次期学習指導要領、大学入試センター試験廃止、教育のグローバル化の影響
「在米親子にアドバイス」日米の教育事情
米日教育交流協議会・代表 丹羽筆人
小学校で2020年度から、中学校が21年度から、高校は22年度から学年ごとに導入される次期学習指導要領では、高校と小学校で大きな変化が見られそうです。20年度には、大学入試センター試験が廃止され、新テストが始まります。新テストでは実践的な英語力を測るようなテストが導入される模様です。また、文科省の教育のグローバル化の方針を受け、大学には英語のみで学位が取得できるコースが続々と登場しています。日本の教育および大学進学は、ますます変化することが予想されます。
高校では新科目が登場、小学校の英語は現行の3倍に
次期学習指導要領の変更点を見ていくと、高校では、日本史と世界史を融合し主に近現代史を学ぶ「歴史総合」、環境問題など地球規模の課題を考える「地理総合」、選挙権が18歳以上に引き下げられることを意識し、討論や模擬選挙などの活動を通して政治参加意識を育む「公共」などの新科目が必修化されます。また、数学と理科の知識を総合的に生かしながら主体的に実験などを行う「数理探究」も選択科目として導入されます。
20年度から大学センター試験に代えて導入される「大学入学希望者学力評価テスト」では、複数科目を組み合わせた合科目型、教科の枠を超えた総合型を導入し、教科型を廃止する方針です。「歴史総合」、「地理総合」、「数理探究」の導入は、このような大学入試改革の動きが影響していることが感じられます。
小学校では、英語が5・6年生で必修となり、外国語活動が3・4年生でも実施され、授業時間数は現行の3倍となります。これは、多くの高校3年生の英語力が中学校卒業レベルにとどまっていることが背景にあるようです。また、大学入試改革では、TOEFLのような実践的な英語力を試す外部テストの導入も検討されていることも影響していると思われます。
中学校は、特に変更点は公表されていません。ただし、高校の学習指導要領の変更が、高校入試に影響を与える可能性はありますし、今後何らかの変更があることも考えられます。
いずれにしても、今後の学校教育では、知識を蓄えるだけではなく、知識を生かして考えたり工夫したりすること、自分の意見を発表することができる力の習得が求められます。ただし、帰国生にとっては大変なことではなく、このような教育は、アメリカの学校で実践されているものであり、そういう意味ではむしろなじみやすいともいえそうです。
実践的な英語力と思考力・判断力・表現力の育成を図る
大学入試センター試験に代わり、20年度から始まる大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の出題科目数は簡素化されますが、新学習指導要領に登場する新科目の導入が検討されています。他科目や社会的事象と関連を意識した出題やセンター試験よりも高難度の選択問題の出題、1点刻みではなく多段階による成績表示、複数回の受験機会なども検討され、英語では、「話す・聞く・書く・読む」の4技能のテストを実施する民間機関との連携も検討されています。
また、記述式問題についてコンピュータによる採点支援が検討されています。23年度までは数十文字程度の短いものになりそうですが、24年度からは長文の記述にも対応できるよう受験生がパソコンやタブレット端末などを使って受験する方式の導入も検討中です。新テストに記述式問題を導入する背景には、知識量だけではなく、「思考力、判断力、表現力」という考える力を測ろうという大学入試改革の動きがあります。選択式のみの現行のセンター試験では把握できなかった表現力が重視されることになります。
20年度は現在の中学1年生、24年度は現在の小学3年生が大学を受験する年に当たります。つまり、現在の中学1年生以降の学年の子どもは、新テストの受験対象となるため、これまでのように知識を蓄えるのではなく、「思考力、判断力、表現力」を養う学習が必要になります。また、新テスト導入を含む大学入試改革では、各大学の実施する入試でも、「思考力、判断力、表現力」を測るものとすることが検討されています。
海外で学ぶ子どもにとっては、日本語でこれらの力を発揮できるように準備する必要があります。これまでは、補習校や学習塾で知識を短い時間で集中的に学習し、何とか受験にも対応できましたが、これからは学習方法を転換する必要があるでしょう。特に、与えられた課題について、自分の考えを日本語の長文で表現する力を養う学習を意識的に行うことが大切なのです。もちろん、日本の高校の授業にも変化が見られるでしょうし、補習校でもそれに合わせることが課題となりそうです。
英語の授業のみで学位の取得できる大学が増加
日本の大学も変化が著しいです。9月や10月などに入学できる大学が登場しています。東北、秋田、筑波、横浜国立、新潟、国際教養(秋田公立)、日本工業、慶應義塾、国際基督教、上智、東京電機、明治学院、早稲田、四天王寺、立命館アジア太平洋などです。
また、英語の授業のみで卒業できる大学・学部もあります。国際教養(国際教養)、上智(国際教養)、多摩(グローバルスタディーズ)、法政(グローバル教養)、早稲田(国際教養)、立命館アジア太平洋(アジア太平洋、国際経営)、宮崎国際(国際教養)などです。さらに、文部科学省のグローバル30という留学生受け入れプロジェクト指定の13大学(東北、筑波、東京、名古屋、京都、大阪、九州、慶應、上智、明治、早稲田、同志社、立命館)にも英語の授業のみで卒業できるコースがあります。
これらの大学は、主に留学生を対象にしていますが、帰国生も受験可能な大学もありますし、国内生に門戸を開いている大学もあります。いわゆる大学のグローバル化は、今後ますます進むでしょう。つまり、高校卒業後の進路の選択肢はますます多くなるということです。
このように、今後の子どもたちに求められることは、幅広い視野で考え、日本語はもちろん、英語でも表現できる力です。そう意味では、海外生活を経験した子どもは有利ともいえます。ぜひ頑張ってほしいですね。
【執筆者】にわ・ふでひと 河合塾在職後に渡米し、北米の補習校・学習塾講師を歴任。現在は、「米日教育交流協議会(UJEEC)」の代表として、「サマー・キャンプ in ぎふ」の企画・運営、河合塾海外帰国生コース、文京学院大学女子中学校・高等学校、名古屋国際中学校・高等学校、名古屋商科大学の北米担当などを務める。他にデトロイト補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)
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