井上萬二氏・孫で陶芸家の井上祐希さん　「祖父の吸収する姿勢見習いたい」

祖父・井上萬二氏の作品の左横で撮影に応じる井上祐希さん＝３月14日、ニューヨーク

自分しかできないものを探し、近いうちに海外で個展を

チェルシーにあるOnishi Gallery（521 W 26th St）で開催中の「アジアウイーク・ニューヨーク」では14日から、白磁の人間国宝作家、井上萬二氏と画家、デイビット・スタンレー・ヒューイット氏の合同展が開催されている。
井上萬二氏は日本だけでなく、米国にもファンがおり、ニューヨークのウイスキーメーカーからはウイスキーボトルの製作も依頼されている。

ニューヨークのウイスキーメーカー製作依頼されたウイスキーボトル（左）の説明を聞く来場者＝３月14日、ニューヨーク

同日に開かれたレセプションには井上萬二氏の代わりに孫で陶芸家の井上祐希さんも日本から駆けつけた。
祐希さんは2012年から祖父の萬二氏に師事。数々の工芸展などに入選し、萬二氏の「井上萬二窯」で作品づくりに励んでいる。今回のレセプションでは、祐希さんのぐい飲みが宗政酒造から提供された日本酒の試飲で使われた。萬二氏は来られなかったが今も精力的に作品を作り続けており、ぐい飲みの一部も萬二氏の作品だ。

祖父や父の背中を見て育った祐希さん。萬二氏が海外個展で受けた影響を聞くと「作風が変わったことはないが、インスピレーションなどをどんどん吸収して作品に生かす姿勢が止まらない」と明かした。「祖父は海外に出るのが好きで、いろいろな所を見たり、人に会ったりしてインプットしている」。祐希さん自身も「日本だけだと、見てくれる人が限られてきてしまうので、祖父のようにいろいろな所で個展を開けるようになりたい」という。

３代続けて陶芸家の井上一家。祐希さんが陶芸家になろうとした動機は「祖父の影響というより、“使命”という感じ」と笑う。敷地内に窯のあり、職人らと生活する中で、幼い時から「陶芸家」を身近に感じており、周囲から「次は君の番だね」ということを言われていたという。

今回出展した萬二氏作品は「ニューヨークに出す限りは気合を入れて選りすぐりのものと、コロナ禍期間中に企画したニューヨークのウイスキーメーカーから依頼されたボトルもある。この作品で日本を感じてもらいたい」と紹介した。

祐希さんの今後の作風については「自分の“色”を含め、いろいろと試している段階。（祖父の）ろくろの技術をきちんと引き継ぎながら、自分のフィルターを通した自分しかできないものを探している」という。伝統との兼ね合いもそうだが、「作るものは自分よがりすぎてもいけないし、使う人に寄り添うという落とし所を常に考えている」と強調し、日常使いのものや身に着けるアクセサリーも制作していると紹介。萬二氏の作品も花瓶などは「使わない方がもったいない」と笑顔で助言してくれた。

祖父の萬二氏がいろいろな所を見て吸収する姿勢は見習うようにしていると語る祐希さん。作品に日本向け、海外向けがあるかについては「特に作り分けてない」と断言。「ニューヨークのために、ニューヨークらしくするのというではなく、“日本を持っていく”方が、絶対、こちらの方も良いと思うので」と言い、「（祖父は）海外だからという意識はあまりないのではないか」と推し測った。

ニューヨーカーに注目してもらいたいところとしては「日本の素材や伝統技術だったり、作品からも萬二本人の人となりを感じてもらえたらいいなと思っている」と呼び掛けた。

祐希さんの自身も海外で個展は「いつか近いうちに開きたい」と熱く語った。