〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(43)

スザンヌも忘れられません。ブロンドの美しい女性で、| |はじめはサーカスティックでよく口の回る女くらいにしか思っていなかったのですが、あるとき自分が受け持つテーブルの客たちと、それぞれ違う話をしているのに気がついたときはびっくりしました。
たとえば一番のテーブルの客たちと映画の話で盛り上がっているかと思うと、二番のテーブルの客たちとは、前に食べに来たときの話のつづきらしく、問われるままに彼女のキャリアの話をしています。三番のテーブルの客とは、「リレーションシップ」の話をしている、といった具合に。
ひとりのウエートレスが受け持つテーブルの数は、だいたい六、七です。彼女はつまり、これら六、七のテーブルの客たちと、オーダーを取るかたわら、それぞれ違う話をしていたというわけです。
話のつづきは、サイド・ディッシュやメーン・ディッシュを運んで行ったときです。「どんな話をしていて、どこまで話していたか、よく憶えているものだ」と私が半分皮肉を交えて言うと、「わたしは女優よ」とさらり。また客に出すチェックの計算をしながら、ウエートレスやキッチンと話をする。「集中しないと間違うぞ」と私が言うと、「間違ったことがある?」
女性はテレビを見ながら電話でしゃべるなど同時にいろいろなことができるらしいからそんなにおどろいてはいけないのかもしれないが、車を運転するときは運転だけといった具合に一度にひとつのことしかできない私からみれば、一度に十人のひとたちの話を聞いたといわれる聖徳太子を思いだして感動さえするのです。
(次回は2月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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