日本クリニック「医療の時間」第26診
ランナーはトレーニング計画の中に栄養補給の計画を入れるのを忘れがちです。実は栄養補給は耐久運動選手にとって、基礎となる大切な存在です。彼らの肉体を二つの燃料タンクを持ったレースカーに例えると、脂肪を燃料にしているのがタンクAだとします。この脂肪は軽い有酸素運動で使われ、7万キロカロリーが燃焼可能です。タンクBは体に蓄えられた糖質を燃料とし(筋肉か肝臓に貯蔵されたグリコーゲン)、激しい運動で使用されます。運動の激しさが増すにつれ、タンクAの脂肪の燃焼量は下がり、体はタンクBの糖質に頼ることになります。しかし人間の体は一度にたった2000キロカロリーのグリコーゲンしか蓄えることができません。これらは筋肉と脳の活動に使われます。そして体中のグリコーゲン残量が少なくなるという“ガス欠状態”になると、脳や筋肉が疲労して急に動きが悪くなります。これをランナーは英語で「hitting the wall(壁にぶつかる)」といいます。この時点で燃料の使用はタンクBからタンクAに100%切り替えなければなりません、それには時間もかかりますし、多くのランナーがこの切り替えに苦労しています。
私たちが90分以下の運動をする場合、タンクBの燃料だけで十分に事足りるでしょう。しかし90分以上の運動をする時、ガス欠を予防しマラソンの壁にぶつかないようにしてくれる栄養補給計画がとても重要となってくるのです。この計画には次の四つのポイントがあります。それぞれとても重要ですので、しっかりと計画をたてましょう。
(1)運動前 燃料を満タンにせずに走り出すレースカーなどありませんよね? マラソン選手も同じです。運動の3〜4時間前に300〜600キロカロリーをごはん、パン、麺類、パスタ、イモ類、餅などの糖質食品(糖質2〜3グラム×体重キログラムが理想)と、残りはプロテインで取ります。走行中の消化不良を防ぐため脂肪分とファイバーは少なめに。空腹でなくても、長時間運動をする際は必ず何か食べましょう。そして3〜4時間前に2〜4カップ、1時間前には1〜2カップの水分を摂取しましょう。
(2)運動中 栄養補給の機会はよく計画されたピットストップのようなものです。疲労防止とエネルギー持続のためには、体には手軽でかつ消化に良い糖質食品が必要です。補給は45〜60分ごとに行います、米国スポーツ医学学会は、長時間運動の場合、毎時間/30〜60グラムの糖質食品を取ることを推奨しています。最高の成績のためには、体に十分な水分と電解質を補うことも大切です。運動時間が90分以下でも運動量が多い場合は、水の替わりに、スポーツドリンクかエナジーゲルを補給する方が良いでしょう。
(例)中程度の運動の場合、蜂蜜、バナナ、オレンジなど。激しい運動の場合、毎時間100ミリリットル〜300ミリリットルの水分補給
(3)運動後 トレーニング後の食事は体の回復も兼ねています。30分以内に取るようにしましょう。耐久運動の選手は300〜400キロカロリー(75〜100グラムの糖質食品、6グラムのプロテイン)を食す必要があります。糖質とプロテインの割合は2:1になるようにしましょう。ただ長時間で運動量の多い場合は3:1でもいいでしょう。
(例)チョコレートミルクやヨーグルトとフルーツのスムージー
水分補給については、運動後は減った体重0・5キロごとに2カップの水分を摂取するようにしましょう。
(4)毎日の栄養補給 最後に、ガス欠状態を防ぐために糖質の多い食生活を継続することが重要です。たくさんの穀物、果物、野菜と脂肪分の少ないプロテイン(クッキーやチップスではありません)は、体の筋肉に長時間運動にも充分な蓄えをもたらすでしょう。
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皆さん、マラソンを楽しむためにも栄養補給もしっかりと計画に組み込みましょう。Have a good Marathon!
(参照:米国スポーツ医学大学の研究報告)
(次回は6月16日号掲載)
〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
University Ortho of NY/23-18 31st St, #210, Astoria, NY 11105
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。