マクロビオティック・レストラン(50)
ヨーコさんと二人で来たり親子三人で来るときもありましたが、ジョン一人で、ふらりと入ってくることも、よくありました。
ランチはひまだったので、表は私ひとりでウエイターとキャッシャーを兼任していました。店内ではクラシックや尺八をかけることが多いんですが、たまにそれ以外の分野のレコードをかけることもありました。
ジョンがひとりで入ってきたとき、ちょうどジョンのレコードをかけていました。――びっくりしました。悪いことをしているのを見つけられたような気持ちです。一方ジョンは、おそらくそういう場面に何百回と出くわしているはずなのに、おどろいたと、おおげさな仕草をして見せました。彼は大変、ユーモアのある人です。つまらない言葉はかけたくないので、何か気のきいた言葉をかけたい、とあれこれ考えたのですが、いい言葉が浮かんできません。彼は早くも、踊るようにしてテーブルについてしまいました。言うチャンスをなくしてしまったのです。
考えすぎないで、「びっくりしました」あるいは「すごい偶然ですね」とでも言えばよかったんです。そう言えば、「ぼくも、びっくりした。しかし、ぼくが来るのが、どうしてわかったんだい?」と笑って返していたでしょう。
香港から絵葉書をもらったこともあります。“We miss Souen”と書いてありました。最後に、「ヨーコの友達より」と書いてあったのが印象的でした。自分の名前を書いたら、盗まれるかもしれないと考えたからでしょう。
絵葉書はその後、オーストラリア人の私のガールフレンドが、シドニーに住むイギリス人の母親を喜ばせたいと送ってやったのですが、――のちに母親が亡くなったとき遺品の中になかったといいます。失くしてしまったようです。
(次回は6月第2週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。