〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(51)

人柄は大変いいのですが知らない客の前に同意も得ずに座ったり、知らない客の食べ残しを食べるなど、やや、ふつうとはちがった行動をする、若い、頭の弱い女性客がいました。週三、四回は来ていたので、いずれ、ジョン・レノンに出会うだろうが彼の前で、あまりヘンな行動はしないでほしいと願っていました。
とうとう出会いました。彼がひとりで食べているときに彼女が入ってきたのです。まずい! と思いましたが私にはどうすることもできません。案の定、彼を認めると、まるで招かれでもしたように、すっと彼のところに行き、紙のナプキンとペンを差しだしました。サインが欲しかったのです。
さすがですね。彼は動じません。ポケットからサインペンを取りだすと、さらさらとナプキンにサインしたのです。― ―笑顔さえ見せて。
ジョンのやさしさの裏に、ヨーコさんの存在があります。政府機関からの連絡事項など、めんどうなことはたいていヨーコさんに頼むので、ヨーコさんは、冷たい、態度が横柄だ、などとヨーコさんに対する世間の評判が落ちることもありましたが、そのぶん、ヨーコさんに対するジョンの信頼は絶大でした。
ジョン・レノンを私が最初に認識したのは七十六年です。アメリカ人ウエートレスが、
「ジョン・レノンが来ているわ」と教えてくれたのです。
「俳優?」
ジョン・レノンという名前を知りませんでした。
「ビートルズは?」
一人ひとりの名前を知らなくても、ビートルズは、もちろん知っていました
それからです。彼が輝くように見えはじめたのは。
(次回は6月第4週号掲載)

〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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