきを体感した、よい機会になった」ようだ。今後の活躍に注目したい。

Artexpo New York会場で、「魂」の書道パフォーマンス後、来場者に写真撮影される三重野さん=ピア36、ニューヨーク、4月10日
三重野文緒(みえの・ふみお) 「好きなことを極めながら生きる」を信条に書道作品の制作、ライブパフォーマンスを行う。
【ウェブ】www.fumio-shodo.com
【インスタグラム】www.instagram.com/oita_shodo_fumio
(2025年6月14日号掲載)
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