マクロビオティック・レストラン(53)
みんなが私のアパートに集まって今後の対策を協議しました。集まったのは、Hの妻の姉とその夫、私の公認会計士、それに私の四人です。Hの妻の姉はコネチカットで高校の教師をしています。夫は公認会計士です。Hの妻は病気のため参加できませんでした。姉夫婦は私から話を聞くと、いろいろとおどろくことが多かったようで、1、働けるビザを持っていない外国人は直ちに解雇する、2、現金で給料を払わない、などと私に要求しました。
働けるビザを持っていない外国人は三人です。(厳密にいえば私もそうです。申請中でも働けないのです。)三人はしかも、レストランの中枢を担う人たちです。三人をアメリカ人やグリーン・カードを持っている人たちに変えれば、2の、現金で給料を払わない、という問題も同時に解決でき、いちばん簡単なのですが、そう容易ではありません。なぜならアメリカの新聞や日系の新聞に広告を出しても、マクロビオティックに興味を持つアメリカ人のクックやグリーン・カードを持つ日本人のクックは、簡単には見つかりません。
新聞を見たといって来ることは来るのですが、(七十年代の)アメリカ人は、マクロビオティックのマの字も知らないし、ネギも切れないのです。日本人は、だいたい包丁が使えます。日本人が来たら、たいてい雇います。マクロビオティックはあとで教えればいいのです。
ほかにもいろいろ問題点を指摘されました。そのうちのひとつが、一セントも税金をごまかしてはならない、という指摘です。姉は当然のことを言ったまでですが、私はHに教えられたとおりに経営していただけですから、突然そう言われても困惑するだけです。
「刑務所に行きたくないでしょう? わたしたちだって、いやよ!」姉はおどすように私に言いました。
(次回は7月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。