マクロビオティック・レストラン(45)
警察に呼ばれて行きました。ひとりでは不安なのでヘザーを伴いました。私たちに渡された写真は約五十枚。それを二つの山に分け、順番に見てゆきました。
犯人の顔を見たといっても、わずか十分ていど。私の記憶にある犯人の不確かな顔は、写真を見ることによって、ばらばらになってしまうかもしれません。
危惧したとおりでした。最初の四、五枚で、こんがらがってしまったのです。
「これ、似ていると思わない?」
さすが、ヘザーです。私がギブアップしたあとも、ずっとさきを見つづけています。
「どう、それらしいのが見つかったかな?」
刑事が私たちのそばに来ました。
「似ていると思うのを選りだしてはみたんだけど、― ―でも自信ないわ」
じつは、ピストル強盗にもう一度入られています。ソーホーの店の話ですが、キャッシャーをしていた日本人女性の背後にピストルを突きつけ、レジスターから二百ドルくらいのお金を持って行ったのです。
だが不思議なことに、犯人の顔を見たものがだれもいないのです。キャッシャーでさえ、よく見ていないと言うのです。ピストルについても、「ピストルだと思ったんですけど」とあやふやな返事。
腑に落ちない事件でしたが、それ以上は追及しませんでした。
(次回は3月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。