日本クリニック「医療の時間」第42診
体内時計とは、24時間周期で私たちの毎日の生活を支えるサイクルです。まるで時計のように正確に私たちの体を外界の日夜の周期に同調させてくれます。この時計は脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部位にあって、いろいろな要素がこの時計を自然界の時間と同調させています。特定の要素がこの時計への影響を及ぼすことが分かっていて、その一番代表的な存在は日光です。ですから、朝の光を日常的に浴びることは、体内時計を正確に保ち、毎日を健康に過ごす上でとても重要です。旅行などで時差ぼけが生じた時も、現地で朝から日光を浴びることで、症状は徐々に緩和されていきます。先月の米国スポーツ医学学会の研究報告は、今年行われた最新の研究を含む包括的な結果報告で、とても興味深いものでした。
研究では、損傷した視交叉上核を持つ動物を観察したところ、食事、睡眠、運動などが日夜関係なく行われるといった不規則な生活を行うことが分かりました。また、視交叉上核を損傷した動物に、健常なものを移植すると、生体リズムが通常に回復したことが判明しました。これによって、脳の視交叉上核という部位が体内時計を正確に働かせる重要な部位であることが分かります。
皆さんは、体内時計は脳にだけあるのではないことを知っていましたか? 次の研究結果によると体内時計は肝臓にもあることが判明しました。さらに、飲酒や運動などが肝臓の体内時計のリズムに影響を及ぼすことも判明しています。現代人の飲み過ぎが体内時計を狂わせ、生活リズムを崩れさせ、睡眠にも悪影響を及ぼします。また研究者は肺にも体内時計を発見しています。これも日常的に有酸素運動をする人が良質な睡眠を取れることで見て取れるでしょう。
今年の研究結果では、何と筋肉にも体内時計があることが発覚しました。多くの筋肉部位に時計遺伝子が確認されたのです。これらの遺伝子は毎日活動し、筋肉維持に必要不可欠です。研究では損傷した時計遺伝子を持つ動物は27時間の体内時計サイクルを持つことが分かりました。これは私たちの24時間サイクルの脳の時計と筋肉の時計とかけ離れていることを意味します。仕事をし過ぎた日に疲れているのに夜眠れない|。そのような場合は、実は多大なストレスが筋肉にダメージを与え、それにより筋肉中の時計が狂ってしまった可能性があります。
最近の体内時計の研究は、筋肉の時計についてが多いです。パート2ではもっと詳しく、どんな要素が筋肉時計に影響を及ぼすかなどについてお話したいと思います。(参照:米国スポーツ医学学会研究報告)
(次回は11月第4週号掲載)
〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。