日本クリニック「医療の時間」第36診
近年さまざまなランニングのトレンドがありますが、その陰には科学的研究の欠如や不十分さという問題があります。科学的研究は生物力学を理解する事はとても大切です。ここ最近のトレンドでは、ベアフットランニング(裸足感覚での走行)や、ミニマリズムシューズでのランニングがあります。最近このベアフットランニングについて、さまざまなリサーチが行われていて、運動学的にみて、走行スタイルと運動エネルギーの分散の仕方に変化を起こすことを示す証拠が続々と挙っています。
ほとんどの人がランニングをする時、かかとから着地するRFS(Rear foot Strike)で走行していますが、ベアフットランニングの場合、つま先から着地するFFS(Fore foot Strike)での走行方法に切り替わります。このFFS走行の場合、普通、着地時のショックエネルギーをより分散させます。このことはランニングスタイルに変化を起こし、腰への負担を減らすことが予想されます。なぜならランニングよる腰のケガは、だいたいが着地時の衝撃が体を伝わるためです。いかに着地時の衝撃を和らげるかを見つけることが、腰への負担を減らすことへの第一歩となり、ケガの発生の軽減にもなるでしょう。
2013年3月の米国スポーツ医学学会による研究で、ランナーの走行スタイルを変化に伴う、腰の姿勢、着地時のショックの軽減、そして走行時の痛みについての関係を調査するために、以下の実験を行いました。
被験者にはRFS走行とFFS走行、そしてベアフットランニングをそれぞれランニングマシーン上で行わせ、走行時の体の様子を撮影することで、それぞれの運動学と運動エネルギーを調査した結果、以下の事が明らかになりました。
(1)RFSからFFS走行に変えることで、走行時の腰椎の過剰な動きが軽減された。しかし走行時の姿勢に特に変化は生じなかった。
②RFS走行時の着地時のショック量は非常に強い。
(3)しかしながら、ランナーはRFS走行の方が、心地良く感じている。
この結果から、脊椎にケガなどの問題がなければ、RFS走行からFFS走行への移行は、走行時の姿勢に変化が起こらないため、特に長所がないようです。しかし、着地時のショックによる背骨の動きについては、RFS走行パターンの方がより腰椎に負担が大きいため、脊椎に問題がある人にはダメージが大きいと考えられます。
FFS走行は脊椎、主に椎間板のショック吸収構造の退化を防いだり、遅らせたりできる可能性があります。一方で、FFS走行はRFS走行に比べると、走行時の足の心地が良くないと被験者が感じているとの結果が出ています。これは私たちが、ヒールクッションの入った靴を履いて育ってきたため、体が自然とRFS歩行に適応し、使用頻度の少ない部位、筋肉は退化したためと考えられます。以上の理由から、いきなりベアフットランニングのような走り方に戻ると、足に痛みを感じたり、ケガの要因にもなるでしょう。しかし研究結果からも分かるように、FFS走行のような人間の本来の走り方の方が長い目で見ると、健康にはいいでしょう。ベアフットランニングにトライする場合は、少しずつ体に耳を傾けながら慣らしていく事が大事でしょう。
皆さん、ランニングはとても健康に良いです、それぞれの体にあった、走り方で楽しくランニングしましょう。Let’s Exercise !
(米国スポーツ医学学会研究報告から) (次回は5月25日号掲載)
〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
University Ortho of NY/23-18 31st St, #210, Astoria, NY 11105
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。