マクロビオティック(3)
私が「そうえん」で働き始めた1970年代はじめは、マクロビオティックを知っているアメリカ人はきわめて少数でした(大きな辞書には出ていました。“Big Life, Long Life”などと。さすがです)。
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後に店の常連になった人に、「宗教的な臭いがして、はじめはなかなか入れなかった」と言われたことがありますが、そういう人たちはたいてい男客です。女性は頭がやわらかいらしく、身体にいいと知ったら、食生活を変えることに躊躇しません。家でも野菜中心の食事をし、子供には弁当を持たせます。そのうちの一人が日本に行き、帰って来て口にしたのが、「どこに行っても、ホワイト・ライス。ブラウン・ライスと言ったんだけど、やはり出てくるのは、ホワイト・ライス」(80年代の話です。今は、そんなことはないでしょうけど)。店に来る客も多いのは女性です。20人くらいいる客の全員が女性という光景もしばしば見ました。現在でも6、7割は女性客です。男は臆病なくせに命を大切にしないのです。「酒を飲み、好きなものを腹一杯食べて、ころりと死んだら、それで本望だ」せっかく食の大切さを教えてやっているのに、私の日本人の友達はみな、そう、うそぶきました。
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私の両親をアメリカに招待した70年代の終わり、長い間親不孝をしているから、おいしいものを食べに連れて行きたいという気持ちもありましたが、両親に長生きしてもらいたい私は、心を鬼にして野菜と穀物中心の食事をさせました。父はもともと食事に贅沢する人ではなかったから平気でしたが、母は、「アメリカは肉が安いはず、アメリカに来たときくらい、食べてもよかろうもん」と不平そうでした。
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両親とも、96歳で亡くなりました。長寿を全うできた一番の原因は、粗食のせいだろうと思っています。食卓にあるのは、ご飯のほかには味噌汁と魚と野菜と麺類です。宮沢賢治の「一日玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ…」を思い起こします。私たち5人兄弟が、健康でいられるのは粗食で育てられたからでしょう。感謝しています。
(次回は1月14日号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。