マクロビオティック・レストラン(57)
このあいだまでもうかっていたのが、うそのように、もうからなくなりました。だからといって、前のやり方に戻すわけにはゆきません。
いったいどのくらいの利益があれば、オーナーは満足するのか、業種やオーナーの人柄によっても違うので一概にはいえませんが、――いずれにしても私はまだオーナーではないので彼らに従うしかありません。
成績が落ちこんだ場合、取られる手段はトップのクビをすげかえるか、売りに出すかのいずれかでしょう。
売りに出されることになりました。
久しぶりにニューヨークにやってきたH夫人といっしょに、私たちはいくつかのレストランを回りました。H夫人は身体が弱いので無理はできませんが、それでも何軒か回りました。
だれも興味を示しませんでした。いちばんの原因は、ロケーションです。前にも言いましたように七十年代のアッパー・ウエストサイドは、まだ人通りもすくなく、垢抜けしない商店やレストランが点々と並んでいるだけで、あまり魅力的な通りではなかったのです。
「あなた買ったら、値段はいくらでもいいわ。そのほうがHもよろこぶと思う」再びニューヨークにやってきたH夫人は、私に言いました。みんなで検討した結果そういう結論に達したのでしょう。
H夫人に言われるまでもありません。私が買うのが、いちばん筋が通っています。――私もそのことはずっと考えていました。私がオーナーになれば、すべてがいままでどおりでいいし、オーナーがかわったことさえ、気がつかないひとが多いでしょう。
だが、問題がありました。
(次回は9月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。